注目キーワード

筋皮神経障害 musculocutaneous nerve palsy

解剖

筋皮神経(musculocutaneous nerve)
・神経根:C5,6
・腕神経叢:外側神経束、上神経幹
・支配筋:上腕二頭筋、上腕筋、烏口腕筋
*原則:筋皮神経は上腕屈筋を支配する(上腕筋は例外的に筋皮神経と橈骨神経の二重支配)
*C5神経根障害で三角筋と上腕二頭筋の筋力低下が解離することが通常ないのでこの点がC5神経根症との鑑別点となります。
・感覚領域:前腕橈側・掌側(外側前腕皮神経:lateral cutaneous nerve of the forarm, LACN: lateral antebrachial cutaneous nerve)
*筋肉支配と感覚支配が解剖学的に離れている点が珍しい神経です。

走行:腕神経叢の外束から分岐し、烏口腕筋を貫通し、上腕二頭筋と上腕筋の間を走行して両者の筋肉を支配する。その後肘窩の橈側で筋膜を貫き、外側前腕皮神経として前腕橈側の感覚を支配する。

*参考:腕神経叢の解剖
・おおまかな原則として上位から分枝した神経は近位を支配し、下位から分枝した神経は遠位を支配する傾向にあります。腕神経叢に関してはこちらをご参照ください。

原因

・解剖のところで解説したとおり、筋皮神経は烏口腕筋を通過するため同部位での圧迫により障害をきたしやすいとされています。多くは肘関節の屈曲負荷が長時間かかることが原因とされています。
・このように肩の上にものをかついだ姿勢でもなりやすく、”Carpet carrier’s palsy”とも表現されています(Neurology 1997;48:1731)。

・持続的な肘屈曲:ウインドサーフィン、筋力トレーニング(ウェイトリフティング)

・外傷、手術後(報告されているのは10時間上肢を外旋、外転位 Dundore DE, DeLisa JA (1979) Musculocutaneous nerve palsy: an isolated complication after surgery. Arch. Phys. Med. Rehabil.60:130 – 133)、睡眠後

・その他:骨腫瘍

臨床症状

運動:上腕二頭筋障害による肘屈曲の筋力低下、また前腕回外筋力低下を認めます。
**ちなみに前腕の回外を担うのは「回外筋(橈骨神経支配)」と「上腕二頭筋(筋皮神経支配)」の2つ。

感覚:外側前腕皮神経障害を反映した前腕橈側の感覚障害を認めます。

検査

神経伝導検査
・運動神経:刺激点は1:Erb、2:腋窩を刺激し、上腕二頭筋の筋腹に記録電極を置き、左右でTLとCMAP振幅を比べます。
・感覚神経:外側前腕皮神経を調べます。刺激点は肘窩(上腕二頭筋腱のすぐ外側で、刺激電極を上腕二頭筋に食い込ませるイメージ)、記録電極は刺激部位から12cm遠位(撓骨動脈の延長線上)で記録します。
*これらはいずれも全体的な基準値が無いため左右で比較することが重要です。

■針筋電図:鑑別診断としては神経根症のC5, C6が挙げられ、針筋電図でこれらの刺し分けをすることで障害部位の推定に役立てます。

治療

原因となる動作や姿勢を避け、保存的治療でほとんどの症例で自然と改善するとされています。

本日筋皮神経麻痺疑いの患者さんがいらっしゃり、今まで一度も経験したことがなかったため急いで調べてみました(まだまだ中途半端な内容で申し訳ございません)。ご経験のある先生いらっしゃいましたらご教授いただけますと幸いです。