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アルガトロバン argatroban

ここでは急性期脳梗塞でのアルガトロバンの位置づけについて調べた内容をまとめていきます。

管理人の意見

・端的にまとめると「非心原性脳梗塞のアテローム血栓性やBAD(branch atheromatous disease)といった早期に初期に高率に神経所見が増悪する(early neurological deterioration: END)病態では、初期から抗血小板薬(DAPT)にアルガトロバン併用が望ましい」です。特に来院までに増悪しているケース,症状が変動している場合,画像上増悪リスクが高い場合などが挙げられます。
・BADについてはこちらを参照ください。
・元々アルガトロバンはエビデンスない三羽烏と言われてきましたが、それはあくまでも「こういった病型に絞っていない場合の議論」であったので、近年病型を絞った上で前向き研究できちんと効果が証明されてきたことは大きな意義があると思います。

アルガトロバン投与方法

1(持続投与):アルガトロバン60mg(=12mL) + 生食36mL (=計48mL) 2mL/hrで持続静注(計48時間)
↓その後
2(間欠投与):アルガトロバン10mg + 生食100mL 3時間かけて点滴静注 1日2回(計5日間)

ガイドライン上の推奨

脳卒中治療ガイドライン2021

脳梗塞急性期 1-4 抗凝固療法

  1. 発症48時間以内の非心原性・非ラクナ梗塞に、選択的トロンビン阻害薬のアルガトロバンを静脈投与することを考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル中)

AHA/ASA Guideline

“Guidelines for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke: 2019 Update to the 2018 Guidelines for the Early Management of Acute Ischemic Stroke” Stroke. 2019;50:e344–e418

3.10.Anticoagulants

3. “At present, the usefulness of argatroban, dabigatran, or other thrombin inhibitors for the treatment of patients with AIS is not well established.” Ⅱb B-R
*(管理人訳)現時点で急性期脳梗塞に対するアルガトロバン、ダビガトラン、その他トロンビン阻害薬の治療における有用性は確立してない。

臨床試験

“ARAIS” trial JAMA. 2023 Feb 9. doi: 10.1001/jama.2023.0550.

・急性期脳梗塞でrt-PA適応症例にアルガトロバンを併用することで神経学的予後を改善できるか?というRCTです. 結論は両群で神経学的予後に有意差はなく, 出血合併症に関しても差はない結果でした.

過去の臨床試験と本研究の違う点
・sample sizeが大きい大規模試験である
・NIHSS=8-9点と過去の試験(NIHSS=13-19.5点)よりも重症度が低い
・大血管閉塞は必須ではない

Subgroup analysis
・年齢、性別、来院時のNIHSS(9点をカットオフ)、血管内治療の有無、血管閉塞の有無、発症からの時間(3時間をカットオフ)、来院時のmRS、脳梗塞またはTIAの既往はいずれも有意差はない。

Limitations
・アルガトロバン群で同意が得られずpower(n=367)に達していない
・機能予後良好が当初の想定21%よりもはるかに高い64%である(これは最初のNIHSS点数と関係しているかもしれない)
・unblindedである(endpointはblinded)
・大血管閉塞が過去の研究よりも少ない
・アルガトロバン投与量は過去の研究よりも少ない

解釈と適応(私見)
・あくまでもrt-PA適応症例に限定しているのでrt-PA非適応例でアルガトロバン併用に意味があるか?という点に関してはこの臨床研究からは分かりません。実臨床でアルガトロバンを使用するのはrt-PA非投与例でのBADやアテローム血栓性だと思うのでその点に関しては答えはない点に注意です。

“ARGIS-1” Stroke 2004;35:1677-82.

・北米171例の急性期脳梗塞患者(発症≦12時間・NIHSS=5-22点・rt-PAは除外)をアルガトロバン投与群(bolus+3μg/kg/min or 1μg/kg/min 5日間投与)とプラセボ群に分け(標準治療としてアスピリンは投与されている)、30日後の症候性頭蓋内出血を比較したdouble-blinded RCT。
・結論は症候性頭蓋内出血に関して有意差なし。神経機能予後に関しても有意差なし。
・primary outcomeが安全性の検討である点がポイント。

“ARTSS-2” Stroke 2017;48:1608-16.

・90例のrt-PA実施の急性期脳梗塞患者をアルガトロバン併用群とプラセボ群に分け、症候性頭蓋内出血を検討し、症候性頭蓋内出血は増やさず、有用性も示さず

過去のRCT4件のmeta-analysis World J Clin Cases 2022;10:585-93.

結論 *先述のARAISは2023年発表のため含まれていない
・アルガトロバンはプラセボと比較して有効性証明されない。
・出血合併症は増やさない。

DAPT+argatrobanについてのsingle arm study Brain Behav. 2022;12:e2664.

・こちらの論文はRさんからコメントで教えていただいた臨床研究です。RCTではないですが実臨床で最も知りたいところの「アテローム血栓性の場合に抗血小板薬にアルガトロバンを追加することで機能予後を改善できるか?」という疑問を元に臨床研究がされています。
・この結果ではアルガトロバン併用の方が良い結果でした。今後前向き研究が待たれるところです。

・Design: prospective, open label, single arm study *RCTではない点に注意
Patient: 急性期脳梗塞 発症≦72時間, NIHSS≦12, アテローム血栓性(TOASTでの大血管硬化)
exclusion: 血栓溶解療法, 脳卒中既往によりmRS>1, アテローム血栓性以外の原因, 脳出血既往
Intervention: DAPT+argatroban*前向き single arm
*argatroban 2-5日間持続投与 100μg/kg bolus投与→1.0μg/kg/min持続投与
Control: DAPTのみ(ここは後方視的に集められたデータである)
Primary outcome: 発症7日間のearly neurological deterioration(baselineからのNIHSS≧1以上の神経所見増悪) 4.2% vs 10.0% adjusted p=0.046
・Secondary outcome: 発症7日後のNIHSS baselineからの低下 1.06+2.03 vs 0.39± 1.97 adjusted p=0.003, 90日後のmRS 0-1 66.7% vs 64.5% adjusted p=0.088, mRS 0-2 87.5% vs 79.2% adjusted p=0.048
・safety outcome: 7日後頭蓋内出血 0% vs 0%, 90日後の臓器出血 0.8% vs 0.2%, 90日後全死亡 0% vs 0.6%

以下2024/1/12追記:上記私見で記載していた「神経所見が増悪する患者に限定した前向き研究」がついにpublishされたためまとめます(ついに出た!という感じですね)。

END(early neurological deterioration)を呈する急性期脳梗塞患者におけるアルガトロバンの有用性 

“Argatroban in Patients With Acute Ischemic Stroke With Early Neurological Deterioration: A Randomized Clinical Trial.” JAMA Neurol. 2024 Jan 8:e235093. doi: 10.1001/jamaneurol.2023.5093. Epub ahead of print. PMID: 38190136; PMCID: PMC10775075.

Design:open-label, blinded-end point RCT
P:急性期非心原性脳梗塞患者
inclusion criteria:発症48時間以内+END(発症48時間以内のNIHSS2点以上の増悪)
exclusion criteria:心原性塞栓症、頭蓋内出血、発症前mRS>1、アルガトロバン禁忌該当、重度心不全(EF<40%)、肝不全、腎機能障害(CCr<30ml/min)、予後3か月未満
 *患者背景:628例(中国)、年齢65歳、男性63.7%、再灌流療法約20%、悪化前NIHSS=4点、悪化後NIHSS=8点、発症からランダム化割り付けまでの時間=24時間、TOAST分類 大血管硬化(アテローム血栓性) 約45%, 小血管病(ラクナ梗塞)約42%
I:アルガトロバン併用群
*アルガトロバン投与スケジュール:初期2日間 60mg/日、その後5日間20mg/日(計7日間持続投与)

C:非併用群
*両群で標準治療として抗血小板薬を使用するがSAPT or DAPTの選択に関しては現場の医師にゆだねられている
O:90日での神経学的予後良好(mRS=0-3と定義)
・アルガトロバン併用群 80.5% vs 非併用群 73.3% `
*risk difference, 7.2%; 95% CI, 0.6%-14.0%; risk ratio, 1.10; 95% CI, 1.01-1.20; P = .04


・症候性頭蓋内出血 0.9%(n=3) vs 0.7%(n=2) 有意差なし *頭蓋内出血を増加させない
・その他出血 0.6% vs 0.4% 有意差なし

機序に関しての考察仮説:抗凝固療法による血栓の進展予防効果・血栓形成「後」よりも血栓形成「前」の方が抗凝固療法は効果が高いことが重要
アルガトロバン投与期間に関して:ENDが生じやすい最初48-72時間をカバーすることが重要

この研究結果を踏まえての管理人私見
・上記でも記載しているがBADやアテローム血栓性といったENDを呈する病態にpopulationを絞ることでアルガトロバン併用が有用であったことが示された。実は日本の多くの施設では元々アルガトロバン併用を行っているため、この点が正しいことが証明された。
・元々よくエビデンス無い三羽烏として①エダラボン、②オザグレル、③アルガトロバンが指摘されていたが、③アルガトロバンは元来Studyが対象患者を広げ過ぎていたため検証できていなかっただけである。
・現状はアテローム血栓性やBADに対してはDAPT+アルガトロバン併用のtriple therapyとなるだろう。ただ最初からアルガトロバンを併用するか?増悪してから併用するか?に関しては判断が難しい。正直増悪時の機能予後のインパクトの大きさを考慮すると発症早期かつ来院時までに増悪しているケースや画像上明らかBADの場合は初期からアルガトロバン併用を実施しても良いと思われる。特に前向き研究で出血合併症がアルガトロバン併用群で増加しなかった点も臨床上与えるインパクトは大きい。
・また本研究は中国からの報告であり、同じアジア圏に属する日本にとっても大きな意味を持つ。

BADに対するDAPTにアルガトロバン併用の有用性に関するRCT

“Effect of Argatroban Plus Dual Antiplatelet in Branch Atherosclerosis Disease: A Randomized Clinical Trial” Stroke. 2025;56:00–00. DOI: 10.1161/STROKEAHA.124.048872

END高リスクのBAD患者(発症48時間以内,NIHSS≦5点)に対してDAPTにアルガトロバン併用群と非併用群を比較したRCT(open-label, blinded-outcome)、中国の多施設共同研究
・背景
①BADは脳梗塞全体の約10-15%を占め,ENDは発症後48〜72時間以内に多く,17%〜75%と報告されている.
②DAPTを使用していてもENDは十分に食い止められない。入院後48時間以内にNIHSSスコアが5以下のBAD患者の34.5%がENDを経験し、3ヶ月時点で38.2%が不良な機能的転帰(mRSスコア2以上)を示した。
③アルガトロバン併用によりENDを食い止められないか?の検討。

Patient: 発症48時間以内、NIHSS≦5点、高リスクに該当するBAD(18-80歳)

inclusion criteria
高リスク:以下の条件の少なくとも1つを満たす(①内包の梗塞で病変径が10mm以上かつ3層以上に及ぶ場合、②橋下部の梗塞で病変が橋の腹側に及ぶ場合、③LSA後方型梗塞で病変が後部放線冠に位置する場合、または④穿通枝領域に多発性梗塞がある場合)
• 入院後、頭部CTスキャンで頭蓋内出血が除外されていること。 大血管狭窄の評価のため、頸部および頭部のCT血管造影またはMRAが実施されていること。

Exclusion Criteria
• 静脈内血栓溶解療法または機械的血栓除去術の基準を満たす患者。• 脳卒中発症前に既存の障害があった患者(modified Rankin Scale [mRS] スコアが1を超える)。• 心房細動の患者、またはダビガトランやリバーロキサバンを含む抗凝固薬を使用している患者。• 非外傷性頭蓋内出血の既往がある患者、または画像検査で重度の白質病変(Blennowスコア3またはmodified Fazekasスコア3など)のように頭蓋内出血のリスクが高いと示唆される患者

特性 (Characteristics)アルガトロバン+DAPT群 (n=49)DAPT単独群 (n=51)
性別 (Sex), n (%)
男性 (Male)33 (67.3)30 (58.8)
女性 (Female)16 (32.7)21 (41.2)
年齢 (Age), 中央値 (IQR) (歳)61 (54–71)67 (57–76)
入院時NIHSSスコア, 中央値 (IQR)2.0 (1.5–4.0)2.0 (1.0–3.0)
発症から無作為化までの時間 (h), 中央値 (IQR)20.45 (12.92–33.47)21.35 (8.92–33.27)
脳卒中リスク因子, n (%)
高血圧 (Hypertension)41 (83.7)42 (82.4)
糖尿病 (Diabetes)11 (22.4)22 (43.1)
脂質異常症 (Hyperlipidemia)25 (51.0)26 (51.0)
脳卒中既往歴 (History of stroke)2 (4.1)5 (9.8)
冠動脈疾患 (Coronary artery disease)1 (2.0)0 (0.0)
心房細動 (Atrial fibrillation)1 (2.0)0 (0.0)
喫煙 (Smoking)18 (36.7)20 (39.2)
飲酒 (Drinking)6 (12.2)9 (17.6)
抗血小板薬服用歴 (Antiplatelet agents)3 (6.1)4 (7.8)
入院時mRSスコア, n (%)
0点 (無症状) (No symptoms)44 (89.8)46 (90.2)
1点 (症状あるが障害なし) (Symptoms without any disability)5 (10.2)5 (9.8)
梗塞部位 (Location of stroke), n (%)
内包 (Internal capsule)27 (55.1)30 (58.8)
橋下部 (Lower segment of the pons)4 (8.2)8 (15.7)
LSA後方型 (LSA posterior type)18 (36.7)11 (21.6)
多発性梗塞 (Multiple infarctions)0 (0.0)2 (3.9)

I:DAPT+アルガトロバン併用
*アルガトロバン投与方法:2日間 60mg/日→3-7日目 20mg/日

C:DAPT+プラセボ
*初日にアスピリン100mgとクロピドグレル300mgを経口投与され、2日目以降はアスピリン100mgとクロピドグレル75mg

O:7日以内のEND, 90日後の神経予後良好(mRS=0-1)
*END(early neurological deterioration):NIHSSが7日以内に2点以上増悪, ENI(early neurological improvement):NIHSSが7日以内に2点以上増悪

アルガトロバン + DAPT群 (n=49)DAPT単独群 (n=51)未調整リスク差 (95% CI)未調整リスク比 (95% CI)未調整P値
主要評価項目
7日以内の早期神経学的悪化 (END)10 (20.4%)24 (47.1%)26.7% (14.1–39.2)2.31 (1.49–3.58)0.006
90日時点での良好な機能的転帰 (mRS 0-1)43 (87.8%)35 (68.6%)-19.1% (-30.3 to -8.0)0.78 (0.67–0.91)0.025
副次評価項目
7日以内の早期神経学的改善 (ENI)§11 (22.4%)2 (3.9%)-18.5% (-27.5 to -9.5)0.17 (0.06–0.49)0.014
90日時点での良好な機能的転帰 (mRS 0-2)45 (91.8%)43 (84.3%)-7.5% (-16.4 to 1.4)0.92 (0.83–1.02)0.255
NIHSSスコア変化 ≤-1 (7日)20 (40.8%)7 (13.7%)-27.1 (-38.9 to -15.3)0.34 (0.16 to 0.72)0.003
NIHSSスコア変化 ≥1 (7日)7 (14.3%)21 (41.2%)26.9 (15.1 to 38.7)2.88 (1.35 to 6.16)0.004
NIHSSスコア変化 ≥3 (7日)5 (10.2%)14 (27.5%)17.3 (6.7 to 27.8)2.69 (1.05 to 6.91)0.034
新たな血管イベント (90日以内)00NANANA
安全性評価項目
出血イベント(軽度)1 (2.0%)1 (2.0%)-0.1 (-4.0 to 3.8)0.96 (0.14 to 6.69)0.977
出血イベント(中等度〜重度)00NANANA
あらゆる原因による死亡00NANANA

管理人のひとこと
・まずJAMA Neurolの研究ではENDを呈した患者に限定していたのに対して、今回の研究ではENDを呈する前の段階、つまり増悪リスクの高いBADとより先手を打った治療にでることで治療効果がどうか?を検討した研究です。
・中枢神経は一度ダメージを受けてしまったらそこから改善するのは困難なので、本来こうした高リスク患者に対して先行的に強い治療を導入するというのはreasonableな考え方です。
・患者数はそこまで多くないですが、outcomeは衝撃的です。
・個人的にはNIHSS2点とベースの脳梗塞がかなり軽症であったという点は留意すべきかなと思います。実際にBADはある程度重症の方も一定数いますので、軽症のBADに限定される点に注意です。

管理人記録
・2024/1/12新しい論文内容を追記 “Argatroban in Patients With Acute Ischemic Stroke With Early Neurological Deterioration: A Randomized Clinical Trial.” JAMA Neurol. 2024 Jan 8:e235093. doi: 10.1001/jamaneurol.2023.5093.