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体温調節 thermoregulation

1:体温調節の機序

体温中枢は「視床下部」で、ここでの体温を深部体温(核心温: core temperature)と表現し、末梢は「皮膚」が中心でここでの体温を皮膚温(skin temperature)と表現します。人類は恒温動物(homothermic animal)であるため、環境音の変動に対して体温を一定に保つ必要があります。ここでの体温とは「深部体温」を意味しており(皮膚温を調節したい訳ではない)、深部体温が上昇するとそれを下げる機序が働き、深部体温が低下するとそれを上げる機序が働きます。

具体的には、末梢(皮膚・環境温)からのfeedback、もしくは中枢(視床下部)への刺激(物理的刺激、もしくは細菌感染でのIL1→PGE2による刺激)により、中枢(視床下部)に刺激が伝わり、同部位で体温のセットポイントを設定し、熱産生もしくは熱放散により深部体温を調節します。

人体の体温調節をまとめると
1:体温の感知:中枢(視床下部)>>>>末梢(皮膚)
2:体温セットポイントの調節:中枢(視床下部)
3:体温調節
・熱放散:皮膚(皮膚血流の調整・発汗など)
・熱産生:骨格筋(ふるえ)、褐色脂肪細胞
となります(下図参照)。

熱産生は骨格筋のふるえ、褐色脂肪細胞の代謝によって行われます。

熱放散において「皮膚」は外環境と接する解剖構造なので重要です。深部体温を下げる場合は、深部体温を血流に乗せて末梢(皮膚)へ届け熱放散を行います。このように皮膚血流は深部体温を末梢へ届けるため重要で、皮膚血流を増加させることで最も効率的に深部体温を下げることが出来ます。 皮膚血流は心拍出量の最低でほぼ0%~最大約30%まで調節することができます。

熱放散を理解するには熱の伝わり方を理解する必要があるため解説します。人体に限らず熱の伝わり方には3つの方法があります。(参照:図解でわかる危険物取扱者講座「熱の移動」)

1:輻射 (radiation)
熱が電磁波を媒体として伝わる方法です。例としては電子レンジ(電子レンジ自体が温かくなって温める訳ではなく、電磁波で温める)、太陽光(太陽自体の熱ではない)などが挙げられます。人体の熱放散の機序として最も重要で約60%程度を占めるとされています。

2:伝導 (conduction)
熱が接している物質を媒体として直接熱が伝わる方法です。例としては冬に温かい飲み物を手に持っていると手が温かくなる現象です。熱伝導のしやすさを熱伝導率と表現し、固体>液体>気体の順に伝わりやすいです。人体では例えば衣服が濡れている場合、水中にいる場合は体温が熱伝導で奪われやすくなります。逆に気体は熱伝導が低いので断熱効果があるともいえます。

3:対流 (convection)
熱が温度差が生じた流体を媒体に移動する方法です。気体と液体は温かいと密度が小さくなるため上へ行き、流れが生じます。人体では体の周囲の空気は体熱の伝導によって温められますが、何も服をきていないとそのまま対流によって移動してしまい、熱が放散しやすくなります。服はこの体熱で温められた空気の移動を制限することで熱放散を防ぎます。

4:蒸発 (evaporation)
上記3つとは異なりますが、水が蒸発するときに気化熱が生じ、これにより放熱する方法です。人体では不感蒸泄、発汗により蒸発を利用した熱放散を行います。

これらの機序により深部体温を一定に保つようにしています。

深部体温はこのような機序で一定に保たれますが、皮膚温は環境温度の影響を受け、また皮膚血流量の調節などにより影響されるため一定ではありません。深部体温と皮膚温は解離するため、普段私たちは体温を腋窩温で測定していますが、これは正確に深部体温を表現できないことに注意が必要です。より正確に深部体温を表現する測定部位としては血液温、直腸温、膀胱温、鼓膜温などが挙げられます。

2:発熱(fever)と高熱症(hyperthermia)の違い

体温中枢の視床下部が体温のセットポイントを上昇させる病態か?セットポイントは不変の病態か?が大きな違いになります。

発熱(fever)
endotoxinやIL-1の作用によりPGE2(プロスタグランジン)が産生され、これが視床下部に作用して体温のセットポイントを上昇させます。これにより例えば現在の体温が36.5度のところが、セットポイント38.0度になると実際の体温がセットポイントと比べて相対的に低くなってしまい悪寒(chills)が生じ、熱産生によりセットポイントまで体温を上昇するためふるえ(shivering)末梢血管収縮(皮膚血流を制限することで深部体温の喪失を防ぐ)が起こります。
その後、体温がセットポイントの38.0度に到達するとこれらの悪寒やふるえは収まります(臨床でも悪寒戦慄の後に体温がぐっと上昇する場面によく遭遇すると思います)。
さらにその後、セットポイントが元の36.5度に戻ると今度は体温がセットポイントと比べて相対的に高い状態になるので、熱放散により体温を下げようとし、発汗末梢血管拡張(解熱のタイミングで血圧低下が起こりやすいのはこれが原因です)が起こります(下図参照ください)。
感染症による発熱はこの機序によるもので、NSAIDsやステロイドはセットポイントを上昇させるPGE2産生を抑えるため(アラキドン酸カスケード)、解熱に関与します。

高熱症 (hyperthermia)
一方高熱症では発熱と異なり、体温のセットポイントは変わりません。外界からの熱に対して熱放散が追い付かない病態です。熱中症はこの病態です。セットポイントの問題ではないため、NSAIDsやステロイドは効果がありません。

以上体温調節の機序に関してまとめました。