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輸血 blood transfusion

  • 2021年5月20日
  • 2025年7月14日
  • 血液

輸血1単位:全血200mLから作られた製剤

原則
1:輸血は副作用が多く、”Do no harm”の精神が特に重要で、不必要な輸血は避ける
2:輸血の適応は予防と治療があり、どちらのために行うのかを分けて考える

赤血球製剤 RBC(red blood cell concentrate)

1単位=140mL(1単位あたりのHb=26-30g:ドナーのHbが13-15g/dLの場合)
適応
1:循環動態が安定している場合
・循環動態が安定している場合: Hb<7.0g/dL(重症疾患でも)
・心血管疾患の既往:Hb<8.0g/dL *整形外科手術、心臓手術の術前も同様
*ACS(acute coronary syndrome)、重度の血小板減少、慢性の輸血依存では閾値は決まっていない
2:循環動態が安定していない場合
・出血急性期はHbが出血の程度を反映しないためHbだけでの輸血判断は困難

投与するべきでない状況:輸血以外で原因が治療出来る病態(鉄欠乏性貧血、ビタミンB12欠乏による貧血など)

使用上の注意点
・希釈する際には生理食塩水で希釈する(ブドウ糖液やリンゲル液は不可)
・K含有があるため腎機能障害、透析患者では注意
・鉄過剰になる場合があるため注意

予測ΔHb:赤血球製剤1単位輸血 ΔHb 値(g/dL)=40÷体重(kg)(g/dL)
(例)体重 50kg 赤血球製剤2単位輸血の場合→ΔHb=1.6g/dL

参考:JAMA. 2016;316(19):2025-2035(AABBのガイドライン)

AABBガイドライン 2023 JAMA. 2023;330(19):1892-1902.

推奨に関して

推奨1

血行動態が安定している入院中の成人患者に対して、制限的輸血戦略を推奨し、Hb 7 g/dL未満の場合に輸血を考慮することを強く推奨する(強い推奨、エビデンスの確実性:中等度)。
多くの臨床試験で用いられている制限的輸血の閾値に準じて、
心臓手術を受ける患者では 7.5 g/dL
整形外科手術を受ける患者や既存の心血管疾患を有する患者では 8 g/dL を閾値として設定することも臨床的に容認されうる。


推奨2

血液疾患および悪性腫瘍を有する入院中の成人患者に対して、制限的輸血戦略を提案し、ヘモグロビン濃度が7 g/dL未満の場合に輸血を考慮することを条件付きで推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性:低)。

リスクに関して

有害事象発生頻度(RBC輸血1回あたり)
非溶血性発熱性輸血反応約 1 / 161 回
アレルギー反応約 1 / 345 回
輸血関連循環過負荷(TACO)約 1 / 125 回
輸血関連急性肺障害(TRALI)約 1 / 1250 回
アナフィラキシー反応約 1 / 5000 回
B型肝炎ウイルス(HBV)感染約 1 / 110,000 回
C型肝炎ウイルス(HCV)感染約 1 / 200,000 回
HIV感染約 1 / 1,600,000 回

その他学会の推奨まとめ

UK National Clinical Guidelines Centre(2016年)
・大出血、急性冠症候群、長期的な輸血を必要としない患者に対しては、
 7 g/dL の制限的輸血閾値を推奨。
急性冠症候群では 8 g/dL を目安に輸血を考慮。
慢性貧血患者では個別の目標設定が望ましい。


European Society of Anaesthesiology(2017年)
活動性出血のある患者では、
 目標ヘモグロビン値を7〜9 g/dLとする。


Frankfurt Germany Consensus Conference(2018年)
・臨床状況に応じて閾値が異なる:
 - 重症患者:7 g/dL
 - 心臓外科術後:7.5 g/dL
 - 股関節骨折・心血管疾患:8 g/dL
 - 急性消化管出血:7〜8 g/dL


Pediatric Critical Care Transfusion and Anemia Expertise Initiative(2018年)
・安定した重症小児:7 g/dL
・先天性心疾患を有する小児:病態と修復段階に応じて異なる
 - 両心室修復:7 g/dL
 - Stage 1 / Stage 2 修復後:9 g/dL


Society of Cardiovascular Anesthesiologists(2019年)
心臓外科では 7.5 g/dL の輸血閾値が妥当。


The Society of Thoracic Surgeons and affiliated groups(2021年)
制限的輸血戦略を支持。
 ※具体的なHb閾値は提示されていない。

血小板製剤 PC:platelet concentrate 濃厚血小板製剤

10単位=200mL、20単位=250mL *濃厚血小板製剤は輸血単位数とmLは相関関係にない点に注意

適応
1:予防
・血小板数<1万/μL(造血不全では5千/μL)
・腰椎穿刺(診断目的)<5万/μL、手術(非脊髄)<5万/μL、中枢神経手術<8-10万/μL
2:治療
・活動性頭蓋内出血<5万/μL

投与を推奨しない疾患
・TTP・ HIT(血栓症増悪のリスクがあるため禁忌)、ITP(血小板輸血の効果乏しい)
・抗血小板薬投与中の非外傷性頭蓋内出血(予後悪化の可能性あり:Lancet. 2016 Jun 25;387(10038):2605-13.)

予想Δ血小板数:濃厚血小板製剤10単位輸血 Δ血小板数=200÷体重(kg) 万/μL
(例)体重50kgの場合:10単位輸血によりΔ4万/μL上昇

使用の注意点
・血小板輸血の生体内半減期は3-5日とされているが、以下の様に頻回に必要な患者などではより短くなる。
・頻回に血小板輸血を繰り返すと抗体が誘導され輸血不応になる場合がある。
・免疫性血小板輸血不応が疑われる場合はHLA抗体を調べる。HLA抗体陽性の場合はHLA適合血小板製剤を使用する。

参考: Ann Intern Med. 2015;162:205-213)、科学的根拠に基づいた血小板製剤の使用ガイドライン:2019年改訂版 日本輸血・細胞治療学会

“Platelet Transfusion 2025 AABB and ICTMG International Clinical Practice Guidelines” JAMA. doi:10.1001/jama.2025.7529

有害事象まとめ

反応の種類出典輸血エピソードあたりの発生率輸血された血小板あたりの発生率NNH 害を及ぼすのに必要な単位数
アレルギー反応AABB技術マニュアル該当データなし10–30/100033–100単位
アナフィラキシー反応AABB技術マニュアル該当データなし0.02–0.05/100020,000–50,000単位
非溶血性発熱性反応AABB技術マニュアル該当データなし1–10/1000100–1000単位
敗血症性反応Hongら, 2016該当データなし≤0.1/100010,000単位
TACO(輸血関連循環過負荷)Whiteら, 20256.6/1000(95% CI, 2.9–11.8)2.6/1000(0.6–5.9)385単位または152エピソード
Hendricksonら, 20168.0/1000該当データなし125エピソード
TRALI(輸血関連急性肺障害)Whiteら, 2024該当データなし0.03/1000(95% CI, 0.022–0.042)33,333単位
Hendricksonら, 20160.8/1000該当データなし1250エピソード

強い推奨

対象患者推奨・ガイダンスエビデンスの確実性主な理由
1.1 出血していない、化学療法中または同種造血幹細胞移植中の骨髄抑制性血小板減少症患者血小板数が<10×10³/μLで血小板輸血を実施すべき中等度リベラルな輸血戦略に利益はなく、<10×10³/μLの閾値が実用的
1.2 重篤な出血のない早産児血小板数が<25×10³/μLで血小板輸血を実施すべき高い<50×10³/μL未満でのリベラルな輸血に利益がなく、害の可能性あり
1.3 腰椎穿刺を受ける患者血小板数が<20×10³/μLで血小板輸血を実施すべき中等度<20×10³/μLの閾値が実用的で、輸血回数を最小化できる
1.4 重篤な出血のないデング熱関連消費性血小板減少症患者血小板輸血を行わない中等度予防的輸血に利益がなく、害の可能性

条件付き推奨

対象患者推奨・ガイダンスエビデンスの確実性主な理由
2.1 自家SCTまたは再生不良性貧血で骨髄抑制性血小板減少症の成人非出血患者輸血による予防を行わない低〜非常に低い臨床試験のサブグループ解析が根拠
2.2 重篤な疾患に伴う(非デング熱性)消費性血小板減少症の成人で重篤な出血のない患者血小板数<10×10³/μLで血小板輸血を実施すべき非常に低いランダム化試験データが不足、実用的な閾値として<10×10³/μL
2.3 中心静脈カテーテル(CVC)留置を行う成人患者(手動圧迫可能部位)血小板数<10×10³/μLで血小板輸血を実施すべき中等度〜非常に低い<10×10³/μLの閾値が実用的で輸血を最小化可能
2.4 インターベンショナル放射線治療を受ける成人患者低リスク手技では<20×10³/μL、高リスク手技では<50×10³/μLで血小板輸血を実施すべき非常に低い手技のリスクに応じた閾値設定が実用的
2.5 非神経外科の大手術を受ける成人患者血小板数<50×10³/μLで血小板輸血を実施すべき非常に低い大手術の出血リスクを考慮した閾値設定
2.6 非血小板減少性患者で心臓血管手術(体外循環含む)を受ける患者(大出血がない場合)血小板輸血を行わない非常に低い血小板使用に利益がないことを支持する限定的データ
2.7 自然または外傷性で非手術的治療の頭蓋内出血があり、血小板数>100×10³/μLの成人患者(抗血小板薬使用者含む)血小板輸血を行わない低〜非常に低い利益がなく、害の可能性があることを支持する限定的データ

血漿製剤 FFP(fresh frozen plasma:新鮮凍結血漿)

1単位=120mL 製剤:FFP-LR-120, FFP-LR-240, FFP-LR-480
含まれている物:凝固因子、免疫グロブリン、アルブミンなど

適応:治療
出血+凝固障害(PT-INR≧2.0 or APTT≧2倍 or フィブリノーゲン≦100mg/dL)
・大量輸血時
・ワーファリン内服中の頭蓋内出血

*参考:ワーファリン内服中の出血対応のまとめこちらもご参照ください)

使用を推奨しない場合
循環血漿量を確保するためにFFPを輸血することはしない。
・出血を伴わない単なる凝固異常を補正するためだけにFFPを予防的に投与することは推奨しない
・ワーファリン投与中のINR補正は重篤な出血合併以外はビタミンK投与を優先

予想Δ凝固活性:1単位のFFP輸血の場合Δ凝固活性=300÷体重(kg) (%)
(例)体重50kg 2単位輸血の場合 Δ凝固活性=12%

*一般的に止血に必要な凝固活性は20-30%とされている

フィブリノーゲン Δフィブリノーゲン=600÷体重(kg) (mg/dL)
(例)体重50kg 2単位輸血の場合 Δフィブリノーゲン=24mg/dL
*一般的に止血に必要なフィブリノーゲン濃度は100mg/dLとされている

使用の注意
・凍結保存されており、使用する際は融解するための時間が必要(一度融解すると再凍結することは出来ない)。このため必要な場合は早めにオーダーしておく。
融解後3時間以内に投与:時間が経過すると凝固因子が失活してしまうため融解後はすぐに投与する。
・Na=150-170mEq/L, Alb=4g/dLと容量負荷になる点に注意する。

参考文献:TRANSFUSION 2010;50:1227-1239.

輸血による合併症・副作用

1:アレルギー・アナフィラキシー
2:溶血反応
・急性(24時間以内):血液型不適合輸血による溶血
・遅発性(24時間以降):輸血に対して抗体が産生され、輸血された血球と抗原抗体反応を起こし溶血をきたす
3:発熱性非溶血性副作用 Febrile non-hemolytic transfusion reaction:FNHTR:輸血中(後数時間以内)の発熱(悪寒、頭痛、嘔気を伴う場合もある)
4:Transfusion-related acute lung injury (TRALI):輸血関連急性肺障害→輸血中(もしくは6時間後以内)による非心原性肺肺水腫→ARDSに準じた対応
5:TACO(transfusion-associated circulatory overload):輸血関連循環過負荷→輸血に循環血漿量増加に伴う心不全
6:感染症

参考文献

・厚生労働省「血液製剤の使用指針」及び「輸血療法の実施に関する指針」の一 部改正

・Blood Reviews 38 (2019) 100593

・Hospitalist「特集 血液疾患」輸血療法の適応と合併症 著:高見昭良先生