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Vitamin B12欠乏

0:代謝・生理

VitaminB12(別名 cobalamin:コバラミン)は微生物が産生し、私たち人間は動物性食品から摂取しています。肝臓、青魚(サンマ)、貝類(アサリ)、卵、乳製品などに多く含まれ、植物性食品(海苔を除く)にはほとんど含まれていません(このためvegetarian, veganの方々でも欠乏が問題となります)。

体内のVitaminB12は2~5mg程度貯蔵されており、その半分は肝臓に存在します。貯蔵分があるためVitaminB12が枯渇するまでには2~5年程度かかるとされています。

ここでVitaminB12がどのように吸収されるかを解説します。食物中のvitaminB12は胃の壁細胞から内因子(IF:intrinsic factor)が放出され、それと結合します。これが回腸末端で吸収され、門脈系と通して血中へ行き、血液中ではトランスコバラミン(TC: transcobalamin)と結合(全体の20%程度・細胞内輸送に関与する)、もしくはハプトコリン(HC: haptocorrin)と結合 (全体の70-90%程度)します(下図参照)。

このうち前者のトランスコバラミンと結合したvitaminB12のみが細胞内に取り込まれ、細胞質でのホモシステインをメチオニンへ変換する補酵素として、またミトコンドリアでメチルマロン酸CoAをスクシニルCoAへ変換する補酵素として働きます。VitmainB12不足は最終的にこの細胞内でVitaminB12が欠乏することで障害を引き起こします。

メチオニンは主に中枢神経を含めてメチル基の供給に重要であり、葉酸はDNA合成に関与しています。

1:原因

全体の1-2%程度に認め、高齢者では10-15%に認めるとされています。Vitamin12欠乏は時代と共に減少しておらず、食事摂取低下の問題ではなく、吸収障害の問題が関係していると考えられます。

原因
1:摂取不足
2:吸収不全:自己抗体(内因子抗体、胃壁抗体)*原因として最多
、胃癌、萎縮性胃炎、腸内細菌増殖症(blind loop syndrome、小腸憩室)、寄生虫(広節裂頭条虫)、IBD(Crohn病)、胃切除後
3:薬剤性:制酸薬(PPI/H2RA)、メトホルミン(BMJ 2010;340:c2181)
4:その他 甲状腺疾患
上記が代表的な原因として挙げられます。機序と原因をまとめた図を載せます。

2:症状

上記の機序、病態から様々な臓器で症状を引き起こします(下図参照 NEJM 2013;368:149)

2・1:巨赤芽球性貧血

MCV値
115fL以上→VitaminB12、葉酸欠乏を示唆する(MDS、甲状腺機能低下症よりも)
130fL以上ではほぼ確定
*MCVの値でvitaminB12欠乏らしいか、葉酸欠乏らしいかを区別することは困難です。
*MDSに合併している場合もあるため、MDSの診断がついていてもVitaminB12値を測定することは重要です。
*LDH上昇、間接Bil上昇、Hapto減少:骨髄での無効造血→溶血の影響好中球:過分葉(下図)

2・2:神経障害

VitaminB12は神経の髄鞘形成に関与するため、欠乏すると脱髄を引き起こします。貧血がなく、神経障害が先に出現する場合も多く、両者には相関関係がない点が指摘されています(貧血がないからといってvitaminB12欠乏による神経障害の可能性は全く否定できない)。神経障害の種類としては下図の通りです。

40~90歳(特に60~70歳台にピーク)に多いとされています(Lancet Neurol 2006;5:949)。

・末梢神経障害:polyneuropathy

上肢から、特に両手のしびれから発症する例が多いことが特徴で、この疾患は初期の段階で診断することが重要です(完成像から診断するのではない)。経過も代謝性疾患ですが早い場合もあり注意が必要です。深部腱反射は下記の脊髄障害を合併していると亢進している場合も、正常の場合も、末梢神経障害を反映して低下している場合もあります。

末梢神経障害の鑑別として特徴的な点を挙げる(まとめる)とすると、上肢から発症しうる点と脊髄障害を合併しうる点が挙げられると思います。

・脊髄障害(亜急性連合脊髄変性症 SCD: subacute combined degeneration)

髄鞘形成障害を反映して、白質病変が主体となります。MRI画像では頚髄~上部胸髄、後索~側索を主体とした病変を呈します。“inverted V shape”(楔状束を中心とした逆ハの字型)といわれるT2WI高信号を呈することがあり特異的な所見です。治療により画像変化は完全には消失しない場合もあるとされています。(下図はEur Spine J (2014) 23:1052より参照)

3:検査

先にも述べたように、血中のVitaminB12は20%程度がトランスコバラミン(transcobalamin: TC)と結合しており、残りはハプトコリン(haptocorrin:HC)と結合しています。細胞内輸送に関与するのは前者のトランスコバラミンと結合しているVitaminB12であり、通常の採血検査で測定するはトランスコバラミンと結合しているものです。このため、採血でのVitaminB12値は全体のごく一部しか反映しておらず、また実際に重要な組織内でのvitaminB12濃度を正確に反映していない場合があるため注意が必要です。

このことを解消するためには、VitaminB12代謝と関係するホモシステインを測定することが挙げられます(日本ではメチルマロン酸は測定できないためホモシステインで代用します。葉酸欠乏、ホモシステイン尿症、腎不全でも上昇してしまうため特異度がメチルマロン酸よりも低い点が難点)。

具体的にはVitaminB12値が
・100 pg/mL以下:VitaminB12欠乏確定
100~400 pg/mL:欠乏がどうかわからない→ホモシステインを測定
・400 pg/mL以上:VItaminB12欠乏なし
としています(脊椎脊髄 2007;20:163 福武先生)。検査室の基準値で判断しないようにすることが重要です。

ホモシステイン homocysteine
全体の75-85%:タンパク結合、15-25%:遊離型として存在しており、 採血検査では通常totalのホモシステインを測定しています。
正常値:5-15μmol/L
高ホモシステイン血症の程度での分類
・moderate: 15-30μmol/L ・intemediate: 300-100μmol/L ・severe: 100-:μmol/L

4:治療

内服の場合は処方量の0.5~4%が吸収されることが分かっています(これは悪性貧血、胃切除後でも吸収されます。1000μg/日とする5~40μgが吸収される)。また基本的にはVitaminB12製剤の経口摂取と筋注での臨床的改善効果は同等とされています。

一般名:メコバラミン
商品名:メチコバール®
製剤:250μg/1T, 500μg/1T 注射液 500μg/1ml(筋注)
処方例:500μg 3T3x(日本では保険容量が1500μg/日まで)

・治療反応性:血球異常の改善は6~8週間(網状赤血球増加が1週間で起こる)、神経症状の改善は週~月単位(6か月以内)に起こるとされています(NEJM 2013;368:149)。神経症状の改善度に関しては治療開始前の重症度と期間が影響を与えます。またvitaminB12の補充を中止すると、最短で6か月以内に神経症状が再燃し、巨赤芽球性貧血は数年以内に再燃するとされています。

・治療抵抗性の場合:鉄欠乏性貧血合併を考慮します(貧血の場合)。

以上ビタミンB12欠乏に関してまとめました。どの科でも出会う臓器横断的な疾患なので一度代謝生理を含めてまとめました。 NEJM 2013;368:149 のreviewから多くの内容を引用しました。一番まとまっているreviewなので是非ご覧ください。