そもそも眼位がずれているかどうか?
・眼位のずれ(斜視 strabismus)は大きな眼位のずれであれば誰にでもわかるのですが、わずかな眼位のずれをぱっと見ただけでは検出することは困難です。どうすれば微妙な眼位のずれ(斜視)を検出できるか?をここでは扱います。
ペンライト方(Hirschberg法) coroneal reflex
・ペンライトで眼球に光を当て、光が反射する位置(瞳孔の中央?瞳孔の縁?角膜輪部?)をみることで眼位のずれがないかどうかを調べる方法です。下図の様に33cm程度離れた部位からペンライトで患者さんの眼球に光を当てます。眼位が正中位であれば下図の様に瞳孔の正中部分で反射を認めます。
・眼球運動時の外転制限があるかどうか?などの評価も可能です。
・もしも眼位がずれている場合は、瞳孔からすこしずれた部分で反射します。この方法は検者にとって視覚的にわかりやすく、微妙な眼位のずれが検出しやすくなります。またこの方法は1mmずれていると約7°、瞳孔縁までずれていると約15°、角膜部までずれていると約45°と眼位のずれをある程度定量的に予測することも可能です。
遮閉試験(カバーテスト cover test)
・患者さんにはある一点(例えば検者の鼻)を見つめ続けてもらいます。この状態で片方の眼を遮閉する(検者の手でもなんでも大丈夫です)のが遮閉試験(カバーテスト)です。眼位が正常の場合は、片方の眼を覆っても、対側(遮閉していない側)の眼は正中位のままで動きません。
・しかし眼位のずれがある場合は、遮閉すると対側(遮閉していない側)の眼が正中視するためにずれた部位から正中位へと動きます。この動きにより眼位の微妙なずれを検出することが出来ます。
Skew deviation (test of skew)
・Skew deviation:上記カバーテストで眼位が縦または斜め方向に動く場合は脳幹障害を示唆する
・「横方向」への移動は生理的斜視でもあるため有意ではないと判断する
・診察は「坐位」の方が良い(仰臥位では軽減してしまうため)
・めまい診療において中枢神経障害:感度23.4%, 特異度97.6% Acad Emerg Med. 2023;30:552–578.
左右どちらの眼がずれているのか?
・これまで「眼位のずれをどのように検出するか?」というテーマを扱ってきました。次に眼位のずれは分かったけれど、「左右どっちの眼がずれているのか?」を判別する方法を解説します。実臨床で結構「あれっこれ左右どちらの眼がずれているのかな?」と思うケースはあると思います。ここでは実臨床で問題になる「外眼筋麻痺による眼位のずれ」を扱います。
・下の例では右眼が正中位の時は左眼が外転位で、左眼が正中位の場合は右眼が外転位になっています(話がややこしくなるので、間欠性外斜視ではない場合を考えます)。左右どちらの眼位がずれているのでしょうか?
左右の眼には同じ指令が伝わる
・上例の原因が左眼内転障害の場合を考えます(左眼の内転障害があると左眼は相対的に外転位になります)。左眼を外転位から正中位に戻すためには左眼を内転させる必要があります。しかし、もともと左眼は内転障害があるためそう簡単に内転させることは出来ません。左眼を内転させるためには「おりゃ~~~!!」と強い力が必要になります。そして、眼は共同運動をしているので、この強い力は対側の眼にも伝わります(眼は右眼だけ力を入れて左眼だけ力を抜くというような器用なことはできません)。左右の眼には同じ指令が伝わるという点がポイントです。
・しかし右眼はまったく問題ない状態なので強い力の指令が入ると、対側の右眼は「ぎゅいん」と大きく外転します(下図:これを「第2偏倚: secondary deviation」と表現します)。
・一方で健側(右眼)を正中位に戻すためには、右眼を内転させる必要があります。今回は右眼の内転障害はないので、右眼を内転させるためには小さな力で大丈夫です。先ほどと同じようにこの力は対側の眼にも伝わり、対側の眼は小さく外転します(下図:これを「第1偏倚: primary deviation」と表現します)。
つまりまとめると、「患側が正中位にあるときの健側のずれ(第2偏倚)は、健側が正中位になるときの患側のずれ(第1偏倚)より大きくなる」ということです(下図)。
交代性遮閉試験 (alternate cover test)
この原則を利用すればどちらが患側かを知ることが出来ます。方法としては先ほど紹介した遮閉試験(カバーテスト)を応用します。ここでは遮閉している側の眼位をわかりやすくするため、あえて半透明で表現していますが、実際には完全に遮閉します。
左右の眼を交互に遮閉し、どちらの眼を遮閉したときの方が、対側の眼球がより大きく動くか?により判断します。先ほど申し上げたように、患側を正中位にするときに健側の眼位は大きくずれます。つまり患側を正中位にさせた状態から遮閉すると、健側の眼がぎゅいんと正中位へ大きく動きます。一方で、健側を遮閉すると、患側の眼が正中位へ小さく動きます。これによって、どちらが患側でどちらが健側かを判断することが出来ます。まとめると、遮閉を繰り返して眼球の正中位へ戻る動きが小さい方が患側になります。こうすることでどちらの眼の障害かが判別できます。
以上眼位に関してまとめました。複視の評価の第1段階としてまず眼位の評価が必要です。参考になりましたら幸いです。