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MMN :multifocal motor neuropathy 多巣性運動ニューロパチー

病態

病態は後天性の脱髄、病変の首座は運動神経の末梢神経単位であり、全体的ではなく一部が障害されることが本疾患の特徴です。臨床的には緩徐進行性に左右非対称、遠位優位(特に上肢)に障害されることが特徴です。抗GM1-IgM抗体が半数程度に検出される点や、免疫グロブリン療法が奏功するため自己免疫機序が関与していることが推察されますが、機序は解明されていません(下図はNat. Rev. Neurol. 8, 48–58 (2012)より引用)。

疫学

発症年齢:40歳(20~50歳で80%を占める、70歳以上はまれ)、男女比:3:1

比較的若年発症である点が特徴です。発症との関連が指摘されている報告としてはTNFα阻害薬(インフリキシマブ・エタネルセプト・アダリムマブ)によりMMNを発症したという報告があります。

臨床症状

左右非対称に上肢遠位の運動障害(感覚障害を伴わない)から発症することが特徴で、握力の低下や垂れ手などを最も認めます。下肢から発症する場合も20-30%に認め、上肢近位筋から発症する場合も5%程度に認めるとされています。2次的な軸索変性を反映して筋委縮も認めますが、病初期には軽度で経過が長くなると明瞭になってきます。このような経過でも下肢近位筋はほとんど障害されないとされており、CIDPとの鑑別点として重要です。またfasciculationやcrampを認める点、寒冷による筋力低下を認める場合がある点などが参考になります。

臨床経過:CIDPががくんと増悪を繰り返す経過であるのに比べて、MMNは緩徐進行性の経過をとることが一般的です。

脳神経麻痺はまれですが、舌下神経麻痺の報告があります。呼吸筋麻痺も極めてまれですが、横隔神経障害による呼吸困難を呈した症例の報告があります。

以下に臨床症状のまとめを提示します。

これらを踏まえた鑑別点を下記にまとめます(下図はEur Neurol 2010;63:193–204より引用)。

運動ニューロン疾患のなかではflail arm syndromeが特に鑑別として重要(flail arm syndromeの誤診例で初期診断の多くはMMN)です。こちらにまとめがありますのでご参照ください。

脊髄疾患では頚椎症性筋委縮症、平山病などが鑑別になります。末梢神経疾患では遺伝性圧脆弱性ニューロパチーなどが鑑別になります。

検査

採血検査:MMNに特異的な所見はありません。CKは2/3程度の症例で上昇するとされています。

抗GM1-IgM抗体:約50%において検出され(20-85%)、本抗体が検出されてばMMNを支持しますが、MMNに特異的な抗体ではなく、運動ニューロン疾患でも5-10%程度に認める場合があるとされてます。陰性だからといってMMNが否定されるわけでは全くありません。(以下は報告ごとのまとめでJournal of Neuroimmunology 115 2001 4–18より引用)*IgGではなくIgMである点に注意

髄液検査:蛋白上昇を30%程度で認める場合がありますが、CIDPの様に100mg/dL以上の蛋白上昇を認めることはまれとされています(Journal of Neuroimmunology 115 2001 4–18より引用)。

神経伝導速度検査:末梢神経単位で障害されるため、神経伝導速度検査が最も重要です。common compression site以外の部位で伝導ブロックを認めることが重要です。運動ニューロン疾患の鑑別としてMMNは重要ですが、運動ニューロン疾患で神経伝導検査をきちんと行う意義の一つはこのMMNを除外するためです。近位での伝導ブロックを少しでも検出するためErb点の刺激も神経伝導検査では行うべきです。

伝導ブロックを認めた部位としてはオランダの88例のIVIg反応性を検討した論文では多い順に尺骨神経80%>正中神経77%>橈骨神経41%>脛骨神経14%>筋皮神経9%>腓骨神経7%(Erb-Axilla間だけに認めたもの6%)と報告されています(以下がまとめ Neurology ® 2010;75:818–825)。

神経伝導速度検査の問題点としては最も近位の障害を拾えない点(本格的にはTST:triple stimulation techniqueという方法もあります)と検査出来ない末梢神経が障害されている場合に検出できない点が挙げられます。

また疲労による伝導ブロックが増悪することが報告されていますが、これは診断基準には組み込まれていません。

実際には通常の神経伝導検査で測定できない神経が障害されている場合もあり、このような場合は抗GM1-IgM抗体やMRI検査が補助診断として有用になります。その他例えば脛骨神経では生理的に近位部でのCMAP amp低下を認めるため伝導ブロックの評価が困難であることに注意が必要です。また近位部刺激も最大上刺激を十分に得られていないがためにconduction blockと勘違いされてしまう場合もあり、電気生理学的な解釈に注意が必要です(個人的にも最大上刺激を得られていないにもかかわらず伝導ブロックと勘違いされてしまって紹介となるケースを複数経験しております)。

MRI:腕神経叢部の神経腫大や信号変化を40-50%の症例で認めるとされています。あくまで診断の補助として有用な検査です。

診断基準

以下に診断基準の項目をまとめます(日本のガイドラインとEFNS/PNSガイドラインより)。

Definite MMN:臨床基準1,2,8~11+電気生理学的診断基準1,3を1神経に認める

Probable MMN
・臨床基準1,2,8~11+電気生理学的診断基準2,3を2神経に認める
・臨床基準1,2,8~11+電気生理学的診断基準2,3を1神経に認め、少なくとも2つの支持基準を認める

Possible MMN
・臨床基準1,2,8~11+感覚神経伝導検査正常+支持基準4
・臨床基準1を1神経のみに認め、臨床基準2,8~11および電気生理学的診断基準1(または2,3)を1神経に認める

電気生理学的診断基準

治療

免疫グロブリン療法が第1選択です。88例のMMNを検討した文献ではIVIg投与により94%の症例で症状の改善を認めたとされています(Neurology ® 2010;75:818–825)。運動ニューロン疾患と違い治療介入の余地があるため、必ず鑑別しないといけません。IVIgの効果は数か月程度なので、維持の方法としては定期的なIVIg療法が一番一般的だと思います。しかし、長期的にはIVIgの効果も薄れてきて神経症状が進行する点が難しいところです。

ステロイドは通常改善せず、投与により~20%の症例では悪化したと報告されています。ここは通常のCIDPと大きく異なる点です。(血漿交換療法もMMNでは効果がないとされています)

その他の免疫抑制剤に関してもMMNに対して確立したものはありません。
・シクロフォスファミド:元も当初に報告されたもので、効果がある報告もありますが副作用の点から長期使用には難があります。
・MMF:RCTが組まれていますが病気の経過や、必要となるIVIg量を下げる効果は認めませんでした。
・リツキシマブ:下記の報告がありますが、こちらもconsistentな結果はでていません。前向き研究に期待です。

以下に治療のアルゴリズムを提示します。

以上MMNに関してまとめました。臨床的に閾値を低く疑い、電気生理で診断を詰める疾患の代表と思います。MMNを鑑別として意識しているか?していないか?で神経伝導検査のやり方も違ってくるため重要な疾患です。ご意見などありましたら是非コメントいただけますと幸いです。(最近は神経内科関係の投稿ばかりで申し訳ございません。)

参考文献

・Nat. Rev. Neurol. 8, 48–58 (2012) よくまとまっているreviewです。1つだけ読むならこれかもしれません。

・Journal of Neuroimmunology 115 2001 4–18:細かいデータはほとんどここから参照させていただきました。

・Eur Neurol 2010;63:193–204 よくまとまっているreviewで多くを参照させていただきました。

・Neurology ® 2010;75:818–825 オランダのMMN88例を検討した論文で臨床情報が詳しいです。

・日本神経学会 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー・多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2013