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頸椎症性筋萎縮症 CSA: cervical spondylotic amyotrophy

病態

・頸椎症に伴う神経障害の代表的なものは1:頸椎症神経根症と2:頸椎症性脊髄症の2つです。1:頸椎症性神経根症は神経根性疼痛と髄節性の感覚障害(±運動障害)を主体とし、2:頸椎症脊髄障害は索路障害+髄節性の運動・感覚障害を主体とする病態です(頸椎症性神経根症、頸椎症性脊髄症に関してはこちらをご参照ください)。
・ここではこれらの感覚障害や索路障害をほとんど伴わず髄節性の筋力低下・筋萎縮といった下位運動障害を主体に呈する「頸椎症性筋萎縮症」に関して解説します(もともとKeegan型頸椎症と呼ばれていたものも含まれます)。病態に関しては前根もしくは脊髄前角(圧迫もしくは循環障害による虚血)が頸椎症により選択的に障害される機序が考えられています。

・名称がややこしいですが、1965年にKeegan先生が”The cause of dissociated motor loss in the upper extremity with cervical spondylosis:a case report. J Neurosurg 23:528-536, 1965″を発表されたことに端を発し、日本を中心にKeegan型頸椎症、”dissociated motor loss”(解離性運動麻痺)という名称で報告がされました。その後、祖父江先生が1975年に「頸椎症性筋萎縮症」”CSA: cervical spondylotic amyotrophy”の名称を提唱されてからこの名称が定着した経緯があります。この様な経緯もあってかCSAは日本からの報告が極めて多い疾患です。

症候

障害される髄節から、大きく近位型(C5 or C5/6髄節の障害)と遠位型(C8髄節の障害)に臨床的には分類されます。

近位型
C5:三角筋、上腕二頭筋、棘下筋、腕撓骨筋
C6:円回内筋、撓側手根伸筋
・C5単独の障害では、上腕二頭筋はC6からも支配を受けているため、三角筋の筋力低下が上腕二頭筋よりも強いことが特徴です。
・上肢内旋はC5,6,7が関与し、単一の髄節障害では筋力低下は来さないとされています。

園生先生がbrain and nerveでご報告されている近位型32例は年齢60.0±12.0歳、男性28例女性4例、発生は急性(日単位以下)63%、亜急性(週単位)16%、慢性(月単位以上)22%、MRI所見神経根障害25%、脊髄障害25%、両者3%、不明確44%、障害部位C5単独28%、C5/6 53%、C5/6/7 19%となっています。

■遠位型
C8:指伸筋、尺骨神経支配の手内筋
*下垂指が主症状となり、後骨間神経麻痺との鑑別が必要となります(後骨間神経麻痺に関してはこちらをご参照ください)。
下垂指があると、ADMやFDIのMMT評価が不十分になるため注意が必要です。つまりMP関節が屈曲位の状態ではADM, FDIに充分な力が入れられず評価が不十分になります。そのためにはMP関節を伸展位にして評価する(手で支える、机の上に手を乗せるなど)のが望ましいです。

園生先生がbrain and nerveでご報告されている遠位型32例は年齢60.5±10.3歳、男性29例女性3例、発生は急性(日単位以下)75%、亜急性(週単位)9%、慢性(月単位以上)16%、MRI所見神経根障害25%、脊髄障害16%、不明確47%、障害部位C7/8/T1 12%、C7/8 28%、C8単独 47%、C8/T1 12%となっています。

■鑑別疾患

筋萎縮性側索硬化症 特にflail arm型(flail arm型に関してはこちらをご参照ください):髄節性な障害か?(よりCSAらしい)、そうではないか?(よりALSらしい)が最も重要です。
Neuralgic amyotrophy(神経痛性筋萎縮症)
平山病(平山病に関してはこちらをご参照ください)

*下図は第62回日本神経学会「ALSと脊椎疾患の鑑別診断の仕方」亀山隆先生のご講演より一部引用・改変

検査

神経伝導検査:CSAは後根神経節より近位での障害となるため、SNAPは保たれます(この機序に関してはこちらをご参照ください)。

RNST:ALSとの鑑別に有用である報告があり紹介させていただきます。(RNSTに関してのまとめはこちらをご参照ください)

RNSTがCSAとALSの鑑別に有用である報告 Clinical Neurophysiology 128 (2017) 823–829
・ALS患者53例、CSA患者37例でAPB, Trapezius, DeltoidでのRNSTでのabnormal decrement(>5%)を検討した報告です。
・ALS患者ではAPB32%、Trapezius51%、Deltoid75%で>5%のdecrementを認め、CSA患者ではAPB3%, Trapezius0%, deltoid20%で>5%のdecrementを認めました。
・このうちupper-limb onsetのALS患者23例ではTrapezius78%, Deltoid100%でdecrementを認めました。
・このことからCSAとALSの鑑別において、TrapeziusでのdecrementはALSに特異的(100%)であり、deltoidでdecrementを水戸絵m内ことはupper-limb onsetのALSを除外することが示唆されました。

・下図は実際のALS患者でのRNS波形の例です。

針筋電図検査傍脊柱起立筋の評価が前角~神経根の障害か?腕神経叢以遠の障害か?の鑑別に有用です。また罹患筋をMMTでは十分に分離しきれないため、針筋電図での評価が重要になります。CSAでは僧帽筋が障害されない点もALSとの鑑別では重要です。

*参考:僧帽筋 Trapeziusに関して
・C3-5の脊髄副神経から起こり、脊柱管内を上行し(椎間孔を通らない)、大後頭孔を出て頚静脈孔から舌咽神経や迷走神経と一緒に頭蓋外へ出て副神経として下行します。(このため通常は「脳神経」ではなく「脊髄神経」として捉えます)
・脊髄副神経は走行上椎間孔を経由しないため、頸椎症性神経根症では障害されません。評価の点で重要な筋肉です。

画像:対応する病変を認める場合は半数以下とされており、必ずしも対応する画像変化が見られないため、画像で診断することが出来ません。頸椎症性変化の程度とCSAの発症は必ずしも相関関係にないとされています。診断には症候と針筋電図での障害部位の同定・髄節性の評価が最も重要となります。

治療

・保存的療法と手術療法が挙げられます。
・通常まずは保存的療法を行い数ヶ月経過を見た後で(どの期間保存療法を行うべきか?に関しては2-3ヶ月、4ヶ月など報告により様々です)、それでも進行性の場合は手術療法となります。手術療法に関してどの術式が良いか?に関してはまだ定まった見解がありません。近位型の方が遠位型と比べて手術後の予後が良いと報告されています。

参考文献
・BRAIN and NERVE 68 (5):509-519,2016「頸椎症性筋萎縮症」著:園生雅弘先生
・European Spine Journal (2019) 28:2293–2301 CSAに関するreview article