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自律神経障害 autonomic failure

1:自律神経の解剖・生理

自律神経系(autonomic nervous system)は交感神経系(symathetic nervous system)副交感神経系(parasympathetic nervous system)の2つに分類されます。いずれも神経節の前後の神経線維をそれぞれ「節前線維」、「節後線維」と表現します。

以下に解剖をまとめます。

また循環動態を維持するための自律神経系に関してまとめます。

・求心路

求心路は
「圧受容体」→「延髄孤束核」→「交感神経中枢」 or 「副交感神経中枢」
という信号経路を基本としています。

圧受容体は大きく以下2つに分類されます。
動脈圧受容体(arterial baroreceptor)大動脈弓、頸動脈洞で動脈圧をsenseし、それぞれ迷走神経、舌咽神経を通じて延髄孤束核に信号を伝えます。
心肺圧受容体(cardiopulmonary baroreceptor):心臓、大静脈で圧をsenseし、迷走神経を通じて延髄孤束核に信号を伝えます(これは動脈圧受容体に比して低圧系です)。

これらから延髄孤束核へ刺激が伝わり、交感神経中枢(RVLM: rostal ventrolateral medulla)もしくは副交感神経中枢(迷走神経背側核 or 疑核)へ刺激を伝えます。

・遠心路

・交感神経中枢(RVLM: rostal ventrolateral medulla) からは血管、心臓へ交感神経線維が行き、血管収縮、心拍数増加・心収縮増強作用を持ちます。

・副交感神経中枢(迷走神経背側核 or 疑核)からは心臓へ副交感神経線維が行き、心拍数低下・心収縮減弱作用を持ちます(血管への副交感神経支配はほとんどありません)。

求心路・遠心路を以下にまとめます。求心路の障害を「圧反射不全 baroreflex failure」、遠心路の障害を「自律神経不全 autonomic failure」と表現します。いずれかが起こることで後述の「神経原性起立性低血圧 NOH:neurogenic orthostatic hypotension」が起こります。

2:自律神経障害での症状

自律神経は各臓器に分布しているため、以下に臓器ごとに対応する症状、検査、治療をまとめます。自律神経の症状は”open question”では分からない場合も多く、疑った場合は”closed question”で問診することが必要です。

*発汗障害に関してはこちらをご参照ください。
*排尿・蓄尿障害に関してはこちらをご参照ください。

起立性低血圧に関しては特に重要な症状のためまとめます。

NOH(neurogenic orthostatic hypotension):神経原性起立性低血圧

病態:臥位から立位になることで循環血漿量700ml(500~1000ml)程度(血漿量の10-25%程度)が胸腔内から下肢などへ移動する。前負荷減少により圧反射亢進→交感神経刺激により血圧を維持し、通常この反応は立位後1~3秒で起こる。
*通常圧反射によりSBP:変化なし、DBP:-5mmHg上昇、HR:10-~20/min上昇 (機序まとめ下図)

症状:当初多くは無症状、もしくは軽微で非特異的な症状のため容易に見逃してしまう可能性があります。具体的には頭がふらふらする(light-headedness), 倦怠感(tiredness), 集中力低下(difficulty in concentrating and thinking)、視野がぼやける(visual blurring), 頭痛(headache), 後頸部痛 “coat-hanger headache”(僧帽筋の虚血が原因とされている)などが挙げられます。 あまりに程度が強くなると「失神」することがありますが、患者さんは失神しないように学習するため、自分で防衛措置をとって失神しなくなることがあります。
* pointは「低下した血圧の程度と症状は必ずしも相関関係にあるわけではない」という点です。

誘因:早朝、食後(30分以内に出現し、1時間程度持続する場合がある)、アルコール摂取後、運動後、暑いところ後(風呂)、立位保持後  などが挙げられます。

3:自律神経障害の原因

鑑別一覧を下記にまとめます。
・Synucleinopathy:PAF, MSA, PD,LBD
・自己免疫性:AAG, GBS, CIDP, SLE, Sjogren, RA
・代謝:糖尿病、ポルフィリン症VitaminB12欠乏
・腫瘍関連:傍腫瘍症候群 ANNA-1, Hu
・感染:HIV, Lyme病
・浸潤:アミロイドーシス
・薬剤:化学療法、アミオダロン、重金属、アルコール
・薬剤副作用:抗コリン、TCA、β-blocker、α2 agonist, 硝酸薬、利尿薬、CCB、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、L-DOPA, PDE5阻害薬、Botulism

このうち特に代表的な疾患の診断フローチャートを下記にまとめます。

以下各疾患の特徴に関して解説します。

上図でのchronic progressiveは変性疾患が該当し、特に”PAF(pure autonomic failure)”, “PD(parkinson’s disease) or DLB”, “MSA(multiple system atrophy)”の3疾患が代表として挙げられます。それぞれの臨床的特徴と検査上での特徴を下記にまとめます。

4:検査

上記の自律神経障害原因を鑑別するにあたり、下記の一般検査を検討します(全部をするわけではもちろんありません)。特にアミロイドーシス診断のための検査が重要です。

採血:HbA1c, ANA, SS-A抗体, 血清アミロイド蛋白A、 免疫グロブリン各種(IgM, IgG, IgA)、免疫電気泳動, L鎖(κ、λ型とその比率:κ/λ比)、VitaminB12、HIV抗体
尿:BJP
傍腫瘍症候群関連自己抗体:ANNA-1, Hu, 抗nAchR抗体
その他(特にアミロイドーシス診断):上部消化管内視鏡検査(生検)、脂肪吸引生検(amyloidosis)

自律神経を調べるにあたって特に重要なhead up tilt検査に関してまとめます。

HUT(head up tilt test)

前提条件・準備
・食後2時間以内はさける(post prandialは避ける)。
・ルート採血できるように20G以上の太さのルートを確保しておく。
・EDTA-2Naスピッツとすぐに冷蔵できるように氷水の入ったコップなどを用意。
・検査中失神する可能性があることを事前に説明。

検査方法
1:安静臥床:15分以上
2:起立:15分 角度:tilt 60-70°  *神経調節性失神を調べる場合は立位を30分以上持続する必要がある。
3:安静臥床
・自動血圧計で1分おきの血圧・心拍数を測定する。
・提出する採血項目:安静臥床時と起立時にカテコラミン三分画:NA, Adrenaline,dopamineとAVP(vasopressin)を提出する。
*いずれも採取後すぐに冷蔵する必要があることに注意スピッツ:EDTA-2Na 紫色のスピッツ1本(7ml)で十分

判定
NOH: neurogenic orthostatic hypotension(神経原性起立性低血圧)立位3分以内に20/10mmHg以上の血圧低下を認める(standing or HUT at least60°以上)。30mmHg以上とすると特異度が上がるとする報告が多い。
delayed orthostatic hypotensioin (遷延性起立性低血圧):起立直後には起こらないが、立位を持続していると徐々に血圧が低下してくる


電気生理検査:SSR, NCS
皮膚科:Q-SART, TST、ミノール法
画像検査:MIBG心筋シンチ(節後線維障害があるかどうか)

節後性の問題か?どうかを調べる方法としてはMIBG心筋シンチ、ノルアドレナリン基礎値、QSARTなどが挙げられ、それぞれ臓器としては心臓、血管、皮膚汗腺の節後性自律神経機能評価と対応しています(下図参照)

5:症状の評価・質問票 “COMPASS-31″  Composite Autonomic Symptom Score (COMPASS) 複合自律神経症状スコア31

以下6つのドメインから構成:Mayo Clinicが作成(Mayo Clin Proc. 2012 Dec;87(12):1196-201. doi: 10.1016/j.mayocp.2012.10.013. ):計100点 こちらのサイトから日本語版のPDFがダウンロードできます。
“orthostatic intolerance”(起立性低血圧):40点
“vasomotor”(皮膚血管運動):5点
“secremotor”(発汗):15点
“gastrointestinal”(消化管):25点
“bladder”(排尿):10点
“pupillomotor”(瞳孔):5点

以上自律神経の生理・解剖と症状、自律神経障害の原因と検査に関して簡単にまとめまさせていただきました。自律神経障害は「腹痛」や「胸痛」といった症状と比べると地味ではありますが、医療者が積極的に探しに行かないと容易に見逃してしまう難しい点があります。治療も難しい疾患が多いですが、適切な対症療法を導入すると患者さんのADLが飛躍的に向上することもあるため重要なテーマだと思います。

このチャプターはまだまだ追記事項があるため適宜追記していきます。