水代謝の理解へ

1:容量と浸透圧

低Na血症の理解がなぜ難しいかというと、水代謝を評価する際に「容量」「浸透圧」(正確には水の移動に関係するのは張度:tonicityという概念ですがここでは分かりやすくするために浸透圧:osmolalityで表現します)という2つの概念を同時に評価しないといけない点にあります。低Na血症の完全な理解のために、ここではまず「容量」と「浸透圧」という概念を理解することを目標とします。

突然ですが人間の進化の過程を考えてみます。私たちの祖先はもともと魚の仲間で海の中にいました。海水の中にいるので、水不足・塩分不足になることはありません。しかし、海水は塩分濃度が高いので、浸透圧の維持が必要です。このように原始的に浸透圧の調節は生命活動の維持に必要なことでした。

その後、魚は陸に上がって進化を遂げてきました。陸に上がると海とは違い簡単に水や塩分へアクセスすることが出来ません。このように陸上では常に水不足・塩分不足にさらされるので、体に水・塩分を保持するメカニズムを発達させる必要がでてきました。この必要性に応じて水・塩分を保持するための機序としてレニンアンジオテンシンアルドステロンシステム(以下RAAS: renin-angiotensin-aldosterone systemと表現)が発達してきました。その結果、人間は原始的な浸透圧調節システムと後天的に発達させた体液保持のシステムの双方を持ち合わせています

ここまで人間が進化の過程で「浸透圧調節」と「容量調節」の2軸を必要とする過程をみてきました。それでは実際人間はどのように「容量」と「浸透圧」の調節を行うのでしょうか?

2:容量調節 “Volume regulation”

私たち人間はどのように体液量を把握しているのでしょうか?体に体重計が備え付けられており、体液量が分かれば簡単ですがそのような万能なシステムはありません。そこで「臓器へ血流がきちんと届いていれば、きっと体全体の体液量も大丈夫だろう」という帰納的思考をすることで体液量を推定します。この「臓器への血流」は動脈血液量とほぼ同義ですが、一般的に有効循環血症量(ECV: effective circulating volume)と表現します。

ではどの臓器がこの血流量の変化を感知するのでしょうか?全ての臓器が血流を把握するのではなく、特定の臓器が全体を代表して血液量を感知します。選挙に例えると、臓器全員が意見を言うと意見が多すぎて時間がかかるし混乱するので、代表者を絞ってその人が意見を伝える代議員制のようなイメージです。その代表者は頸動脈・心臓・腎臓の3つです。

圧低下が中枢神経に伝わると交感神経を活性化させて血圧を上げようと働き、腎臓輸入細動脈での圧低下はRAAS活性化により腎臓でNa再吸収を促し体液量を保持しようと働きます。また有効循環血症量が10%以上低下すると下垂体後葉からADHが分泌され、腎臓での水再吸収促進を行います。ここで調節する要素は“Na量”です。

まとめ
・体液量を感知する手段:臓器への血流量(有効循環血症量)
・感知する臓器:心臓・頸動脈・腎臓(輸入細動脈)
・体液量の情報を伝える手段:交感神経・RAAS・ADH
・調整する要素:Na量

なぜNa量を調節すると容量調節ができるのか?

Na量を調整するとNa濃度が変わるのではないか?と思うかもしれませんが、実際にはNa量はNa濃度ではなく細胞外液量を調節します。ちょっとイメージしづらいところですので、その理由を解説します。

体液は血液・間質液(両者を合わせて細胞外液)・細胞内液の3つに大きく分類できます。血液と間質液の間には血管壁が、間質液と細胞内液の間には細胞膜があります。

Naは血管壁を自由に行き来することが出来ますが、細胞膜を自由に行き来ことは出来ません。このため、Naは細胞外液(血液+間質液)に分布し、細胞膜内外の浸透圧を規定します(下図参照)。

では通常の状態にNaを負荷するとどうなるでしょうか?上記の通りNaは細胞外に分布し、細胞内外の浸透圧を規定するため、細胞外の浸透圧が上昇し、細胞内液から水が細胞外へ移動します。このため、結果細胞外液量が増加します。つまり、
・Naは細胞外に分布する
・Naは細胞内外の浸透圧を規定するため、細胞内の水は細胞外へ→Na量増加により細胞外液量増加 (下図)
という論理が成り立ちます。このようにNaと水はセットで移動するため、Na量は細胞外液量と対応します。

容量調節”Volume regulation”の問題点

ここで話をまた容量調節のシステムに戻します。容量調節は進化の過程で海から陸に上がってから後天的にできたシステムなので完璧ではありません。これらのシステムの不完全性から問題が起こることがあり、以下に解説します。

体液量を感知する手段を臓器血流としたことによる問題

体液量の調節で感知するのは「臓器への血流量」だと解説しました。動脈も静脈も全ての体液量を感知することが難しいため、動脈血の血液量だけを把握することにしたためです。しかし、これだと問題が生じる場合があります。具体的には心不全の場合です。

心不全では心拍出量が低下することで、有効循環血症量は減少しているため、体液量は減少しているという評価になりますが、実際には心不全では静脈に血液が多くプールされているため体液量は増加しています。体は有効循環血症量を体液量の指標として感知するため、体液量は少ないと判断してRAAS活性化や交感神経活性化が起こり、より体液を貯留する方向に傾いてしまいます。これは肝不全、ネフローゼ症候群など有効循環血症量が減少するけど体液貯留が起こる疾患でも同様です。慢性心不全の治療でACE阻害薬、β-blockerを使用するのはこの間違った体液貯留効果を是正するためです(「体液減っていると主かもしれないけど、実際は増えていて勘違いだから大丈夫だよ」と言ってあげるイメージ)。

代議員制の問題点

全ての臓器の意見を聞くことが難しいため、体液量の評価では代議員制を体は採用しました(腎臓・心臓・頸動脈の意見を聞くことで体全体の意見とする)。しかし、これではある地方だけで起こっている問題なのに、全国規模の問題だと勘違いして対応してしまう事態が生じます。例えば腎動脈狭窄がその例で、腎臓への血流が狭窄によって減少すると、腎臓は代表なので、きっと全身の血流が不足しているはずだと考えてRAASを活性化させて体液保持に働きます(これが二次性高血圧の原因になります)。実際には腎臓だけの問題なのに、全身の問題だと勘違いしてしまうということです。これが、代議員制の問題点です。

このようにもちろん完璧なシステムではないですが、体液量は「臓器への血流量(=有効循環血症量)」というかたちで、心臓・頸動脈・腎臓という臓器の代表者に伝え、交感神経・RAAS・ADH分泌という形で体液量の情報を全身に伝えます。進化の過程で陸上で生活するようになり発達してきたシステムなので原始的な浸透圧システムよりもやや複雑で、かつ後天的に付け加えた機能なので、ところどころに穴があります。その穴が何なのかも今までの解説でご理解いただけたのではないかと思います。

3:浸透圧調節 “Osmoregulation”

浸透圧調節は魚の時代からある原始的なシステムなので、容量調節”volume regulation”と比べるとシンプルで正確な完結したシステムです。容量調節の時と同じように、何を?どこで?感知し、どのようにその情報を伝えるのか?を確認していきます。浸透圧の上昇(正確には張度:tonicityの上昇)視床下部で感知し、
1:下垂体後葉からADH(antidiuretic hormone)を分泌することで腎臓の集合管で水の喪失を防ぐ再吸収を行う
2:口渇を引き起こして飲水を促す
この両者によって浸透圧を正常に保とうとします。逆に浸透圧の低下は視床下部で感知し、下垂体後葉からのADH分泌を抑制することで腎臓での水排泄を促し、口渇を抑制することで飲水を抑制することで調節します。ここで調節する要素は“H2O”水になります。浸透圧調節はこのようにシンプルで完結したADHによるフィードバックシステムで構成されています。

容量調節と浸透圧調節をここまでまとめます。

4:細胞外液・細胞内液との対応関係

今まで容量調節と浸透圧調節の機序をそれぞれ学んできました。この2つがどのような関係にあるのかをここでは解説します。体液を血液・間質液(両者を合わせて細胞外液)、細胞内液の3つのコンパートメントに分類し、容量調節と浸透圧調節がそれぞれどのコンパートメントと対応しているかを理解すると分かりやすいと思います。

下図のような関係にあります。

図の左側に容量調節、右側に浸透圧調節があります。

まず左からですが、細胞外液量と総Na量(濃度ではないことに注意)は対応しており、これを容量調節では調節しています。具体的には今まで学んだ通り、有効循環血症量(血液のコンパートメントと対応)を腎臓や頸動脈が感知してRAAS活性化・交感神経活性化・ADH分泌により総合的にNa量を保持することで細胞外液量を保とうとします。

右はNa濃度(浸透圧)を視床下部で感知して、下垂体後葉からADHが分泌され、腎臓の集合管でH2Oの再吸収を行うことでNa濃度を下げ、正常に戻すフィードバックが働いています。Na濃度は(総Na量+総K量)÷総体液量(H2O)で規定されます(図は分かりやすくするためKは省略)。H2Oの再吸収を調整するため、細胞内液量の調節を行っています。低Na血症、高Na血症はこの浸透圧調節に乱れが生じた場合に起こります。

まとめ
Na量:細胞外液量と対応 *Na濃度ではない
・Na量多い:細胞外液量多い(浮腫)
・Na量少ない:細胞外液量少ない(脱水)

水(H2O):浸透圧(Na濃度)・細胞内液量と対応
・H2O多い:低浸透圧(低Na血症)・細胞内液量多
・H2O少ない:高浸透圧(高Na血症)・細胞内液量少

例えばNaが単独で負荷された場合はどうなるでしょうか?総Na量が増え、H2O量は変わらないので左では細胞外液量が増加し、右ではNa濃度が上昇します。容量調節では有効循環血症量が増加するため、RAAS、交感神経などは抑制され腎臓からのNa排泄が促進されます。浸透圧調節ではNa濃度上昇を視床下部が感知してADHを分泌してH2Oを腎臓から再吸収と飲水を促すことで、体内のH2Oを増加させ、Na濃度を下げます。これが正常化するまでフィードバックとして働きます。これによって容量調節と浸透圧調節いずれも正常に機能して体液の恒常性が保たれます。

■容量調節と浸透圧調節の関係:ADHの役割

容量調節と浸透圧調節は独立したものではありません。図でADHに左側からくる矢印があると思います(下図赤色矢印)。ADHは有効循環血症量が減少した場合も分泌されることが知られています(具体的には有効循環血症量が10%以上減少した場合 下図参照)。

低Na血症の鑑別で必ず体液量の評価を行う項目がありますが、それは容量調節が浸透圧調節に影響を与えていないか?つまり、有効循環血症量が減少してADHが分泌されることで浸透圧調節に影響を与えていないか?を知るためです。

これは本来のADHが形成している浸透圧調節のフィードバックに余分にADH足されるので、H2O再吸収が多くなってしまい全体として低Na血症に傾くことになります。心不全での低Na血症の機序はこれによるものです。

■その他の原因によるADH分泌

ADH分泌は容量調節以外が原因で起こる場合があり、これをSIADHを呼びます(下図ADHへ右側から左へ向かう矢印・赤色で表現)。この場合も本来のADHが形成しているNa調節フィードバックにADHが過剰に加わるのでH2O再吸収が増加してしまい、結果低Na血症になってしまいます。SIADHの定義に体液量が正常であることの記載がありますが、これは容量調節によるADH分泌が除外されていることと同義です。

5:低Na血症の病態・検査

ようやくここに到達しました。これまでの流れを理解できていれば低Na血症の病態は理解できます。浸透圧調節のADHによるフィードバックシステムを中心に原因を分類すると以下の様に分類することが出来ます。

原因
1:ADHフィードバックシステム正常の場合
・過剰な水分摂取(いわゆる水中毒)
2:ADHフィードバックシステム異常の場合
・ADHの過剰分泌
 ・容量調節の問題(有効循環血症量減少によるADH分泌)
 ・その他の原因(SIADH・甲状腺機能低下症・副腎不全)
・ADH作用異常:腎臓尿細管でのfree water産生障害(腎不全・利尿薬・尿細管障害など)

ではどのようにこの原因へアプローチすればよいでしょうか?知りたいことは以下の2点です。
1:ADHのフィードバックシステムが正常に機能しているか?機能していないか?
2:ADHの過剰分泌が容量調節の問題かどうか?

前者を知るためには尿Na・尿浸透圧をみます。後者を知るためには体液量の評価を行います。このような鑑別の流れに乗ると、自然と以下のフローチャート(教科書でよく見ますよね)になることが分かると思います。

低Na血症へのアプローチをこのように病態を踏まえると自然とこのフローチャートにたどり着きます。フローチャートを覚えるのではなく、その背景にある水代謝を理解することでより深く理解することが出来ると思います。

かなり気合を入れて今回は書かせていただきました。参考になりましたら幸いです。

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