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中枢神経原発悪性リンパ腫 PCNSL:primary CNS lymphoma

以下の内容のほとんどをBritish Journal of Haematology , 2014, 166, 311–325より参照させていただきました。一部未完成なところもあり恐縮ですが、share目的に掲載させていただきます。ここでは診断にfocusを当てまとめます。中枢神経系に影響を与える悪性リンパ腫は1:全身の悪性リンパ腫が中枢神経に浸潤する場合、2:中枢神経のみに発生する場合(全身には病変なし):PCNSL、3:血管内リンパ腫の3つに大きく分類されます。ここでは中枢神経原発のPCNSLに焦点をあてます。

原発性脳腫瘍の2~6%、悪性リンパ腫(NHL)全体の:1%程度を占めるとされており、B細胞由来(特にDLBCL)が90%以上とされています。診断年齢中央値56歳、男女比 1.2~1.7:1。AIDS、移植後患者さんなど免疫抑制者はPCNSLのリスクとなります。稀なPCNSLである軟髄膜原発悪性リンパ腫に関してはこちらをご参照ください。中枢神経にはリンパ組織が存在しないにもかかわらずなぜ中枢神経にリンパ腫が発生するかの機序は明らかなになっていません。

症状

神経学的症状は病変部位と通常反映するとされています。60%以上はconstitutional,認知機能障害もしくは運動機能障害でpresentする、20%:痙攣、30%:眼症状:leptomeningeal diseaseは15-20%に起こるとされています。

PCNSLの20%は眼内リンパ腫(IOL: intraocular lymphoma)から発症することが知られており(網膜、水晶体、ぶどう膜、視神経)、ぶどう膜炎や視神経炎類似の病変を呈することがあります。眼内悪性リンパ腫は80%以上が中枢神経へ播種・波及することが知られており、眼科評価も重要です。

221例の眼内病変を合併したPCNSLをまとめた文献(Neurology 2008;71:1355)では、PCNSLの15~25%に眼病変を診断時に有するとされており、年齢の中央値61歳、診断時の症状としては眼症状62%、行動変化や認知機能障害27%、片麻痺14%、頭痛14%、失語11%、痙攣5%、失調4%、視野欠損2%となっています。注意点としては逆に38%は診断時に眼症状がないため、PCNSLを疑う場合は眼症状がなくとも眼科精査をするべきと考えられます。またMRI検査は眼内リンパ腫検出の感度が低く、MRIで指摘できないからといって眼内リンパ腫の除外は出来ません。

PCNSLは中枢神経に限局して、中枢神経から他の部位へ転移することは稀とされています。

髄液

髄液細胞診は感度が低く(細胞診:5-30%程度)繰り返し提出(10mLを3回)を検討し、また髄液フローサイトメトリーも診断に貢献します。それだけでは診断をサポートしきれない場合に有用なのが、髄液中sIL-2R, IL-10, CXCL-13, mi-RNAが診断に有用とされています。特にIL-10, CXCL-13に関しては悪性リンパ腫の腫瘍細胞生存に関与するサイトカインとして重要です(下図 British Journal of Haematology , 2014, 166, 311–325より)。

primary CNS lymphoma 19例とnon-lymphomanの脳腫瘍26例の髄液を比較した文献では(J Neurooncol (2015) 121:177–183)、以下の様な検査特性を持っていました。
sIL-2R:カットオフ値 60.4 U/mL 感度94.7%, 特異度84.6%
IL10:カットオフ値 3 pg/mL 感度94.7%, 特異度100%

既報をここではまとめており、各研究でのcut off値と検査特性は下図にまとめられます。

髄液中IL10はPCNSLにおいて他の脳腫瘍と比べると感度、特異度ともにかなり優れていることが分かります。IL10はステロイド投与により著明に値が低下することが知られているため、ステロイド投与による偽陰性には注意が必要です。

髄液中CXCL13に関してはCNS lymphoma83例、その他137例を比較した研究(blood 2013;121:4740)で下図の通りの検査特性を持ちます。
・CXCL13 感度71%, 特異度95%
・IL10 感度84%, 特異度94.1%
・CXCL13 + IL10 感度50%, 特異度99.3%

このようにCXCL13単独での特異度が高いですが、先ほどのIL10と組み合わせることでより高い感度を誇ることがわかります。

miRNAは悪性腫瘍などで異常発現がみられます。PCNSLと他の炎症性疾患で比較した場合、miR-21, miR-19b, miR-92aが有意に上昇することが知られています(Blood.2011;117(11):3140-3146)。

各種検査の感度、特異度を表にしたものは以下の通りです(JAMA Neurol. 2013;70(3):311-319.)。

髄液検査以外のリンパ腫全身検索に関しては下記の検査を実施します。

骨髄検査生検:末梢血が出るかどうか?

造影CT検査:生検できるリンパ節腫脹がないかどうか?

FDG-PET:同様に集積があるかどうか?

眼科診察:ぶどう膜炎を含めて、ocular lymphomaの確認

精巣診察(男性の場合):これはPCNSLではないですが、secondary CNS lymphomaの場合精巣原発リンパ腫の中枢神経浸潤が多いためです(リンパ節以外の組織に発生したリンパ腫は他のリンパ節外組織へ転移することがしばしばある)。

画像検査 PCNSL

単純CT:高吸収域になることが特徴です(意外と重要な所見)

造影MRI検査

免疫状態によって画像が変化することが特徴です。免疫保たれている単発65%、複数35%ですが、免疫抑制により病変部位は複数に2倍でなるとされています。ステロイド投与では40%で病変が縮小しますが、無治療でも自然縮小することがあるため注意が必要です(以下の画像は臨床神経2015;55:567-572の7年の経過で視床病変が縮小、その後再燃した症例です)。中枢神経病変に対して安易にステロイド投与を控えるべき理由の一つは、この悪性リンパ腫をマスクしてしまう可能性があるという点です。

画像所見は高い細胞成分であることと、血管周囲に集積すしBBBが破綻するため造影効果を反映している点が画像の基本です。Brain and nerveには「基本的なイメージとしては、柔らかく餅のような感じとなる」と記載がありました。このようにイメージで語れると素晴らしいなと思います。

T1, T2WI:高い細胞成分を反映して灰白質と等信号強度を認める場合が多いです。

ADC map:高い細胞成分を反映して低下する場合(拡散制限を呈する)が多いです。

造強効果:PCNSLの特徴としてangiotropismがあり、small and medium-sized vessel周囲に集積する特性があります。このためBBB破綻により造影効果を持つことが特徴です。ほぼ全例増強効果は認め、増強効果は拡散制限部分と一致し、増強効果は内部均一であることが特徴です。*免疫正常の場合は壊死、嚢胞変性、出血、石灰化はいずれもまれ。しかし、免疫抑制者では中心部に壊死を伴う周囲の増強効果”ring enhancement”を認める場合もあります(免疫正常者では通常”ring enhancement”を認めない)。(下図Cancer Imaging 2014, 14:22より参照)

下図はAIDS患者でのPCNSLの造影MRI画像でring-enhancementを伴っていることが分かります。

浮腫:認めますが悪性の神経膠腫よりは少ないとされています。

病変部位脳脊髄液に接する部位に好発し、大脳半球38%(特に脳室周囲深部白質), 基底核視床16%, 脳梁14%, 脳室12%, 小脳9%。病変が脳梁をかむことがあることは特徴です(脳梁を這うようにして反対側の大脳半球へ浸潤することもある)。皮質はspareして皮質構造は保たれる傾向にあります(下図 Cancer Imaging 2014, 14:22)。

画像上鑑別:glioblastoma, Toxoplasmosis, Abscess, PML, neurosarcoidosis, demyelination, metastasesなどが鑑別になります。

Primary CNS lymphomaとSecondary CNS lymphomaの画像上の違い

PCNSLは上記の様に通常全例で脳実質内に病変を持ちますが、全身リンパ腫の中枢神経浸潤(secondary CNS lymphoma)では軟髄膜に沿った病変を呈することが多いです。secondary CNS lymphomaでも脳実質内病変を持つことがあり、脳実質内病変の画像からPCNSLか?secondary CNS lymphomaか?を見極めることは困難とされています。違いをまとめると下図の通りになります。

全身のリンパ腫の中枢神経浸潤の画像を下に載せます。

ここでは治療に関しては割愛させていただきます。勉強した内容を今後も追記していきます。

参考文献

・brain and nerve「中枢神経系における悪性リンパ腫: Overview」
・Brain and Nerve 2014;66:917「中枢神経の悪性リンパ腫の画像診断」
・AJNR 2011;32:984 画像の引用は基本この論文からです