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アルコール使用障害/アルコール離脱

0:アルコール使用障害(アルコール依存)の評価

スクリーニング検査“CAGE”:以下4項目中2項目以上該当
Cut down:飲酒量を減らさないといけないと感じたことがある
Annoyed by criticism:他人に飲酒に関して指摘され気に障ったことがある
Guilty feeling:飲酒に関して罪悪感を持ったことがある
Eye-opener:迎え酒をしたことがある

1:アルコール多飲患者で注意するべき合併症

・外傷:慢性硬膜下血腫
・消化管:アルコール性肝硬変、肝性脳症、食道静脈瘤、上部消化管出血
・中枢神経:ウェルニッケ脳症(ビタミンB1欠乏)
・代謝障害:低血糖、アルコール性ケトアシドーシス、電解質障害(低Na血症、低K血症、低Mg血症、低P血症)
・薬物中毒:特にベンゾジアゼピン系は飲酒で作用が増強するため注意が必要
・アルコール離脱症候群

2:検査

・採血検査:血算・電解質(Na, K, Cl, Mg, P)・血糖値・血漿浸透圧
(±アルコール性ケトアシドーシスを疑う場合はケトン三分画も提出)
・血液ガス検査
・ビタミンB1(+ビタミンB12,葉酸)
・頭部CT検査:慢性硬膜下血腫
*背景のアルコール多飲を疑う採血上のヒントとしては大球性貧血(アルコールによる葉酸欠乏)、低Mg血症などが挙げられる(こちらも参照)

3:アルコール離脱 alcohol withdrawal

■ポイント
全ての患者は入院の時点でアルコール離脱のリスクがあるかどうか?評価するべき(予防可能な病態)。
・診断は「最終飲酒時間からの時間経過」「臨床症状」で行う(あくまで臨床診断であり、検査で診断することは出来ない)。入院早期の患者の頻脈や幻覚、発汗などで必ずアルコール離脱を鑑別に挙げる必要がある。
・予測スコアはPAWSSがあるがあまり有用ではなく、予測スコアに頼らず疑わしければアルコール離脱予防(ロラゼパム内服)を導入する。
症状の重症度評価と治療介入の基準にはCIWA-Arが有用(予測のためのスコアではない点に注意)。
・治療はベンゾジアゼピンが第1選択でジアゼパム静注を躊躇なく行う必要がある。
ビタミンB1補充を忘れない。

症状(最終飲酒からの時間) 参考:UpToDate ”Alcohol withdrawal: Epidemiology, clinical manifestations, course, assessment, and diagnosis”(2021/4/21閲覧日)

*参考:DSM5の診断基準

予測スコア:PAWSS ”Prediction of Alcohol Withdrawal Severity Scale”というものが報告されているが、あまり実用的ではなく筆者は使用していない (参考:Alcohol 2014 Jun;48(4):375)。

症状の評価:CIWA-Ar
*注意:CIWA-Arはあくまで離脱症状が既に出ている状態の評価であり、離脱の予測には使用出来ない。参照:Br J Addict 1989;84:1353

■治療
1:アルコール離脱予防
2:アルコール離脱治療
3:ビタミンB1補充

1.アルコール離脱予防
アルコール離脱を予測する有用なスコアはない(前述の通りPAWSSは実臨床ではあまり役立たない・CIWAは予防には使用できない点に注意)
*ロラゼパム 商品名:ワイパックス
製剤:0.5mg, 1.0mg/錠
・肝臓のCYPを介さない代謝のため肝機能障害患者でも使いやすく、アルコール離脱予防で使用する機会の多い薬剤。
・アルコール離脱予防での投与量と投与期間に明確な基準はないため以下は参考。
(処方例:アルコール離脱予防)
ロラゼパム(ワイパックス)1.0mg 4錠分4(各食後+眠前) 3日間投与後
ロラゼパム(ワイパックス)0.5mg 4錠分4(各食後+眠前)を4日間投与し終了(計7日間)

2.アルコール離脱治療
CIWA-Ar8点以上で治療介入するべき
・治療薬はベンゾジアゼピン系が第1選択:ジアゼパムの静注
(処方例)ジアゼパム5-10mg静注、評価を繰り返してCIWA-Arスコア8点以上が持続する場合は静注投与を繰り返す
・ベンゾジアゼピン静注薬は普段の感覚よりもはるかに多い投与量が必要となる場合がありつい投与を躊躇してしまう場合があるが、致死的な病態であるため治療介入が遅れず、かつ十分量投与することが重要。

3.ビタミンB1補充
・アルコール依存患者はビタミンB1欠乏のリスクが高く、閾値を低くビタミンB1を投与する(むしろ投与しなくて良い理由があるか?を探した方が良い)。
・特に意識障害を認める場合は、ウェルニッケ脳症に準じた投与量(ビタミンB1=1500mg/日)を連日投与する。
・そうでない場合は予防としてビタミンB1=100mg/日の投与。

*参考:ウェルニッケ脳症の治療レジメン
・ビタミンB1の投与量/方法に関する前向き研究はなく、現時点で定まった方法はない。ここでは例(参考:Lancet Neurol 2007; 6: 442–55)を紹介する。
(処方例)
最初2日間:ビタミンB1:500mg + 生理食塩水100mL 30分かけて点滴静注 1日3回(=ビタミンB1:1500mg/日)
効果ある場合:ビタミンB1:250mg + 生理食塩水100mL 30分かけて点滴静注 1日1回(=ビタミンB1:250mg/日) 3-5日間もしくは臨床的な改善を認めるまで
効果ない場合:投与中止

*参考:ビタミンB1製剤に関して 参考:ビタミンB1=チアミン
1:ビタミンB1,B6,B12混合製剤 商品名:ビタメジン
・内服製剤・カプセルB25:ビタミンB1(チアミン)25mg、ビタミンB6(ピリドキシン)25mg、ビタミンB12(シアノコバラミン)250μg/カプセル
・静注用製剤:ビタミンB1(チアミン)100mg、ビタミンB6(ピリドキシン)100mg、ビタミンB12(シアノコバラミン)1mg/V
(処方例)
ビタメジン5V(ビタミンB1=500mg) + 生理食塩水100mL 30分かけて点滴静注

2:ビタミンB1製剤 商品名:アリナミンなど
製剤:様々
(処方例)
ビタミンB1製剤500mg + 生理食塩水100mL 30分かけて点滴投与

*注意:ビタミンB1,B6,B12混合製剤のみでビタミンB1=1500mg/日の投与を連日行うとビタミンB6の過量投与になってしまうため、ビタミンB1=1500mg/日長期間投与する場合はビタミンB1単独製剤の投与も併用する方が望ましい。
(処方例)
ビタメジン5V + 生理食塩水100mL 30分かけて点滴静注 1日1回
アリナミン500mg + 生理食塩水100mL 30分かけて点滴静注 1日2回
→計ビタミンB1:1500mg/日