ここではヘルペス系ウイルス感染症(HSV, VZV, CMVで使用するDNAポリメラーゼ阻害薬をまとめます。抗ウイルス薬は種類が多く名前もなんだか似ているためきちんと分類しないと混乱しやすい分野だと思います。インフルエンザウイルス治療薬や肝炎ウイルス治療薬、HIV治療薬に関してはこの記事では扱いませんのでご了承ください。
作用機序による分類
・バラシクロビル(VACV)、ファムシクロビル(FCV)はそれぞれ体内で代謝されアシクロビル(ACV)、ペンシクロビル(PCV)となり、これはウイルス由来のTK(チミジンリン酸化酵素)によりリン酸化されます。これがDNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの複製を阻害します。ウイルス由来のTKを利用することで、ウイルス感染細胞を選択的に攻撃することができる点が特筆すべき点です。
・バラガンシクロビル(VGCV)は体内で代謝され、ガンシクロビル(GCV)となり、これはCMV由来の酵素とヒトの細胞由来の酵素でリン酸化されDNAポリメラーゼを阻害する効果を持ちます。CMVウイルスはTKを有さないため上記のTKでのリン酸化を必要とするACV、PCVは効果がありません。
・ビダラビン(Ara-A)は細胞(非ウイルス由来)のTKによりリン酸化されDNAポリメラーゼを阻害します。TKがアシクロビルやペンシクロビルではウイルス由来であるのに対して細胞由来である点が大きく異なり、このためウイルス感染細胞以外の細胞にも影響が出てしまう欠点があります。
・ホスカルネット(PFA)は今まで説明してきた様なリン酸化は経ずに、DNAポリメラーゼを直接的に阻害する作用を持ちます。
以下ではそれぞれの薬剤に関してまとめます。
アシクロビル(ACV)
■作用機序:ウイルス由来のTK(チミジンリン酸化酵素)によりリン酸化されDNAポリメラーゼを阻害する
■適応:HSV-1,2, VZV感染症
■代謝:腎臓
■bioavailability:15-21%と低い
■臓器移行性:CNSは髄膜炎症が無い場合血中の約20%とされている
■商品名:ゾビラックス
■製剤:点滴製剤250mg/1V *250mg/1Vあたり生理食塩水もしくは5%ブドウ糖液100ml以上で溶解して1時間以上かけて投与する 内服:200mg or 400mg/1T,顆粒製剤 眼軟膏3% 5g
■投与量(腎機能による投与量・間隔の調整が必要)
・中枢神経感染症:10mg/kg q8hr
・単純ヘルペス:200mg 1日5回(内服回数が多い点が難点)
・眼病変(帯状疱疹など):アシクロビル眼軟膏3% 5g 1日5回塗布
■副作用
・腎機能障害:5%程度に認め、アシクロビル結晶による尿細管障害であり基本的に可逆的。点滴時間をゆっくりにすることで頻度を下げることができるとされている。
・神経障害:アシクロビル脳症に関してはこちらをご参照ください。
バラシクロビル
■作用機序:アシクロビルのプロドラッグで体内で代謝されてアシクロビルとなる(このためアシクロビル耐性の場合はバラシクロビルも耐性である)
■適応:帯状疱疹、単純ヘルペスウイルス感染
■代謝:腎臓
■bioavailability: 55%
■商品名:バルトレックス
■製剤:内服 500mg/1錠、顆粒
■投与量
・帯状疱疹の場合:3000mg/日 7日間 (処方例:バルトレックス500mg 6錠分3)
・単純ヘルペスウイルス感染:初回500mg 1日2回、再発1000mg 1日2回
■副作用:アシクロビルと同様
ガンシクロビル
■作用機序:CMV由来の酵素とヒトの細胞由来の酵素でリン酸化されDNAポリメラーゼを阻害する
■適応:CMV感染症
■代謝:腎臓
■商品名:デノシン
■製剤:点滴静注 500mg/1V
*1Vを注射用水10mlに溶解して、1Vあたり100mlの溶解液で希釈する
■投与量
・初期投与:5mg/kg q12hr(1時間以上かけて投与) 14日間
・維持投与:5mg/kg q24hr(1時間以上かけて投与) or 6mg/kg 週に5日投与
*ガンシクロビル抵抗例ではホスカルネットを代替薬として使用する
■副作用
・骨髄抑制:好中球減少、血小板減少(開始後2週間ごろに生じ、中止後1週間程度で改善する)
・中枢神経症状
ホスカルネット
■作用機序:DNAポリメラーゼを直接阻害(細胞内のリン酸化を必要としない)
■適応:CMV感染症(GCV耐性も含む)、ACV耐性のHSV, VZV感染症
■代謝:腎臓
■商品名:ホスカビル
■製剤:点滴静注用 24mg/mL (6000mg/250ml)
*生理食塩水もしくはブドウ糖液で2倍に希釈して(12mg/mL)投与
*同一ルートから他剤投与は禁止(配合変化のため)
■投与量
・初期療法:60mg/kg q8hr(1時間以上かけて投与)もしくは90mg/kg q12hr(2時間以上かけて投与)
・維持療法:90-120mg/kg q12hr(2時間以上かけて投与)
・ACV耐性HSV, VZV感染症:40mg/kg q8hr
■副作用 副作用は非常に多いので注意
・腎機能障害:1/3程度で出現(最多)、基本的には可逆性(腎毒性を持つ他の薬剤と併用するとより頻度が増える)
・電解質異常(低Ca血症、低Mg血症)
・その他:頭痛、疲労、嘔気、発熱、痙攣、血球減少、肝逸脱酵素上昇
■禁忌:CCr<0.4ml/min/kg、ペンタミジン(腎機能障害、低Ca血症)
(写真はクリニジェンのホームページより http://www.clinigen.co.jp/medical/foscavir/)
ビダラビン Ara-A
■作用機序:細胞(非ウイルス由来)のTKによりリン酸化されDNAポリメラーゼを阻害する
■適応:ACV耐性単純ヘルペス脳炎、帯状疱疹の皮膚症状
■商品名:アラセナA
■製剤:点滴静注用300mg/1V、軟膏 3% 2g, 5g, 10g
*点滴製剤は300mg/1Vを5%ブドウ糖液もしくは生理食塩水500mLに溶解して、500mLあたり2-4時間かけて投与する
■投与法
・単純ヘルペス脳炎:5-10mg/kg q24hr *単純ヘルペス脳炎に関してACVと比較したRCTで予後不良が証明されているため単独では使用しない(NEJM 1986;314:144, Lancet 1984;2:707)
・帯状疱疹の皮膚病変:アラセナA軟膏1日数回塗布
■副作用
・精神神経障害
・骨髄抑制
■禁忌:ペントスタチン併用禁忌
(下写真はこちらより引用 https://www.qlife.jp/meds/rx6250400D1060.html)