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CDI : Clostridioides difficile infection

病態

抗菌薬投与中入院患者さんの発熱もしくは下痢の代表的な鑑別疾患がCDI(Clostridioides difficile infection)です。抗菌薬投与患者の下痢が全てCDIではなく、またCDIが全て偽膜性腸炎を呈する訳ではないことに注意が必要です。抗菌薬関連下痢症(AAD: antibiotics-associated diarrhea)の一部がCDI(約1/4を占める)で、CDIの一部(約10%程度)が偽膜性腸炎を呈するという相互関係にあります(下図)。院内下痢に関してはこちらにまとめがありますのでご参照ください。

偽膜性腸炎の画像がNEJMにありましたので掲載します(NEJM 2005;353:23)。繰り返しになりますが、CDIが全例偽膜性腸炎を呈する訳ではありません。

感染経路は糞口感染で、健常者でも5~15%がClostridioides difficileを保菌しているとされます。腸内の環境が変化することがリスクとなるため、抗菌薬投与はもちろんですが胃pHを調節するPPI投与などもリスクとなる点に注意が必要です。抗菌薬暴露からは最大で約3か月後までリスクがあるとされています。このため現在抗菌薬投与がされていなくても、必ず過去までさかのぼり患者さんの抗菌薬投与歴がないか確認が必要です。

抗菌薬は全ての抗菌薬がリスクになりうるとされています。その中でも特にクリンダマイシン、キノロン、セファロスポリン系(第2世代以降)は高リスクとされています。

*以下Open Forum Infectious Diseases, ofad413, https://doi.org/10.1093/ofid/ofad413より引用

系統抗菌薬Adjusted OR
クリンダマイシンCLDM25.39
セフェム系CEX2.88
キノロン系CPFX6.83
LVFX2.49
MFLX4.71
ペニシリン系AMPC/CVA8.53
AMPC1.96
PCG1.8
ABPC2.6
サルファ系ST2.16
マクロライド系AZM1.31
CAM1.83
EM1.53
テトラサイクリン系DOXY0.96
MINO0.79
その他LZD3.58

症状

腹痛や発熱はかならずしも感度が高い所見ではありません。便秘の場合や重症で腸閉塞になってしまっている場合は下痢すら認めない場合もあるため、排便状況を日々確認することが重要です。

検査・診断

CD toxin検査がゴールドスタンダードです。通常のキットはCD toxinとCD抗原は一緒に測定することが出来ます(自施設のキットを念のため確認しておくと安全です)。

CD toxin A/B:感度低い・特異度高い(陽性の場合はCDI診断) EIA

CD抗原(GDH):感度高い・特異度低い(全てが保有する酵素→非毒素産生株も検出する)*感度も70%程度とそこまで高くない

*NAAT(核酸増幅検査):toxin産生遺伝子の有無を評価

CD toxinが陽性であれば診断確定です。しかし、CDIを除外することが出来る検査はありません。このため例えば、CD toxin陰性かつCD抗原陽性の場合などで判断に悩みますが、臨床的に疑う場合は治療に踏み切ることがあります。CD抗原陰性の場合、CDIを否定できると記載してあるものもありますが、個人的には否定しきれないかと思います。

ガイドラインでは単一検査ではなく上記検査を組み合わせての評価を推奨しています

便中白血球も参考所見となるので確認します。

*臭いでの鑑別は困難 Clin Infect Dis 2013;56:615-6.

治療

1:原因抗菌薬が可能であれば中止

中止するだけでも軽症の場合は20~25%で症状が消失するとされています。しかし、実際には重症化する場合もあるため最初から以下の抗菌薬を併用します。

経口摂取や経腸栄養は中断する必要はないため(腸閉塞の場合を除く)継続します。

2:抗菌薬治療

■抗菌薬選択

メトロニダゾール 1000mg 分4 (=250mg 4T4x) or 1500mg 分3(=250mg 6T3x) 非重症例

バンコマイシン経口 500mg 分4(=125mg 4T4x) 重症例

■治療期間:10~14日間

基本はメトロニダゾール(フラジール®)経口内服で問題ないと思いますが、重症の場合はバンコマイシン経口(バンコマイシン散®)を使用します。2017年のIDSAガイドラインでは非重症例でも1st choiceがバンコマイシン経口(メトロニダゾールではなく)となりましたが、軽症例ではメトロニダゾールでも十分治療できるケースも多く、必ずしも全例バンコマイシン経口にする必要はないのではないか?と個人的には思います。再発例(10~20%が再発するとされています)ではバンコマイシン経口を使用します。

注意ですがバンコマイシンは経口投与です。バンコマイシン静注は血中から腸管内腔への移行性が全く効果ないため注意です。その一方メトロニダゾールは腸管内腔への移行性もあるため、重症例ではバンコマイシン経口+メトロニダゾール静注を使用する場合があります。
*バンコマイシン散はとても苦いので、単シロップを併用すると飲みやすくなることと総合内科のH先生に教えていただきました。とても勉強になります。
(処方例)バンコマイシン散125mg + 単シロップ5mL 1日4回内服(=バンコマイシン散 500mg + 単シロップ 20mL)

重症度分類が一応存在しますが、あまりに表面的な分類(WBCとCreのみ)なので全身状態の総合的な臨床判断が重要だと思います(私はこれを見て治療を決めたことは一度もありません)。

重症例では便移植をする場合もあるようです(個人的にはまだ経験がなく語れず申し訳ないのですが)。

■治療効果判定

臨床的判断となります。臨床的に改善していれば上記の治療期間を完遂すれば治療完了とします。CD toxinや抗原は持続するため(約30日程度陽性が持続するとされています)、CD toxinを治療効果判定として使用してはいけません

感染対策

芽胞を形成するためアルコールは効果がないことに注意が必要です(アルコールが効かないのはノロウイルスとClostridium difficile)。必ず診察後流水+石鹸で手洗いを行います。

通常は個室管理+接触感染対策をします。どのタイミングで隔離解除とするかは施設ごとの判断になることが多いと思います(下痢が収まれば良しとする場合もある)。

参考文献
・N Engl J Med 2015; 372:1539-1548 CDIのreview
・IDSA guideline 2017
・武蔵野赤十字病院感染症レクチャー