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経腸栄養

今回はアンケートにお答えして「経腸栄養」に関してまとめます。栄養は「こうしないといけない」という決まりがなく(栄養剤を比較してハードアウトカムに差が生じることはまずない)、その分「じゃあ結局どうすればよいの?」となりやすい分野と思います。施設によってやり方やローカルルールが多々あるためますます混乱を招きやすいですが、私は大まかな原則に則ってあとはゆるく許容するスタイルで良いのではないかと考えています(つまり「絶対この栄養剤を使って」という様な指導はするべきではないと個人的には思います)。今回私のよく行う具体例を紹介しますが、あくまで一例なのでご参考までに。

0:経腸栄養の可否

・可能な限り経腸栄養を経静脈栄養よりも優先。経腸栄養の場合は基本は「経胃」を投与ルートとして選択。
可能な限り早期(24-48時間以内)に経腸栄養を開始する。

*経腸栄養の禁忌事項
・消化管出血
・腸閉塞、重症下痢、難治性嘔吐
・腸管虚血が疑われる状況
・循環作動薬高容量に必要な状況(ノルアドレナリン>0.1γなど)

1:半消化態、消化態、成分栄養の選択

A:消化吸収機能が障害されている病態
・クローン病、急性膵炎、短腸症候群など→成分栄養剤
・重症患者で消化機能が低下→消化態栄養剤

B:消化吸収機能は保たれている場合→半消化態栄養剤
・病態別栄養剤:糖尿病、肝不全、腎不全用など
・その他一般的な半消化態栄養剤

*経管栄養のエネルギー比率
通常:タンパク質12-20%・脂質20-30%・糖質50-60%、ビタミン・微量元素は各製剤が800-1200kcalで1日必要量を満たす様に仕様

*特殊な製剤に関して
・ペプタメンAF(消化態栄養剤):タンパク質が25%と製剤の中で最もタンパク質の比重が高い
・糖尿病用 グルセルナ:糖質約30%と比重が低い
・肝不全用 ヘパンED(310kcal/1P)、アミノレバンEN(200kcal/p):Fisher比が高い
・腎不全用 リーナレンLP, MP タンパク質の割合が低い

2:投与方法・速度の決定

・経腸栄養は食道を経由しないで胃へ直接栄養剤を届けるため非生理的な部分が大きいため、基本は「早期に少量から開始し合併症がないことを確認し漸増」することが基本。

持続投与間欠投与の2種類がある(持続投与では専用のポンプが必要)。

A:持続投与の場合

(処方例)アイソカル 10ml/hr持続投与 *問題なければ翌日から20ml/hr→30ml/hrと増量していく。40ml/hrが問題なければ間欠投与へ切り替えを検討する。

B:間欠投与の場合

例1:長期絶飲食の場合

(処方例)GFOを1回50mLに溶解し投与 1日3回朝昼夕
→問題なければ翌日から通常の栄養剤から開始

*GFO(グルタミン・ファイバー・オリゴ糖)
・成分:グルタミン(アミノ酸)・ファイバー(食物繊維)・オリゴ糖製剤
・使用法:1袋を水・お湯100-150mlに溶解 各食事で投与

例2:通常の経腸栄養剤から開始する場合

(処方例)アイソカル朝100ml+昼100ml+夕100ml投与 それぞれ1-2時間かけて投与(栄養投与前に胃残量を確認)
*問題なければ200-200-200→300-300-300へと徐々に増量していく。

3:目標カロリーの設定

・初期の経腸栄養開始の目的は「早期に腸管を使う」ことであり、長期的な目標が「必要な栄養を届ける」ことである。
・特に侵襲度が高い病態の急性期は異化が亢進しているため、内因性のエネルギー供給があるため外因性の栄養を与えすぎない”permissive underfeeding”でも問題ない。
最初1週間:超急性期10kcal/kg/日→目標エネルギー量60-80%を目指し漸増
・最終的な目標エネルギー量:25-30kcal/kg/日(理想体重)
*Harris-Benedict式からBEEを計算し、そこにストレス係数と活動係数をかける方法もありますが、この式で計算するととんでもない値になる場合もあります。このストレス係数や活動係数も特にevidenceがある訳ではないため私は計算が大変なのであまり仕様していません。

4:水分量の調節

・大まかな計算方法としては30mL/kg/日で1日必要水分量を求め、点滴、経腸栄養剤の水分量で足りない分を白湯で補う。

「水分量」=「点滴の水分量」+「経腸栄養剤の水分量」+「白湯量」

・経管栄養剤に含まれる水分量:1kcal/mL製剤で約85%、1.5kcal/ml製剤で約50%、2kcal/mLで約35%(例えば1.5kcal/mL製剤のアイソカルプラスでを1日1000mL(1500kcal)投与した場合の水分量は50%の500mL)。

(処方例)白湯朝200ml+昼200ml+夕200ml+眠前200ml (白湯は眠前に追加しても良い)

5:合併症への対応

1:頭部挙上:経腸栄養投与ではベッドの頭側を30-45度挙上する(肺炎合併を下げる Lancet 1999;354:1851)

2:胃残量が多い、嘔吐

A:腸管蠕動薬
・漢方薬:六君子湯・大建中湯
(処方例)六君子湯 7.5-15g分3、大建中湯 7.5-15g分3
・メトクロプラミド
(処方例)プリンペラン10mg + 生理食塩水50ml 30分かけて投与1日3回

B:投与方法を間欠投与から持続投与にする方法

3:下痢

A:経管栄養自体が下痢のリスクになるが、その他薬剤副作用やCDIなどの感染の原因を除外する(院内下痢の鑑別に関してはこちらをご参照ください)。
B:栄養剤の変更(浸透圧を下げる、半消化態→消化態栄養剤へ変更など)
*成分栄養は消化は良いが浸透圧が高いため、浸透圧性下痢になる場合があり注意

C:投与方法の変更(間欠投与→持続投与)などを検討。

4:refeeding症候群

・長期の飢餓状態のから急速に栄養が入ると、血糖上昇とインスリン上昇により細胞内シフトが起こり、低K血症、低P血症、低Mg血症などが起こりやすくなるため注意が必要。
・長期間飢餓患者ではより慎重に栄養剤を投与していく。

5:血糖管理

・経腸栄養は通常の食事よりも血糖値が上昇しやすいため、糖尿病患者では血糖管理の強化が必要になる場合が多いため注意。

栄養管理に関しては様々な方法があると思うので、「こんな方法でやっているよ」などもしありましたら教えて頂けますと幸いです。