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中小脳脚病変

1:解剖

小脳全体で線維の割合は(入力40:出力1)となっています(出力は上小脳脚)。その中で中小脳脚(MCP: middle cerebellar peduncle)は脳幹と小脳を結ぶ最大の架け橋・求心性線維です。中小脳脚の病変がある側と同側に失調症状をきたします(2回交叉するため同側になる)。同部位に病変をきたす疾患をここではまとめます(全ての内容・図はWorld J Radiol 2015 December 28; 7(12): 438-447より参照しております)。

2:原因

中小脳脚に病変をきたす代表的な鑑別をまとめます。

以下に各疾患の具体的な画像を掲載します。

■多発性硬化症

■PML

■ODS 浸透圧性脱髄症候群

ODSに関してはこちらにまとめがありますのでご参照ください。


■PRES

PRESは脳幹型も4%程度あるとされ、脳幹が障害の主体になる場合もあります。PRESに関してはこちらにまとめておりますので、もしよければご参照ください。

■AICA梗塞

AICA梗塞に関してはこちらをご参照ください。

■ヘロイン中毒

■トルエン中毒

塗料の有機溶剤・シンナー吸入の病歴から疑います。トルエンを扱う職業はとても多く(ドライクリーニング、自動車・飛行機工場、化学工場)注意が必要です。それ以外にもシンナー遊びなどでの青年期の中毒も重要です。慢性的な暴露では頭痛、倦怠感、めまいといった非特異的な症状を呈するため症状だけから診断することは難しいです。尿中馬尿酸測定で診断が可能です。

画像では両側中小脳脚のT2WI高信号が特徴で(基底核信号低下も伴う)、病歴が取れない場合この典型的な所見がトルエン中毒を疑うということも可能です(下図はAJNR Am J Neuroradiol 16:1643–1649, September 1995より参照)。

■Waller変性

橋梗塞の後にWaller変性で認める場合があります。


■ALD 副腎白質ジストロフィー

■FXTAS 脆弱X関連振戦/失調症候群(fragile X-associated tremor/ataxia syndrome)

FXTASはX染色体上のFMR1(Fragile X mental retardation 1)遺伝子のCGGリピートが原因の疾患です(詳しくはこちらをご参照ください)。多くは振戦から発症し(当初は本態性振戦と間違われることが多い)、その後小脳失調、歩行障害を進行性に呈する変性疾患です。22例まとめでは発症時の症状:動作時振戦55%、小脳失調41%、認知機能障害27%、パーキンソニズム13%、経過では失調91%、振戦86%、末梢神経障害81%(non-length dependent:56%, length dependent:25%)と報告されており、画像所見では中小脳脚高信号”MCP sign”64%、脳梁高信号68%を認めることが特徴とされています(その他大脳萎縮100%, 少脳萎縮95%、脳梁萎縮80%、橋高信号68%)。(以下の画像はNeurology ® 2012;79:1898–1907より引用)

■MSA-C 多系統萎縮症

MSA-Cで中小脳脚病変を認める場合は、必ず中小脳脚の萎縮を伴うとされています。遺伝性の脊髄小脳変性症で早期から中小脳脚に萎縮を伴うことはまれであり、またCCAでは通常中小脳脚は障害されないため、早期から中小脳脚に萎縮を伴う場合はMSA-Cを疑うヒントになります(hot cross bun signは後期の所見であり、それよりも早期に診断することが重要)。

■海綿状血管腫

以上中小脳脚病変に関してまとめました。鑑別において参考になる所見なのでご参考になればと思います。

管理人記録:2021/5/28 FXTASに関する記載を追記