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薬剤性振戦 drug-induced tremors

日常遭遇することの多い(神経内科のコンサルテーションでも非常に多いです)薬剤性振戦に関してまとめます。振戦一般に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。今回は Lancet Neurol 2005; 4: 866–76 の内容をまとめたものですが、古い文献が多く引用されておりダウンロードできなかった文献が多く、引用として引かれている文献名をそのまま掲載しているものも多いです。申し訳ございません。

原因薬物

■抗不整脈薬
アミオダロン:約1/3の患者に振戦を認めるとされ(6-10Hz前後で本態性振戦に似る)、薬剤治療中どのタイミングでも生じ、用量依存性とされています。薬剤の中止か減量の2週間以内に改善するとされています(機序は不明)。アミオダロンは甲状腺機能に影響を及ぼすため、甲状腺機能亢進症でも振戦が生じるため必ず甲状腺機能チェックが必要です。 Neurology 1984;34: 669–71.
・プロカインアミド 、メキシレチン:機序不明

■抗微生物薬:報告極めて少ない
・抗菌薬 ST合剤:報告あり
・抗真菌薬 アムホテシリンB
・抗ウイルス薬:ビダラビン、アシクロビル

■抗うつ薬
TCA:アミトリプチンが有名。β遮断薬で改善することが示されている。
SSRI:20%程度に認め、6-12Hz、治療開始1-2か月後に認める場合が多い。セロトニン症候群に注意(こちらを参照)。
リチウム:頻度多く重要(報告によって4-65%とまちまち)。8-12Hzで手が主体の場合が多い。

■抗てんかん薬:バルプロ酸が代表でその他は少ない
バルプロ酸:抗てんかん薬の中で最も振戦と関係があるのがバルプロ酸で、25%に認めると報告されています(Neurology 1982; 32: 428–32.)。用量依存性に起こり、減量すると数週間以内に軽減するとされています。もちろん薬剤の中止/変更が望ましいですが、変更が難しい場合はβ遮断薬のプロプラノロール(アマンタジン、アセタゾラミド)が振戦軽減に効果ありとされています。バルプロ酸一般に関してはこちらにまとめがあるのでもしよければご参照ください。
・むしろその他の抗てんかん薬は振戦に対して治療的に働くことがある(プリミドンは本態性振戦の推奨度A)

■気管支拡張薬
・SABA:サルブタモール、サルメテロール
・テオフィリン、アミノフィリン

■化学療法
・サリドマイド:末梢神経障害は不可逆的であるが、tremorは可逆的とされている。
・シタラビン:小脳障害
・報告あるレベル:イフォスファミド、ビンクリスチン、シスプラチン、タモキシフェン

■消化管関連
メトクロプラミド:薬剤性パーキンソニズムだけでなく本態性振戦に似た振戦をきたす場合があり、腎機能障害がリスク因子として挙げられます(JAMA 1961; 175: 1054–60.:本文を読めていませんがこちらの文献が引用として挙げられていました)。
・シメチジン(H2RA):J Neurol Neurosurg Psychiatry 1981; 44: 94.
・ミソプロストール:Ann Emerg Med 1991; 20: 549–51.

■ホルモン関連
・レボチロキシン

■免疫抑制剤
カルシニューリン阻害薬シクロスポリン、タクロリムス 有名で頻度も多い J Neurol 1999; 246: 339–46. カルシニューリン阻害薬に関してはこちらを参照。
・IFNα

■抗精神病薬
薬剤性パーキンソニズムはドーパミン受容体の80%がブロックされると生じるとされ(Arch Gen Psychiatry 1988; 45: 71–76.)、定型よりも最近の非定型抗精神病薬の方がリスクは低いです(がそれでも生じます)。薬剤性パーキンソニズムに関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。
・薬剤性パーキンソニズムの35%はtremor発症とされ、経過中に60%でtremorを認めるとされます。
・教科書にはパーキンソン病と違い左右対称のことが多いとされていますが、実際には左右非対称のケースも多いことが指摘されています。
・背景にsubclinicalなパーキンソン病があると抗精神病薬によりunmaskされて顕在化する場合があり注意が必要です。このような鑑別が難しい場合はDAT scanが有用です。

*参考:薬剤と振戦のパターンに関してのまとめ

診断

1:他疾患の除外
・薬物離脱(特にアルコール離脱)、甲状腺機能亢進症、低血糖など
2:薬剤開始との時間的関係
3:用量との相関関係
・薬剤性振戦は通常用量と相関関係にあり確認します(増量すれば振戦は悪化し、減量すれば振戦は軽減する)
4:経過が進行性ではない
・通常パーキンソン病や本態性振戦は進行性の経過をたどりますが、薬剤性振戦は用量の変更がない限りはどんどん進行することはありません。この時間経過がひとつ重要です。

対応/治療

1:日常生活に支障を生じるか? 職業上少しの振戦も許容できないか?
・振戦はパーキンソン病や本態性振戦でもそうですが、日常生活に支障がない程度であればある程度許容します。
・しかし歯科医の方や漫画家さんなど職業柄手が少しでも震えると困る方の場合は軽度であっても治療介入が必要になります。
・つまり個々人の仕事やニーズ、生活に応じた対応が求められます。

2:薬剤の中止/減量、他の薬剤への変更を検討
・薬剤性の場合は薬剤の変更/減量/中止などを検討しますが、原疾患に対してその薬剤がkey drugの場合はやはりリスクベネフィットの天秤での判断となります。

3:どうしても原因薬剤を中止できない場合の対症療法
・β遮断薬プロプラノロールが使用される場合が多いです。

参考文献
・Lancet Neurol 2005; 4: 866–76 少し古い文献ですが薬剤性振戦に関して非常によくまとまったreviewでどれか一つ文献を読むならこれです。本文もほとんどこの文献から引用させていただきました。