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セロトニン症候群 Serotonin syndrome

セロトニン症候群は個人的にはかなりunderdiagnosedな症候群ではないか?と思います。まずそもそも疾患を知らない、鑑別に挙げないという点で相当漏れが生じてしまっていることと、薬剤のoverdoseでなくとも(通常量でも)起こりうるという認識がないという点がunderdiagnosedの原因ではないかと思います。以下にまとめさせていただきました。

1:病態

セロトニンの作用は中枢神経系では意識、注意、体温管理、末梢神経系では腸管蠕動、血管収縮、神経筋接合部(その他:血小板の凝集)などに関与しているとされています。

このセロトニンが薬剤の影響で過剰になってしまい起こるのがセロトニン症候群です。もちろんSSRI、SNRIはその代表的な薬剤ですが、それ以外の薬剤でもセロトニン症候群が起こります。以下の薬剤がその原因として指摘されています。

2:原因薬剤

抗うつ薬:SSRI/SNRI/TCA/MAOI
覚せい剤:アンフェタミン、コカイン、MDMA
鎮痛薬:フェンタニル、トラマドール、ペンタゾシン
制吐剤:5HT3阻害薬(オンダンセトロン)、メトクロプラミド
抗てんかん薬:バルプロ酸、カルバマゼピン
片頭痛治療薬:トリプタン製剤
まれなもの:デキストロメルファン(メジコン)、リチウム、ブスピロン、リネゾリド

3:臨床像

セロトニンは先ほど述べたように中枢神経(意識・注意・体温管理)、末梢神経(神経筋接合部・腸管蠕動・血管収縮)などに関与するため、これらが過剰に刺激される症候を呈します。具体的には中枢神経領域では不穏、意識障害、高体温、末梢神経領域ではミオクローヌス(神経筋接合部での過敏性)、下痢(腸蠕動亢進)、発汗、頻脈、血圧の変動などが挙げられます。以下はNEJMのreviewの図でとても有名なものです(NEJMのシェーマっていつも素晴らしいですよね、これだけ見ればイメージが付きます)。

実際にはごくごく軽症なものから重症なものまで疾患の幅が非常に広いです(これが軽症なものが見逃されてしまっている原因の一つと思います)。軽度なものでは興奮状態くらいですが、重度になると昏睡状態までなり筋緊張も亢進してきます。この状態になると特に「悪性症候群」との鑑別が問題になります。

セロトニン症候群は自然経過として1~2日でピークを越えて自然と改善していく場合が多いですが、悪性症候群は1週間くらいかけて発症して、1週間くらいかけて改善してきます。このように発症と改善のスピード感が両者を鑑別する上では大きなポイントになると思います。

■セロトニン症候群をどう疑うか?

意識障害や不随意運動で「トキシドローム(Toxidrome)」から考えるのが一番良いと思います(中毒へのアプローチに関してはこちらを参照)。つまり、バイタルサイン、瞳孔、発汗、気道分泌物、腸蠕動、皮膚の状態などからトキシドロームのどれに該当するのか?と考えるところから始まります。セロトニン過剰の場合は交感神経過剰の場合と似ていますが、セロトニン過剰では皮膚発赤を認めること、そしてミオクローヌス深部腱反射亢進を認めることが特徴的です。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: toxidrome-1024x703.jpg

4:診断

セロトニン症候群の診断は臨床診断で、検査では診断することは出来ません。血中セロトニン濃度と症状の関係はないとされており、採血をする場合は電解質異常、甲状腺機能亢進症など他疾患の除外のために行います。臨床診断の基準として最も用いられているのが“Hunter criteria”で、以下に記載します。

1:セロトニン作用を持つ薬剤を内服している
2:以下のうち1つを認める
・誘発なく起こるクローヌス
・誘発されるクローヌス+興奮状態or発汗
・眼球クローヌス+興奮状態or発汗
・振戦+深部腱反射亢進
・筋緊張亢進
・体温38度以上+眼球クローヌスor誘発されるクローヌス
感度:87%、特異度:97%

注意点としては下記の点が挙げられます。
薬物の通常量内服により起こることがある(全てが過量内服によって引き起こされるわけではない)。
・特に薬物の初回内服、投与量変更後特に注意が必要。
・どの年代でも発症しうるため注意。

セロトニン症候群は過小診断(underdiagnosed)だとされています。その原因としては、
1:そもそも医師がセロトニン症候群に関して知らない(もしくは詳しくない)
2:症状が多彩
などが挙げられています。セロトニン症候群の85%以上が誤診もしくは見逃されているとも報告されており、まずは薬剤と症候から疑う姿勢が極めて重要です。私は今まで2例診断したことがありますが、実際には沢山の症例を(特に軽微な症状のケース)見逃しているのだと思います。

5:治療

治療の基本は”Supportive care”です。
1:原因薬物中止(原因薬物が中止されない限り自然に軽快することはない)
2:vital sign安定化
3:sedation(Benzodiazepine系)
これら3つをきちんと行うことが重要です。

■セロトニン拮抗薬投与に関して

一般名:Cyproheptadine(シプロヘプタジン)商品名:ペリアクチン 4mg/1T *粉砕経管投与可能
(処方例)cyproheptadineinitial dose:12mgsubsequent dose:2mg q2hr(臨床上改善が認めるまで)

セロトニン拮抗薬がありますが、積極的に使用する根拠には乏しいです。効果あるとの報告ある論文もあるが、consensusは得られていません。軽症であれば自然と改善しますし、重症でmuscle rigidityが亢進している場合「悪性症候群」との区別が難しく、むやみにセロトニン拮抗薬を投与することは状況を複雑にしてしまうだけの可能性があります。その他の拮抗薬olanzapine, chlorpromazine, propranolol, bromocriptine, dantrolene上記いづれも勧められないです。

■治療での注意点

解熱薬(acetaminophen)を使用しない
筋肉の過剰収縮による熱産生が原因であり、視床下部での体温セットポイントの変更ではないため解熱薬は全く効果ない。通常は24時間以内に軽快することが多い(NMSでは改善により時間がかかることが多い。

参考文献
・N Engl J Med 2005; 352:1112-1120 NEJMのreviewの中でも特に有名です。素晴らしいのひとこと!