神経梅毒 neurosyphilis

病態

神経梅毒は梅毒のどのフェーズでもありえます(梅毒の既感染がなく神経梅毒だけ単独で発症することはありません)。Treponema pallidumが中枢神経に侵入すると、免疫系がTreponema pallidumを排除する場合もあれば、排除できない場合もあります。このように免疫系が排除できない場合に神経梅毒を併発することがあります。

持続性の感染が症状を起こすのは早期合併症と晩期合併症があります。

・早期(early) 発症から1~2年以内:髄膜炎(無症候性~症候性)、脳神経麻痺

・早期~晩期 発症から1~10年:”Meningovascular”: 血管炎による脳梗塞、脊髄症

・晩期(late)10~20%(ペニシリン導入前の時代):”General paresis”: 認知症、人格変化, “Tabes dorsalis”

general paresisに関してはNEJMのreviewで非常に面白い記載があり、”General paresis altered the concept of madness with the discovery that it was a structural brain disorder that simulated many forms of mental disease. It is a frontotemporal dementia that was associated with colorful manifestations of grandiose delusions such as being emperor, owning all of Africa, or being so wealthy that diamonds flowed out with one’s urine.”、つまり「狂気」が脳の器質的原因に由来するという概念の変革をもたらしたとあります。そうだったんですね・・・。精神症状、うつ、人格変化、進行性認知症、華やかな幻覚などを認める場合があります。

経過のまとめを載せます。

全身性の梅毒と神経梅毒の関係性に関してまとめをさらに掲載します。

検査と診断

■検査特性

神経梅毒の診断は全身性の梅毒と同様、培養検査をすることが出来ないため間接的な検査で診断するしかありません。以下に神経梅毒での血液、髄液の検査特性をまとめました。

問題点は海外で推奨されているCSF-VDRLが日本では検査出来ないという点です。つまり、診断を確定する特異的な検査に乏しいことが問題です。CSF-VDRLと同じ非トレポネーマ検査としてCSF-RPRは測定できますが、CSF-RPRはCSF-VDRLと比較して特異度が低いことが指摘されており、使い方は難しいです(CSF-VDRLと異なり、たとえCSF-RPRが陽性でも神経梅毒の確定診断はできない)。

トレポネーマ検査のCSF FTA-ABSは感度が非常に高いため除外にはある程度有用です。ですが、神経梅毒を完全には除外しきれません。

“In summary, there is no gold standard test to diagnose neurosyphilis. The diagnosis must be based on a combination of laboratory tests and clinical findings. Although the CSF VDRL is helpful to confirm neurosyphilis, its absence may not rule it out.”と記されている通り、CSF-VDRLの陽性が指摘出来れば診断確定できますが、日本ではCSF-VDRLが使用できないと診断確定のツールを欠くことになります。

診断基準 CDCの提唱は以下の通りになっていますが、日本では下記疑い(presumptive)でのVDRL陰性の場合に基づいて判断するしかありません。
CDC診断基準
■確定(comfirmed): VDRL(CSF)陽性
■疑い(presumptive): VDRL(CSF)陰性+髄液異常+神経所見(その他を除外)

■どの患者に髄液検査を行うか?

神経所見がある場合はもちろん髄液検査を行いますが、問題は神経所見がない場合です。これに関しては血清RPRが32倍以上の場合は神経梅毒のOR=10.29であった報告があります(JID 2004;189:369)。このことを踏まえて、梅毒診断時に血清RPR>32の場合は、腰椎穿刺を全例実施する(過去の治療歴に関係なく)として良いと思います(その他に良い臨床試験がないためこの試験の結果にたよらざるを得ない)。

Up to dateには以下のアルゴリズムが提唱されています。

注意が必要な点としては、HIV感染症では髄液中細胞数が上昇してしまっているので、髄液細胞上昇だけを基準とすると過剰判断になるため注意です。

客観的な指標をまとめます。
・神経梅毒の診断確定に有用なCSF-VDRLが日本では測定困難。
・トレポネーマ検査のCSF-FTA-ABSは感度が高く神経梅毒の除外に有用であるが、完全には否定できない。また特異度は低いため陽性であったとしても診断の確定は困難。
・髄液細胞数上昇、蛋白上昇も感度はある程度高い所見であるが、正常であっても神経梅毒の除外は困難。
・HIV症例では髄液細胞数が上昇してしまうため、髄液所見の解釈に注意が必要。

■神経梅毒プロトコル私案

CSF-VDRLが使用できない状況で、神経梅毒の決まった検査、治療適応のプロトコルは存在しません。以下に私の考えをまとめます(あくまで個人の考えなので参考までにお願いします)。

診断確定:CSF-VDRLでの診断確定が出来ないため、治療適応になるかどうかを判断する姿勢をとる。診断確定が出来ない以上、治療介入の閾値をかなり閾値を低くならざるを得ない。

1:神経所見がある場合
・髄液所見で細胞数上昇もしくは蛋白上昇がある場合は神経梅毒として治療
・髄液所見正常:その他の原因がないか?神経梅毒が否定できなければ治療
2:神経所見がない場合
 ・血清RPR>32倍の場合:髄液検査実施→髄液検査陰性+CSF-FTA-ABS陰性の場合は治療適応なし(これを満たさない場合は治療介入)
 ・血清RPR<32倍の場合:髄液検査必要なし

みなさまのご意見を頂けますと幸いです。

画像検査:神経梅毒に特異的な画像所見はないとされています。

治療

ペニシリンG静注10~14日間 + プロベネシド500mg 1日4回内服 併用

が推奨されています。神経梅毒の治療に関しての大規模前向き試験は存在しません。なのでこの治療期間が適切なのかどうか?は分かりません。晩期(late)神経梅毒を改善はしませんが、いままでの歴史的な経験上から神経梅毒の進行を抑制する効果はあるとされています。

ペニシリンアレルギーの場合が問題で、ペニシリンの代わりにDOXYなども検討されますが、ペニシリンを減感作療法にて使用することも推奨されています。

治療効果判定は6か月後、2年後に髄液検査を再検し髄液所見が正常化しているかで判断するとされています。ただここで治療失敗と判断した場合も、前と同じペニシリンG静注10~14日間のregimeneでよいのか?といった疑問があります。この疑問に答えてくれる臨床試験はまだなされておりません。

参考文献
・N Engl J Med 2019;381:1358 まさかこの時代に神経梅毒のreviewがNEJMからでるなんて!という嬉しいreviewです。
・CNS Neuroscience & Therapeutics 16 (2010) e157–e168

“神経梅毒 neurosyphilis” への2件の返信

  1. 素晴らしいまとめを有難うございます。
    神経梅毒プロトコル私案についてご質問なのですが、血清RPRのtiterが低い場合は感染症内科にコンサルトをすると積極的に髄液検査を施行しなくて良いと返答が来ます。titerで髄液検査施行の適応を決めて良いものでしょうか。

    神経所見なしの場合は先生のプロトコルで良いと思われます。一番迷うのが非特異的な認知機能低下ですかね。そもそもの診断経験が少ないため、何をもって神経梅毒の神経所見ありと判断するかが一番悩みますね。

    1. コメントいただき大変ありがとうございます。
      ご指摘のRPRのtiterに関してですが、神経所見が疑われる場合はRPR titerにかかわらず髄液検査をしてもよいのではないか?と個人的には思っています。(神経所見がない場合はtiter32倍以下は髄液所見をしなくても問題ないかもしれません)。
      そうですねご指摘の非特異的な認知機能低下難しいですよね・・・。個人的には治療法によるharmが少ないため、ややover triage的に治療してしまうこともあります。
      昔からある病気ですが、なかなか答えがなくて難しいですよね。。。。

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