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両側顔面神経麻痺を主徴とするGuillain Barre症候群:facial diplegia and paresthesia(FDP)

両側顔面神経麻痺の鑑別としてギラン・バレー症候群が挙げられます(後はサルコイドーシス、ライム病などが有名でしょうか)。ギラン・バレー症候群の経過中に顔面神経麻痺を合併することは一般的で24-60%に合併するとされていますが、これとは別に両側性末梢性顔面神経麻痺と四肢遠位部での異常感覚を主徴とする臨床亜型として“facial dipelgia and paresthesia”が知られています(下図黄色文字に該当)。典型的なギラン・バレー症候群と異なり四肢筋力低下は目立たず、眼球運動や球麻痺を原則として欠くことが知られています。顔面神経麻痺の4例をRopperが提示したのが端緒(Arch Neurol 1994;51:671)で、ギラン・バレー症候群全体の1%未満とされており稀な病態です(ギラン・バレー症候群の一般的事項に関してはこちらをご参照ください)。

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私は今までの”facial diplegia and paresthesia”は1例経験があります。上気道感染の先行感染後に味覚障害と口から食べ物がこぼれる、目が閉じないという症状で発症され、両側顔面神経麻痺による非常に特徴的な顔貌(鉄仮面)を呈していました(深部腱反射は保たれ、髄液は蛋白細胞解離を認めました)。勉強した内容をまとめます。

以下の内容はFDPの22例まとめ(J neurol 2009;256:1899:FDPに関してもっとも大規模にまとめた報告)より引用します。

■先行感染

先行感染を86%に認め(URI 59%、fever alone 14%、gastrointestinal 9%、CMV IgM 35% (vs 4% in GBS, 0% in Bell, 0% in healthy control)、EBV IgM 20% (vs 2% in GBS))とCMV感染が多いです。抗ガングリオシド抗体は23%抗GM2 IgMを認めました(IgGは指摘なし)。

■臨床症状

四肢遠位部や舌先端部の異常感覚で発症し、数日遅れて顔面神経麻痺をきたすのが典型的とされています。味覚障害も伴いやすいとされています。自覚的な異常感覚を有する反面、他覚的には感覚障害が明らかではないことも多いとされています。
初期症状 limb numbness 86%→3-10日後に顔面神経麻痺を発症
6人:片側→両側へ 7日以内に移行 最初に起こった側の障害が強い
7人:両側同日に移行
11人:味覚障害
*聴覚障害、唾液障害はまれ
*20人numbness 四肢全ての遠位に訴えた
*深部腱反射が保たれていても積極的に疑う必要がある

FDPの臨床上での特徴としては以下のものが記載されています。
神経学的所見
1:急性の発症で進行性の両側顔面筋力低下
2:その他の脳神経の障害、四肢筋力低下、失調を認めない
3:四肢遠位の異常感覚
4:深部腱反射の低下、消失
5:4週間以内にnadirに達してその後改善する
その他
1:神経症状出現前4週間以内の先行感染
2:最近のCMV感染
3:髄液蛋白細胞解離
4:電気生理検査で四肢の脱髄所見

以下が22例のまとめです。

両側顔面神経麻痺に関して

両側顔面神経に関してもここでまとめておきます。

■両側顔面神経麻痺の43例まとめ Neurology 1994;44:1198

顔面神経麻痺で両側性は極めて稀で、顔面神経の1%以下とされています。1909年のMGH320例まとめでは2例(0.6%)Bell麻痺の3/1000人で認めたとされています。Sarcoidosisなど地域性の要素もあり、アミロイドーシスでの報告も多いとされています。この報国では43例の両側性顔面神経麻痺を検討(23年間)しており以下にその原因をまとめます(この文献が古いですが両側顔面神経麻痺が話題になると必ず引用される古典的文献です)。
原因
・benign22人
・両側性Bell麻痺:10人
・GBS:5人
・多発脳神経neuropathy:3人
・brainstem encephaitis:2人
・MFS:1人
・特発性頭蓋内圧上昇:1人
・腫瘍9人(髄膜4人、pontine glioma2人、prepontine:3人)
・感染症5人(梅毒2人、ハンセン病1人、クリプトコッカス髄膜炎1人、結核性髄膜炎1人)
・その他7人 糖尿病、サルコイドーシス、頭部外傷、橋出血、Mobius症候群、SLE、bulbospinal neuropathy