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上肢単独の運動障害へのapproach

0:上肢単独の運動障害

ここでは「突然右手が動かなくなった」という症状で救急外来に患者が来た場合を考える。慢性の経過ではなく、特に脳血管障害と鑑別となる突然発症の病態を中心に説明する。

1:脳梗塞

片側の上肢だけの障害では脳梗塞ではないと思うかもしれないが、実際には単麻痺(顔だけ、上肢だけ、下肢だけといった一か所の障害のこと)の原因として上肢は最多である。単麻痺は脳梗塞全体の4.1%を占め、そのうち上肢単独は63%、顔面単独22%、下肢単独は15%となっている。

なぜ上肢単独麻痺は多いのであろうか?
上図のホムンクルスを見たことがある人もいるかもしれない。これは脳の中での体部位局在(体の部位が脳のどの部位と対応したかを表したもの)を反映しており、手と顔の割合が非常に大きいことが目に付くと思う。このように大脳皮質において上肢(特に手)の占める割合は非常に大きい。このことが脳梗塞単麻痺の原因として上肢が多いことと対応している。

実際に大脳皮質では「手」の領域が同定されており、“precentral knob area”と称される。同部位に脳梗塞が起こると上肢(手)単独の麻痺がおこる。特にこの部位の梗塞は頸動脈プラークからの”A to A”機序が多いとされている。

以下に一部その具体例を提示する。

Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases 2018;27:2712

2:急性上肢動脈閉塞 ALI: acute limb ischemia

動脈閉塞というと激烈な症状で診断を間違えることは少ないと思うかもしれない。しかし、下肢と異なり上肢は側副血行路が発達しているため疼痛が少なく、症状が軽微な場合が多いため注意が必要だ(逆にその分下肢と比較すると肢切断に至る場合は少なく、予後は良いことが指摘されている)。「少し手が動かしづらい」「少し手がしびれる」といったごく軽度の症状で頚椎症や手根管症候群、脳梗塞などどと間違えてしまう場合がある

血圧の左右差をみればわかる場合もあるが、上腕動脈以遠で閉塞を起こすと通常に測定した血圧では左右差は生じない。そのため、必ず橈骨動脈の触診で左右差がないかどうか、色調に左右差はないか、温度に左右差はないかを確認する。

閉塞する血管としては上腕動脈が61%と最多であり、腋窩動脈20%、橈骨・尺骨動脈16%、鎖骨下動脈2%と続く。原因としては心房細動による塞栓機序が最多である。

以下に具体的な実例を提示する。

3:橈骨神経麻痺

「起床後から手・腕が動かしづらい」という症状は脳血管障害はもちろんだが、かならず圧迫性神経障害、特に橈骨神経麻痺を鑑別に挙げる必要がある。「起床後から」という病歴の場合は、必ず左右どちらを下にして就寝していたか、その体勢を含めて確認するようにしよう。

橈骨神経領域の運動を調べることは重要であるが、感覚障害の分布に注目すると診断がしやすい。橈骨神経麻痺では母指示指背側の水掻き領域に感覚障害を認める。詳細な神経所見の評価はここでは省略するが、病歴と感覚障害の分布から疑えるようにしたい。

以上特に脳血管障害との鑑別(つまり突然発症の様式)としての上肢単独麻痺に関して説明した。