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抗血小板薬 antiplatelet drugs

1:血小板の生理

普段私たちの血管内皮細胞はNO(一酸化窒素)やPGI2(プロスタグランジンI2)などの働きによって、血栓が出来ないようにしています。しかし、血管壁が破綻して出血をすると血小板が止血において重要な役割を担います。

血管内皮細胞が障害されると、vWF(von Willebrand因子)を介在して、血小板がくっつきます。血小板はここで、ADP(アデノシン二リン酸)やTXA2(トロンボキサンA2)といった血小板凝集を集める物質の放出や、フィブリノーゲンを介在して血小板同士をくっつけるためにフィブリノーゲン結合部位を誘導します。こうして活性化した血小板が多数フィブリノーゲンを介して結合し凝集することで血小板血栓を作ります(一次止血)。

同時に血管内皮障害によりTF(組織因子)が露出することで凝固カスケードが起こり、フィブリンがこの血小板血栓を安定化させます(二次止血)。

2:抗血小板薬の作用機序

これまで血小板がどのように止血の役割を担うかを解説してきました。以下に抗血小板薬がどこの機序に働くことで抗血栓作用を担うかをまとめます。

3:アスピリン Aspirin

化学物質名:アセチルサリチル酸
一般名:アスピリン *化学物質名からわかる通り「ピリン系」ではない
商品名・製剤
・バイアスピリン®:腸溶錠 100mg/1T 名前の由来はバイエル社のアスピリン(バイ:Bayer社のBay) *経管からの投与不可能
・バファリン配合錠®:81mg/1T or 330mg/1T 名前の由来は”buffer in”でバファリン
・アスピリン®:粉末

■作用機序:COX阻害 *NSAIDs一般に関してはこちら

COX阻害により血小板で血小板活性化作用のあるTXA2産生を抑制することで抗血小板作用を持ちます。普通に考えるとCOX阻害により血管内皮細胞での抗血栓作用を持つPGI2産生も抑制してしまいます。しかし、アスピリンが低用量の場合、血管内皮細胞は核があるため蛋白合成が行われますが、血小板は核が無いため蛋白合成が行われず、結果PGI2は産生されるが、TXA2は産生されないとされています。このためアスピリンが高容量だと血管内皮細胞でのPGI2も抑制されてしまうことで、結果抗血小板作用が相殺されてしまうとされています(アスピリンジレンマ)。

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■副作用

COX1阻害による胃粘膜障害が代表的です。この副作用を緩和するために腸溶錠(バイアスピリン®)や胃粘膜保護のバファリン®が市場にはありますが、胃粘膜障害のリスクは変えないとされています。これは結局アスピリンによる直接的な粘膜障害よりも、吸収後の全身投与によるCOX阻害作用が胃粘膜障害に大きな影響を与えているためと思われます。バイアスピリン®はこのように腸溶錠なので吸収に時間がかかり、STEMIですぐに効果発現が必要な場合などはかみ砕いで内服してもらう必要があります。 

AERD(aspirin-exacerbated respiratory disease)はアスピリン喘息と日本語では表現されますが、実際には「アレルギー反応」ではなく、COXが阻害されることでアラキドン酸カスケードがロイコトリエン系にかたむくことで、喘息が誘発される病態を表しています(下図参照)。

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4:オザグレル ozagrel

商品名・製剤:カタクロット®・キサンボン® 

■作用機序・適応

アスピリンはTXA2にいたる経路の阻害でしたが、オザグレルはTXA2を直接阻害することで抗血小板作用を持ちます。アスピリンと異なりCOXは関与しないため、血小板凝集抑制作用のあるPGI2には影響を与えません。脳梗塞急性期(ラクナ梗塞・アテローム性梗塞)で日本では使われる場合がありますが、エビデンスには乏しく基本は使用しない薬です。アスピリンの内服がどうしてもできず胃管も入れない場合などにやむなく使用することがあります。

処方例:オザグレル80mg + 5%ブドウ糖液100ml 2時間かけて投与 1日2回 14日間投与

5:チエノピリジン系

一般名:商品名
・クロピドグレル(プラビックス®)75mg/1T or 25mg/1T *loading:300mg
・プラスグレル(エフィエント®)3.75mg/1T or 5mg/1T or 20mg/1T *loading:20mg
*チクロピジン(パナルジン®)は重篤な副作用(TTP、無顆粒球症、肝機能障害)が多く新規に処方することはないため割愛。

■作用機序

チエノピリジン誘導体はプロドラッグで、肝臓のCYPで代謝を受けて活性型となり、ADP受容体のP2Y12受容体を阻害することで抗血小板作用を持ちます(下図N Engl J Med 2009;360:363)。クロピドグレルは全体の15%しか代謝活性を受けず、またCYP2C19代謝を受けるので、この遺伝子多型により個人差があることが知られており、responder, non-responderの概念があります(特にアジア人で多いとされています)。クロピドグレルはCYP2C19で2段階の代謝を受けますが、プラスグレルは1段階のみ、チカグレルは代謝を受けないことからこれらの影響を受けにくいとされています(下図Nat. Rev. Cardiol. 8, 547–559 (2011)より参照)。

またこのようにプロドラッグで活性型になるまで時間がかかるため、基本的にはloadingしてから使用を開始します。クロピドグレルの場合は75mg/1錠が通常なので初回投与は300mg(つまり4錠)loadingし、それ以降は75mg/日で維持投与慮とします。

■副作用

クロピドグレル:消化管出血に関してはアスピリンよりも少ないもしくは変わらないとされています。それ以外には血球減少、皮疹、肝機能障害のリスクがあるためクロピドグレル開始後は採血フォローが必要です。

薬剤開始から14日以内で特に注意が必要なのがTTP(Thrombotic thrombocytopenic purpura)で、もともとチエノピリジン誘導体のチクロピジンで多く、クロピドグレルでの頻度はかなり少なくなっていますが、報告があり注意が必要です(NEJM 2000;342:1773)。

代謝酵素のCYP2C19とPPIが競合することでクロピドグレルの作用を弱めるのではないかとされており、CYP2C19阻害作用からいうとオメプラゾール>ランソプラゾール>ラベプラゾール>エスメプラゾールとなっています。しかし、その後関係はないという研究もあり結論は難しいです。安全策はPPI併用時はエスメプラゾール(ネキシウム®)にすることかもしれません。

6:シロスタゾール cilostazol

商品名・製剤:プレタール® OD錠:50mg/1T or 100mg/1T

■作用機序・適応

PDE3阻害薬で、血小板内のcAMP濃度を上昇させ血小板の活性化を抑制する働きをします。PDE3は血管平滑筋にも存在し、PDE3阻害薬は血管拡張作用をもつことが特徴です。この血管拡張作用により慢性動脈閉塞症の第1選択、また日本では脳梗塞に対する適応があり、副作用の頭痛もこの血管拡張による機序が推測されています。出血合併症が他の抗血小板薬よりも少ない可能性が指摘されています。

■副作用

シロスタゾールは代表的な副作用として頻脈頭痛の2つが特に重要です。

頻脈は特に背景に虚血性心疾患がある場合、心房細動などの頻脈性不整脈がある場合は問題になるため心疾患が既往にある場合は基本的には使用しないようにします。

頭痛も頻度が多い副作用ですが、経過で慣れが生じて問題なくなる場合もあります。使用量を50mg 2T2xと低用量から開始して数日経過をみて(例えば3日間)、問題なければ100mg 2T2xへ増量するという方法が有効です。一度頭痛があると辛くてもう飲みたくないとなってしまうので、出来れば低用量から増量するやり方が安全です。

参考文献
・Hospitalist抗血栓薬