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一過性脳虚血発作 TIA: transient ischemic attack

個人的にはTIAの診断は病歴聴取能力をよく反映した疾患と思っており、研修医の先生にも積極的に指導している疾患です。高齢者の「なんとなくちょっと調子がわるかった」が全てTIAになってしまうとその後ずっと抗血栓薬を内服しつづけないといけない代償が大きいですし危険です。

臨床像/診断のポイント

・神経症状の持続時間は通常「秒から分単位」(通常1時間以内)のことが多いです。これより長い時間だと通常梗塞として完成してしまう場合が多く、何時間も持続した症状の場合はTIAの診断として違和感を持つべきです。
・どうしても今神経症状がないと医者側も安心してしまいがちですが、神経症状がない今だからこそ介入しないといけない緊急疾患である認識を持つ必要があります(TIAは未治療の場合約10-20%で脳梗塞に伸展してしまうため)。脳梗塞はある程度完成してしまうと介入の余地が少なくなるため特に発症前のTIAの時点でintensiveに介入することが重要です。

TIAの診断は病歴が全てであり検査で診断は出来ません。最も重要なのは「突然発症か?」(血管障害らしさ)という点と「その症状はどの解剖部位に対応する神経症状なのか?」という点を病歴から聴取する点にあります(「突然発症」に関してはこちらをご参照ください)。
・この点をないがしろに診療していると「なんとなく少し様子がおかしかった」高齢者が全てTIAと捉えられてしまいます。「その様子のおかしさは神経学的にどの症候と対応しているか?(例えば失語など)もしくはしていないか?」を確認する必要があります。

普段の脳卒中診療で病歴をきちんと確認しているかどうか?によってTIAをきちんと診断できるかどうかが変わってきます(普段の脳卒中診療での病歴聴取はTIAの診断のために行っているといっても過言ではないかもしれません)。MRIに頼った画像診断だけを繰り返しているとTIA診療の能力は一向に向上しません。
・また利き手と逆側(例えば右利き患者での左上下肢の一過性の麻痺)は診断が極めて難しくなります。利き手出ない方の病歴が取りにくいからである。私は利き手でない側のTIA疑いはいつも「病歴が取りにくくて嫌だな・・・」と思いながら診療しています。
「麻痺」「失調」血管支配が前方循環か?後方循環か?大きく異なるため病歴で可能な限り区別できるように聴取が必要です。例えば「手に持っていたコップを落とした」という病歴は麻痺>>失調を示唆し、「コップを持とうとしたらうまく持てなかった、手がコップにぶつかってしまった」という病歴は失調>>麻痺を示唆します。
*病歴と神経解剖の対応に関してはこちらをご参照ください。

*TIAの定義:「局所脳または網膜の虚血に起因する神経機能障害の一過性エピソードであり、急性梗塞の所見がないもの。神経機能障害のエピソードは、長くとも24時間以内に消失すること。」(2019年10月日本脳卒中学会)
→一時期ややこしくなっていた画像上梗塞巣のあるという概念は存在しなくなった。つまりTIAの定義を満たすためには画像検査が必要。

鑑別

・大動脈解離
・急性脊髄硬膜外血腫:頚部痛の先行、顔面を含まない症状が鑑別のポイント(こちらをご参照ください)
・てんかん発作
・低血糖 など

入院適応に関して:TIAは基本入院精査・ABCD2スコアはあくまで参考

・ABCD2スコアが入院適応の判断として長年使用されてきたが、低スコアの患者でも結局脳梗塞リスクが高いことが報告されています(Neurology 2015;85:373)。
・NICE2019年のガイドラインではABCD2スコアでリスク評価・入院の判断をしないように推奨しています(https://www .nice .org .uk/ guidance/ ng128)。
・私は基本的に全例入院精査を勧めています(理由下記)。
1:増悪時(脳梗塞伸展時)の治療介入
・rt-PAや血管内治療の適応になる(TIAはrt-PAの禁忌事項ではない)
2:病型診断
・神経症状だけからは病型の特定は困難であり、心電図モニターでの心房細動検出、頸動脈エコー、心エコーなどの病型診断に役立つ検査を行い早期から病型やリスクに応じた再発予防に務めることができる。
*ここも意見が色々あるかもしれませんので是非コメントいただければと思います。

治療(脳梗塞への伸展予防)

1.非心原性の場合:抗血小板薬が第1選択(発症48時間以内にアスピリン160-300mg)
・ABCD2スコア≧4点以上の場合:抗血小板剤2剤併用(アスピリン+クロピドグレル)10~21日間(発症24時間以内、クロピドグレルは初回300mgでローディングを行う)参考:NEJM 2013;369:11, NEJM 2018;379:215 *この点に関して詳しくはこちらをご参照ください。

2.心原性の場合:抗凝固療法

参考文献:N Engl J Med 2020;382:1933-41.