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COVID19と血漿交換

COVID19では過剰な免疫反応が病態の一つとされており、血漿交換療法によりサイトカインを除去することで病態改善につながるのではないか?という点からCOVID19の治療方法として検討されています。過去にインフルエンザA型H1N1が流行した際にも血漿交換が有用であったという報告があります(Pediatr Crit Care Med. 2011;12:e87 – 89)。

ただ問題なのは安全性です。COVID19と一切関係なくICUに入室するような重篤な患者さんに対しても血漿交換療法は安全に施行することができることが指摘されています(Anaesthesiol Intensive Ther. 2013;45(1):7-13)。ただCOVID19に罹患後にSARS-CoV2に対する抗体も血漿交換で除去してしまうことで病態に悪影響がないか?微小循環や抗血栓作用に重要なADAMTS-13, Protein Cや血漿漏出を防ぐのに重要なangiopoietin-1なども除去してしまうことで悪影響はないか?(Stahl et al. Critical Care (2020) 24:363,https://doi.org/10.1186/s13054-020-03070-7)など安全性にも懸念があります。

神経内科としてはCOVID19に合併する神経合併症(例えばGuillain Barre症候群)に対して果たして安全に血漿交換は行えるのか?COVID19の肺炎に血漿交換は悪影響を与えないのか?といった点も気になるため参考になればと思います。前向き研究はなく、全て後ろ向き研究もしくは症例報告となります。

■重症COVID19患者に対して血漿交換療法を実施した10人を後ろ向きに検討

F. Faqihi, A. Alharthy, M. Alodat, et al., Therapeutic plasma exchange in adult critically ill patients with life-threatening
SARS-CoV-2 disease: A pilot study, Journal of Critical Care, https://doi.org/10.1016/j.jcrc.2020.07.001

重症COVID19患者(ARDS、敗血症性ショック、CRS:cytokine release syndrome、ICU24時間以内に集学的治療をしても悪化)に対して血漿交換療法を実施した10人を後ろ向きに検討した文献です。全例で5-7回血漿交換を実施しています。血漿交換による有害事象はなかったとしています。また血漿交換前後でSOFAやサイトカイン値が改善したと報告されています。しかし、その他のステロイド治療なども入っているため本当に血漿交換単独による効果かどうか?は判断しきれません。血漿交換により有害事象が生じなかったという点は今後の参考になる点かと思います。

■血漿交換が実施された37例のCOVID19患者でいずれも重篤な副作用合併なし

Tian S, Chang Z, Wang Y, et al. Clinical characteristics and reasons of different duration from onset to release from quarantine for patients with COVID-19 Outside Hubei province, China.
medRxiv. 2020. doi:10.1101/2020.03.21.20038778

観察研究全体のうちで一部血漿交換が実施された患者に関してのコメントがあり(血漿交換が実施された具体的な患者背景に関しては不明)、そこではショック、腎機能障害、肺塞栓症、DICといった血漿交換に伴う重篤な合併症は認めなかったと報告されています。

この研究もCOVID19患者に対して血漿交換療法は安全に施行できる可能性を示唆しています。

■ICU入室患者での血漿交換療法に関する後ろ向き研究

Critical Care (2020) 24:492 ”Therapeutic plasma exchange in patients with COVID-19 pneumonia in intensive care unit: a retrospective study.”

COVID19感染でICU入室となった73人をGroup1(d-dimer<2 mg/L), Group2(d-dimer>2 mg/L)に分け、Group2を更にGroup2a(血漿交換実施群)とGroup2b(血漿交換未実施群)に分けて後ろ向きに検討しています。propensity score matchingをかけ、血漿交換実施群は未実施郡よりも有意にICU滞在期間と予後が良いことが指摘されています。

■重症COVID19の5例に対して血漿交換を実施した報告

“Plasma exchange in critically ill COVID-19 patients” Critical Care (2020) 24:481

血漿交換でサイトカイン値が下がるのは当たり前で、根本的な病態を改善している訳ではない点に注意と思います。

■症例報告

Altmayer V, Saheb S,Rohaut B, et al. Therapeutic plasma exchange in a
critically ill Covid-19 patient. J Clin Apher. 2020;1 – 4. https://doi.org/10.1002/jca.21830

74歳男性 既往歴:高血圧、糖尿病 BMI:29.8

■症例報告

Yasemin Akkoyunlu, Transfusion and Apheresis Science, https://doi.org/10.1016/j.transci.2020.102924 “The successful management of an elderly Covid-19 infected patient by plasmapheresis”

65歳女性 既往:喘息、高血圧、2型糖尿病

COVID19発症から14日後に呼吸状態が悪化(呼吸回数30回/分、酸素8L/minでSpO290%維持)となりICU入室、血漿交換(FFP置換)を実施し、全身状態が翌日からすぐに改善した(計何回血漿交換を実施したかの記載はないが、おそらく1回)。24日後に退院。letter。

■ARDSのCOVID19患者3例に対する血漿交換療法の報告

“Efficacy of therapeutic plasma exchange in severe COVID-19 patients” British Journal of Haematology, 2020, 190, e181–e232

ARDSのCOVID19患者3例に対する血漿交換療法の報告。