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急性冠症候群 ACS: acute coronary syndrome

病態/分類

ACS(acute coronary syndrome:急性冠症候群)冠動脈のプラーク破綻とそれに伴う血栓形成により冠動脈内腔が急速に狭窄、閉塞し、心筋が虚血、壊死に陥る病態を示す症候群。閉塞・狭窄をきたすことで心筋虚血に陥る病態。
UAP, NSTEMI, STEMIに分類され、心電図変化の有無心筋逸脱酵素上昇の有無から分類します。
・徐々に冠動脈に狭窄をきたす労作性狭心症とは異なる過程のため(ここが循環器非専門医が最初誤解する点です)、ACSという独立した疾患概念として理解する。

臨床像/診断

急性冠症候群診断の3ポイント
1.臨床症状
2.心電図
3.心筋逸脱酵素

1:臨床症状
・典型的な症状は胸骨裏の圧迫感、冷や汗、肩への放散痛(その他頸部や顎、歯)、嘔気などが挙げられる。
・非常に限局した狭い範囲、深呼吸で悪化、体位での変化、圧痛などは筋骨格系を疑う症状であり可能性を下げる症状。
・特に誤診しやすい注意するポイントを以下にまとめる
ポイント1:嘔気、嘔吐のみの症状の場合がある *嘔気に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください
・特に高齢者、糖尿病患者で無痛性の場合があり注意。心筋梗塞の2/3に嘔気、1/3に嘔吐を認め、下壁が多いことが有名だが、下壁60%、前壁40%とどの部位でも嘔気、嘔吐を認める(参照 Am J Cardiol 2009;104:1638)。
高齢者の嘔気は全例心電図を確認する(救急外来でも病棟でも)。

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ポイント2:不穏で受診する場合がある
・不穏はなかなかとらえどころのない症候であるが、意識障害の鑑別に加えて必ず急性冠症候群と大動脈解離といった心臓・大血管の評価が必要

2:心電図→ST上昇のチャプターこちらを参照

3:心筋逸脱酵素に関して
・基本的に「トロポニン」を使用し(高感度測定)、「CK-MB」は必要ないとされている。
・トロポニンに加えてCK-MBを加えることで情報は増えないとされており、海外の報告ではCK-MBを検査する必要は無いと断言されている(JAMA 2017;177(19):1508)
・発症から6時間以内でトロポニン上昇がない場合は、1~3時間後にトロポニンの再検を行う。
*ポイント:トロポニン上昇の解釈に関して 参考:Circulation. 2018;137:250–258
*トロポニンに関してのまとめはこちらを参照ください

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治療

1:STEMIの場合→緊急で循環器専門医に相談(PCI・血栓溶解療法)
2:NSTEMI, UAPの場合→リスク評価で治療方針が決まる(循環器専門医に相談)

救急で行うべき対応
1:酸素投与
 酸素飽和度<90%の場合酸素投与 *酸素投与一般に関してはこちらを参照ください

2:抗血小板薬 アスピリン:バイアスピリン100mg 2錠砕いて内服+P2Y12受容体阻害薬:プラスグレル(商品名:エフィエント)20mg 1錠内服(もしくはエフィエント5mg 4錠内服)もしくはクロピドグレル(商品名:プラビックス)75mg 4錠内服
*抗血小板薬に関してはこちらを参照ください

3:硝酸薬 ニトログリセリン(商品名:ニトロペン)ニトロペン舌下錠0.3-0.6mg舌下 もしくはニトロペンスプレー0.3mg 1回口腔内噴霧
*硝酸薬投与前のチェック項目
・収縮期血圧90mmHg未満:低血圧は投与避ける
・心電図:Ⅱ、Ⅲ、aVFのST上昇:右室梗塞禁忌
・既往歴:勃起不全、肺高血圧症:PDE阻害薬との併用禁忌
・第二肋間収縮期雑音:HOCM、大動脈弁狭窄症は禁忌

4:鎮痛 モルヒネ
製剤:10mg/1mL, 50mg/5mL, 200mg/5mLなど
塩酸モルヒネ2-4mg 静注 効果不十分の場合は5-15分ごとに2-8mg追加

ACS急性期後の管理

合併症
冠動脈造影検査に伴う合併症(穿刺部血腫、コレステロール塞栓、脳梗塞、造影剤腎症)の確認
機械的合併症(自由壁破裂・心室中隔穿孔・乳頭筋断裂)とステント内血栓

薬物治療
抗血小板薬:DAPT維持量 *DAPTの期間は循環器専門医と確認
(例)アスピリン(バイアスピリン)100mg + P2Y12受容体阻害薬プラスグレル(エフィエント)3.75mg もしくはクロピドグレル(プラビックス)75mg
ACE阻害薬/ARB導入
(処方例)エナラプリル2.5mg 1錠分1 *ACE阻害薬/ARBに関してはこちらを参照ください
β遮断薬導入
(処方例)カルベジロール1.25mg 2錠分2、ビソプロロール0.625mg 1錠分1 
スタチン導入
(処方例)アトルバスタチン10mg 1錠分1 *スタチンに関してはこちらを参照ください
その他生活指導
・禁煙
・食事指導、運動

参考文献:急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)日本循環器学会 2019年6月1日更新、2019年3月29日発行