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限局性筋炎 focal myositis

非常に久しぶりの投稿がかなりマニアックなテーマになってしまい恐縮です(ここ2ヶ月くらい仕事が立て込んでおり投稿できておらず大変申し訳ございませんでした)。最近外来で「限局性筋炎」を鑑別として考える必要のある症例を経験し、勉強した内容をまとめます。ご経験のある方は是非臨床経験を教えていただけますと幸いです。

限局性筋炎(focal myositi)は1977年Heffnerが報告したことに端を発します(Cancer 1977;40:
301 – 306)。ここでの定義は1つの骨格筋に限局した炎症性偽腫瘍を認め、MRIもしくはEMGで異常所見を認め、病理で筋炎の所見を認めるものです。J Rheumatol 1993;20:1414–16.では“myopathy affecting a single skeletal muscle without systemic manifestation with a histologically proven inflammatory myositis process”と定義されています。いまだ独立した疾患として捉えるべきか症候群として捉えるべきかは結論がついていません、

■限局性筋炎に関して37例後ろ向きのまとめ Neurology ® 2018;90:e1013-e1020.

ここでは限局性筋炎の症例を下図の3項目それぞれで点数化し2点以上のものを組み込んでいます(Lyon大学病院の筋病理2000-2016年のまとめ)。疫学:37例(男性23例、女性14例)、年齢18-80歳(中央値43歳)、発症から診断までの期間は中央値16ヶ月。

他疾患との関連:その他の炎症性疾患32%(ベーチェット病5例、Sjogren症候群、lupus, CREST症候群、AOSD、橋本病、乾癬)、腫瘍24%、神経根症11%、外傷5%、関連なし27%(NADI: no associated disorders identified)
*この報告ではこの様に他疾患との関連性が高いことが推察されます。


1つの筋肉内の1つの腫瘤62%、1つの筋肉内に複数の筋炎38%
部位:下肢70%、上肢22%、頭頸部8%
症状:疼痛81%、筋腫瘤43%、筋炎部位の発赤32%、発熱24% *筋力低下の症例なし
検査:CK81%の症例で正常範囲内(19%で上昇:300-1500 U/L)、赤沈もしくはCRP上昇39%、ANA陽性29%、免疫電気泳動での異常所見52%
画像所見:造影効果93%(25/27)、筋膜の障害26%(7/27)
病理所見(全例筋生検実施):筋原性変化56%、内在核71%、筋線維萎縮91%、大小不同88%、endomysial/perimysial fibrosis 59%、肥大繊維56%、脂肪変性26%、炎症細胞浸潤100%、筋膜73%、血管周囲80%、perimysial76%、endomysial59%

治療:免疫治療64%(ステロイド23例、コルヒチン6例、メトトレキサート4例、アザチオプリン3例、免疫グロブリン2例、シクロフォスファミド1例、TNFα阻害薬1例)。
予後:6.4年の中央値フォローアップで41%が再発

■限局性筋炎115例のまとめ Am J Surg Pathol 2009;33:1016–1024

限局性筋炎に関して既報で最も多い症例をまとめた報告になります。
疫学:年齢7-94例(中央値36歳)、腫瘤の大きさは1.0-20.0cm(中央値3.0cm)


部位:外側広筋・内転筋群・鼠径の筋肉n=39、腓腹筋n=22、体幹、頸部(前頭筋n=8、胸鎖乳突筋n=8)、上肢
病理所見:筋原性変化93%、限局性の神経原性変化89%、線維化や炎症97%

考察:臨床像としてはある特定の筋肉内に腫瘤を認め、それが日から月単位で増大していく経過をとることがわかる。部位としては舌、眼瞼、食道、口腔周囲などの場所に認めた報告もある。疼痛はまれで、全身症状(発熱など)もほとんど認めていない。CKはほぼ正常範囲内で、筋力低下もほとんど認めていない。

鑑別診断としては腫瘍、全身性の炎症性筋疾患、筋ジストロフィー症が鑑別として重要になる。多くの症例で当初の診断はリンパ腫、横紋筋肉腫、筋内脂肪腫、線維腫、骨化性筋炎腫瘍性疾患が考慮されており鑑別診断として重要。炎症性筋疾患では通常左右いずれも、また近位筋から障害される。IBMでは左右非対称に障害されうるが、focalな障害がonsetとなる場合はまれである。とはいえ当初はfocalな障害からはじまり、後に全身性の炎症性筋疾患へ波及する場合もあるため注意が必要である。

予後は良好で通常自然と消退していく。改善が治療介入によるものか自然経過の判断は難しい。

■限局性筋炎のreview Neuromuscular Disorders 26 (2016) 725–733

既報の臨床像まとめ

検査結果:基本的にCK上昇を認めることはまれであり、MRI検査では造影効果は認める

病理像の特徴

原因
・神経病変
・物理的:外傷
・感染症:ウイルス(influenza, Coxackie virus, CMV)、細菌(ライム病、結核)、真菌(カンジダ、アスペルギルス)、寄生虫(Toxoplasma gondii, Trypanosoma cruzi, Sarcocystis, Taenia solium, Trichinella)
・自己免疫:ベーチェット病、その他(SLE、シェーグレン症候群など)
・医原性:スタチン内服(病理学的な証明はなし)
・特発性:ほとんどがこれに該当

治療
・自然と軽快する場合もあるため必ずステロイドが必要な訳ではない。
・使用する場合は0.75mg/kg/日を4-12週間使用することが報告されている。
・CK上昇や炎症反応上昇を認める場合は炎症性筋疾患を考慮するべきである。

まとめると:筋生検が診断には必須であり、他の腫瘍や全身性の炎症性筋疾患を除外した上で成り立つ筋疾患でその多くが特発性ですが、中には背景に腫瘍があったり、自己免疫性疾患を合併している場合もあるため注意が必要となるかと思います。ご経験ある先生いらっしゃいましたら是非ご共有いただけますと幸いです。