注目キーワード

Young-Onset Multiple System Atrophy

多系統萎縮症(MSA: multiple system atrophy)は通常50~60歳代に発症することが多いですが、40歳未満の発症を”young-onset MSA”(YOMSA)と表現します。MSA全体でYOMSAが占める割合は0.9~4.1%,4.5%と報告されています(J Neurol Sci 2012;319:168,Mov Disord 2018;33:1974)。現在鑑別に苦慮している症例があり、ここに勉強した内容をまとめさせていただきます。

22例のYOMSA(8例は病理診断)の症例をまとめた報告(Movement Disorders, Vol. 33, No. 7, 2018)からまとめさせていただきます(これが最も多くのYOMSAをまとめた報告です)。

発症年齢中央値は36.7歳(33~39歳)、MSA-Pが20例、MSA-Cが2例、罹病期間は8.2年(2~17年)、振戦・パーキンソニズム・失調の家族歴を持つものはないとされています(MSA-Pが非常に多い点を論文でもlimitationとして挙げています)。

発症時の症状としては振戦52%、無動固縮19%、自律神経障害24%、姿勢障害・歩行障害10%となっており、当初62%がパーキンソン病と神経科医に診断されています。レボドパ反応性は18人で検討されており、13人(83%)が当初レボドパ反応あり、残り5人は反応が無かったとされています。8人(44%)はレボドパ誘発性ジスキネジア、2人(11%)が口腔顔面ジストニアを呈したとされています。発症からMSAの正しい診断までの期間は病理診断がついた症例では6.9年、病理診断がついていない症例では6.2年とされています。

最終的にはパーキンソニズム100%、歩行姿勢障害100%、振戦95%(内訳:姿勢時振戦24%、29%安静時振戦+姿勢時振戦)、構音障害67%、呼吸障害(ストレイダー、吸気時喘鳴、睡眠時無呼吸)67%、ジストニア76%(首下がり43%、四肢ジストニア19%)錐体路徴候(Babinski/腱反射亢進)71%、小脳失調52%、自律神経障害100%(起立性低血圧89%)、認知機能正常100%、精神症状33%(不安、うつ、レボドパ誘発性精神症状)、家族歴0%となっています。

鑑別疾患としてはSCA、Fragile X-associated tremor ataxia syndrome, Perry syndrome, ミトコンドリア病、脳腱黄色腫(cerebrotendinous xanthomatosis)が挙げられています。

経過予後に関して8例の病理学的に診断がついたケースでは、症状発症から死亡まで11.1年(5.5~14.6年)とされています。以下に病理診断の8例の詳細を載せます。

若年発症パーキンソン病 Young-onset Parkinson’s disease(YOPD)との鑑別

姿勢時振戦、自律神経障害、myoclonic tremor、口腔顔面ジスキネジア、失調、起立性低血圧をYOMSAの方がYOPDよりも有意に認めます。レボドパ反応性やレボドパ誘発性ジスキネジアはYOPDで有意の多い結果ですが、YOMSAでも多く認めている点に注意が必要です。

通常のMSAとの鑑別

姿勢時振戦は少なく、レボドパ反応性、薬剤誘発性ジスキネジア、歩行姿勢障害、ジストニア、錐体路徴候、自律神経障害が有意にYOMSAではMSAと比較して多い結果です。コホートが異なるため正確な比較は困難ですが、参考になります。

各症状の特徴・鑑別点

振戦:myoclonic tremorは通常のMSAや若年性PDと比較して多い。YOMSAでpill-rolling tremorを呈している症例はありませんでした。

ジストニア、首下がり:若年性PD、通常MSAと比較してYOMSAでジストニアはより多い結果でした。

レボドパ反応性:YOPDとYOMSAで当初のレボドパ反応性に差は認めませんでした。YOMSAでのレボドパ反応性の高さは通常MSAよりも高い結果でした。

レボドパ誘発性ジスキネジア:通常はMSAよりもPDらしい所見で、YOPDの方がYOMSAよりもレボドパ誘発性ジスキネジアは多いですが、通常のMSAと比較してYOMSAでもジスキネジアが多い点に注意が必要です。

錐体路徴候:YOMSAではYOPDと比較して錐体路徴候を認め、鑑別点になるとされています。

自律神経障害:下部尿路症状がYOMSAではYOPD、通常のMSAと比較して多く認めます。

今回の症例はほとんどがMSA-Pなので、日本で多いMSA-Cに関してはわかりませんが、個人的にはやはりレボドパが当初効果ある点とレボドパ誘発性ジスキネジアの頻度が多い点が診断をかなり難しくするなと感じました。

症例報告

■4例報告(MSA全体の0.9%とされています)J Neurol Sci 2012;319:168。

Case 1:33才女性が歩行時失調を緩徐進行性に発症し、34歳時点の頭部MRIでは軽度の小脳萎縮のみ。35歳時神経学的所見で小脳失調、錐体と良好、起立性低血圧、左のパーキンソニズム、安静時と運動時振戦を認めた。SCA遺伝子検索は陰性で、36歳で尿路障害、37歳で声帯麻痺と嚥下障害をきたした(下図は37歳時のMRI)。現在39歳で誤嚥性肺炎を繰り返している。

Case 2:37歳男性が勃起障害、失調、構音障害を発症し、38歳時頭部MRIは問題ないが、翌年起立性低血圧と排尿障害を認め、40歳で歩行障害、市民時無呼吸を認め、SCA遺伝子検査は陰性、罹病期間3年で他界。

Case 3:34歳で構音障害、安静時振戦、右手の巧緻運動障害を発症し、36歳でPDの診断でレボドパとアマンタジン処方で反応性良好。7年後、運動症状の変動とpeak-dose dyskinesiaが出現。頭部MRIは突起所見なかったが、PDの診断のもと45歳でDBS実施。術後運動症状は改善したが、歩行のfreezingと構音障害は悪化。嚥下障害も進行し、47歳で構音は了解不能になり48歳で歩行不能になり49歳頭部MRIでは萎縮(下図)を認めMSAの診断に切り替え。

Case 4:38歳女性動作緩慢と固縮を左有意に認め、当初PDの診断でアマンタジン、ペルゴリド、セレギリンを処方し軽度症状改善。39歳時に受診した際も左右非対称のパーキンソニズムでPDに矛盾しない所見であった。運動症状の変動とpeak-dose dyskinesiaが42歳で出現し、起立時ふらつき、歩行障害、発生障害が出現するようになり頭部MRIは橋小脳の萎縮を認め診断をMSAに切り替えた。その後も症状は悪化していき、46歳でフォロー追跡できなくなった。

MRI画像検査