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COVID19 神経合併症とその治療

COVID19に関する最新の情報・文献は日々めまぐるしい速度でup dateされています。最近はCOVID19に伴う神経合併症に関しても報告がかなり蓄積されており、この領域の論文を紹介していきます。ややまとまりに欠けた内容で恐縮ですが、適宜up dateしていく予定です。よろしくお願いいたします。

神経障害合併のまとめ

Lancet NeurologyによるCOVID19の神経合併症既報のまとめ:”Neurological associations of COVID-19″ Lancet Neurology

COVID19患者の神経合併症を調べる際に、他の病態による可能性はないか?(低酸素脳症やcritical care neuropathy)、ウイルスによる影響か?(直接もしくは間接的に?)といった区別をきちんと行うことが重要だと述べられています。

臨床経過と神経合併症の対応関係が下図にまとめられています。

COVID19の神経合併症43例のまとめ:”The emerging spectrum of COVID-19 neurology: clinical, radiological and laboratory findings”

43例(男性24人、女性19人、年齢16-85歳)のCOVID19に神経合併症を併発したものをまとめており、ここでは(1)脳症(n=10)、(2)炎症性CNS症候群(para/post infectious)(n=12)、(3)脳卒中(n=8)、(4)末梢神経障害(n=8, GBS:n=7, 腕神経叢障害;n=1)、(5)その他(n=5)と分類されています(下図がまとめ)。

COVID19によるARDSでICU入院患者58人の神経学的所見の検討:”Neurologic Features in Severe SARS-CoV-2 Infection” NEJM 2020

年齢中央値63歳、治療介入前の神経所見異常14%(8/58人)、治療介入後の神経所見異常67%(39/58人)。CAM-ICU陽性65%(26/40人)、錐体路徴候67%(39/58人)、遂行機能障害36%(14/39人)に認めた。MRI所見(MRIは脳症を疑うなどの理由での撮影であり、focal signのためではない):髄軟膜造影効果62%(8/13人)、perfusion異常100%(11/11人)、脳梗塞23%(3/13人)。髄液所見:OCB+ 29%(2/7人)、SARS-CoV2髄液PCRは全例陰性(11/11人)。

脳炎

ステロイド反応性を示した脳炎例:”Steroid-Responsive Encephalitis in Coronavirus Disease 2019″ ANN NEUROL 2020;88:423–427

60歳男性既往なし、5日前から興奮性、混乱、2日前から発熱、咳嗽、認知機能変動があり、意識障害でED搬送。akinetic mutisumを呈しており、鼻腔PCR陽性。頭部MRIは正常、髄液は細胞数18/μL、蛋白69.6mg/dL、髄液SARS-CoV2 PCR陰性、脳波は全般性徐波。入院3日後メチルプレドニン1000mg/日を5日間投与開始、髄液中IL6は2.36 pg/mLだが、IL8>1100pg/mL, TNFα 1.31pg/mLと上昇。ステロイド初回投与直後から意識状態は改善し、簡単な指示理解が入るようになった。ステロイド投与5日目にはごく軽度の脱抑制と軽度変動する覚醒障害のみ。各種自己免疫抗体(NMDAR, LGI1, CASPR2, GABAR,AMPA, Ri-,Yo,Ma2, CV2, Hu, amphiphysin, MOG, 甲状腺関連抗体)はいずれも陰性。入院11日目に神経学的所見正常に。サイトカイン炎症介在性の機序を考察している。

脳症

ステロイドに著明に反応した脳症5例の報告:”COVID-19-related encephalopathy responsive to high doses glucocorticoids” DOI: 10.1212/WNL.0000000000010354

COVID19によるARDS挿管管理で、5例が遷延する意識障害をきたし原因不明の脳症と判断(髄液細胞数、蛋白上昇なし、髄液SARS-CoV2 PCR陰性、髄液OCB全例陽性、頭部MRI検査で後方循環系の血管壁に造影効果を認めたが、その他脳実質や髄軟膜に異常所見なし、脳波はてんかんを示唆する所見なし、その他代謝性を除外)された。メチルプレドニン500mg/日を5日間投与したところ、全例48-72時間で意識状態の著明な改善を認めた。MRI検査で後方循環の血管壁に造影効果を認めたことから、血管内皮障害を伴い炎症をきたした、もしくはサイトカインストームときたしたことで脳症にいたった可能性が考察された。

急性壊死性脳症 ANE acute necrotizing encephalopathy

“COVID-19–associated Acute Hemorrhagic Necrotizing Encephalopathy: Imaging Features” Radiology 2020; 296:E119–E120

58歳女性、3日間の咳嗽、発熱と意識変容をきたした。髄液SARS-CoV2 PCRは未実施。頭部MRIで両側視床、側頭葉内側の出血性病変を認めた。

“Acute necrotizing encephalopathy and myocarditis in a young patient with COVID-19” Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2020;7:e801. doi:10.1212/NXI.0000000000000801

33歳女性既往歴なし、4日前より発熱、全身倦怠感、頭痛、鼻汁あり痙攣で受診(E1V1M3, 38.6度、HR145/min, BP100/60mmhg,RR35/min,SpO2=80%)、2日後MRIにて両側視床、小脳の出血性病変指摘、髄液検査細胞数26/μL(mono:90%, TP:541mg/dL, 初圧22cmH2O、糖正常、OCB-、髄液中SARS-CoV2 PCRは実施できなかった)、急性壊死性脳症の診断でメチルプレドニン1000mg/日静注開始。5日後心肺停止。

PRES

PRES合併2症例の報告:”Posterior reversible encephalopathy syndrome (PRES) as a neurological association in severe Covid-19″ Journal of the Neurological Sciences 414 (2020) 116943

症例1:58歳男性トシリズマブ投与あり(PRES発症の報告がある薬剤)、21日後抜管したが、意識変容あり26日後の頭部MRIでPRES所見あり。33日後退院。

症例2:67歳女性21日後に鎮静薬を切るが意識状態が悪く抜管できない。血圧は79-193/44-97mmhg、AKI発症しHD実施。25日後MRIでPRES所見あり。30日後抜管、47日後リハビリセンターへ転院。症例1、2ともに視野障害は指摘なし。

SARS-CoV2がACE2受容体を介して、血管内皮障害によるautoregulation障害の機序が考えられる。

出血性PRESの2例報告:”Hemorrhagic Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome as a Manifestation of COVID-19 Infection” AJNR 2020;41:1173

48歳男性 発熱から2日後挿管管理、血圧は70/30-180/90mmhgと変動あり。17日後に意識障害のため頭部CT撮像し、後頭葉を中心に皮質下浮腫を認め、小出血もあり。23日後頭部MRI検査で出血性PRESの所見でSWIでは脳梁全域に微小出血を認めた。

67歳女性(高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、痛風、喘息)が意識変容を発症。血圧は115/72-178/83mmhgと変動あり、胸部CT検査で肺炎造あり、SARS-CoV2 PCR陽性。受診2日後の頭部MRI検査で後頭葉を中心に複数のDWI高信号域を認め、SWIでは頭頂後頭葉領域に複数の微小出血を認めた。

サイトカインがBBBの破綻につながったこと、低酸素が炎症を惹起した可能性、どちらの患者も血圧変動があったことなどがPRES発症に関与したのではないか考察されています。

脳血管障害

イタリアの大学病院COVID19: 388例の血栓症合併の疫学検討:”Venous and arterial thromboembolic complications in COVID-19 patients admitted to an academic hospital in Milan, Italy” Thrombosis Research 2020;191:9–14

年齢中央値66歳、男性68%、16%ICU、静脈血栓予防はICU患者の100%(低分子ヘパリン)で、一般床患者の75%。静脈/動脈血栓症7.7%(ICU患者の16.7%、一般床患者の6.4%)で認め、その多くは静脈血栓症で、半数は入院24時間以内に発症していました。脳梗塞に関しては2.5%(ICU患者の6.3%、一般床患者の1.9%)で認めています。

患者背景一覧

若年者での主幹動脈病変による脳梗塞:”Large-Vessel Stroke as a Presenting Feature of Covid-19 in the Young” NEJM 382;20 nejm.org May 14, 2020

ニューヨークでの50歳以下若年者の主幹動脈病変による脳梗塞5例(NIHSS中央値17点)をまとめたものです(下図はその特徴をまとめたもの)。この主幹動脈病変脳梗塞との関係に関してはかつてSARS-CoV1でも指摘されていたようです(Large artery ischaemic stroke in severe acute respiratory syndrome (SARS). J Neurol 2004; 251: 1227-31.)

rt-PAを実施した症例報告 “Intravenous Thrombolysis for Stroke in a COVID-19 Positive Filipino
Patient, a Case Report” Case Reports / Journal of Clinical Neuroscience 77 (2020) 234–236

62歳女性(既往歴高血圧、脂質異常症、TIA)が2週間持続する咳嗽、呼吸困難を主訴に肺炎として入院(のちにSARS-CoV2 PCR陽性)。入院初日に突然構音障害と右上下肢麻痺(NIHSS4点)を発症し、CTでは左半卵円中心に軽度低吸収域、CTAで左MCAM1狭窄を認め、rt-PAを実施。一時NIHSS3点まで改善したが、その後はNIHSS4点でまだ入院中。

Guillain Barre Syndrome

ギランバレー症候群合併既報37例のまとめ(literature review):”COVID-19-Associated Guillain-Barre Syndrome: The Early Pandemic Experience.”

年齢中央値59歳(50歳以上が90%)、男性65%、COVID19の症状からGBS症状までの期間中央値11 ± 6.5日(3-28日)、COVID19の症状が持続中にGBS発症が84%、臨床症状と重症度はnon-COVID19の通常のGBSと類似。神経所見のピークに達するまでの期間(16人でデータあり)は5日(1.5-10日)。
髄液で蛋白細胞解離は76%に認め(蛋白は44-313 mg/dL)、全例(調べたのは18例)で髄液SARS-CoV2 PCR検査は陰性。
血清抗ガングリオシド抗体は17例で検査し陽性は2例(12%)のみ(この2人はどちらもMiller Fisher syndromeの臨床像)。
治療:89%はIVIg5日間使用(うち2人は2クール実施)、3人血漿交換実施(うち2人はその後IVIg実施)。治療反応性は89%(33/37人)であり、1人は呼吸不全のため24時間以内に他界。IVIGは特にCOVID19では血栓リスクがあるため副作用が懸念されますが、IVIg投与による血栓症を合併した例はありませんでした。
サブタイプ分類は下記の通りで、AIDP64.8%>MFS13.5%=AMSAN13.5%>AMAN2.7%。

critical illness neuropathyと誤って判断されている場合や全身状態が悪いため評価されていないケースもあるのではないかとされている。