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低血糖 hypoglycemia

  • 2019年9月28日
  • 2024年10月24日
  • 内分泌

1:病態・症状

低血糖での症状は大きく以下の二つに分類されます。

1:automonic:交感神経症状と副交感神経症状
2:neuroglycopenia:中枢神経症状(痙攣、意識障害、神経巣症状)

通常症状は先に自律神経症状、次に中枢神経症状の順番で症状が出現しますが、長期糖尿病患者ではhypoglycemia unawareness(自律神経障害で自律神経障害に対して無自覚)のため、いきなり中枢神経障害の症状をきたす場合があります。

このため救急、病態対応いずれにおいても重要なことは、何らかの神経学的症状(意識障害・痙攣・精神症状・麻痺・不可解な言動)を見た場合には必ず血糖値を測定するようにすることです。私はABC→D(dextrose:ぶどう糖)といつも言うのですが、ABCの確認の次に必ずD(血糖値)の確認をする習慣を身に付けましょう。

具体的にどう低血糖と診断するかですが、whippleの3徴( 1:低血糖と同時に低血糖症状が存在する、2:正確に測定された血糖が低値、3:血糖の上昇に伴い、低血糖症状は軽減する)を満たしているかが一番重要です。一般的に血糖値70mg/dl以下という基準もありますが、急激な血糖低下、食後低血糖では80mg/dL程度で症状出現する場合もありますし、どの程度閾値で低血糖症状が出現するかどうかは個人差や糖尿病のコントロール状況も影響します。血糖値の値のみで低血糖かどうかを判断せずに、症状を伴っているか、血糖値補正で症状が改善するかを指標としましょう。

2:原因

以下に原因となりうる病態を列挙する。基本的に低血糖になった原因が特定できないと再度繰り返してしまうため、下記のいずれかに該当しないかどうかを考える。

1:糖尿病管理(1型、2型):原因のほとんどが糖尿病関連
・すべての経口糖尿病薬はinsulin,SU薬と併用すると低血糖のriskとなる(たとえ単剤では低血糖のriskがないとしても)
SU薬は低血糖が遷延する(グリベンクラミドは最も遷延する)→24時間の経過観察
・元々は低血糖なくても腎機能低下によりinsulin,SU薬の効果が遷延する場合がある
2:anorexia:摂取不足・虐待・犯罪 dumping
3:薬剤:ACEi, β-blocker, quinolone, indomethacin などほとんどの薬でありえます
4:アルコール:肝臓での糖新生が抑制されるため
5:敗血症:GNR菌血症(endotoxinとinsulinが類似)
6:肝不全
7:insulin拮抗hormoneの欠乏副腎不全、下垂体機能低下)
8:insulin過剰産生
・insulin産生腫瘍(insulinoma):基本的に早朝低血糖
・NICTH(non islet cell tumor hypoglycemia)
インスリン自己免疫症候群(IAS):食後低血糖も呈する

3:検査・対応

低血糖患者での一般的な対応を示します。もちろんぶどう糖投与をするのですが、特にinsulinomaなどの可能性もある場合は低血糖時にインスリン分泌があるかどうかが非常に重要になります(通常では低血糖時にインスリン分泌は抑制されている)。絶食負荷試験は患者の負担も大きいため、低血糖になってしまった際の採血は非常に貴重で重要です。ぶどう糖をすぐに投与する前に採血だけ確保しておいた方が今後のマネージメントがしやすくなると思います。

1:ルート確保+採血
・採血項目:insulin, C-peptide(低血糖時のものが重要なため補正前に採血する)
*後でで大丈夫なもの:腎機能、早朝空腹時:cortisol(-4μg/dL:確定, 18μg/dL-:否定), ACTH, insulin抗体, VitB1

2:ぶどう糖投与
(例)50%Glu 40ml(2A) iv10%Glu 100ml/hr持続にて開始 ± VitB1補充

一般的には50%ブドウ糖液20ml/1Aを2A投与します。また低血糖が起こるのを予防する目的に10%ブドウ糖液を80-100ml/hrで持続投与します。基本的には低血糖患者は経過観察目的に入院することが安全です。

グルカゴン点鼻薬(商品名:バクスミー®)
・低血糖に対して介助者が投与する 1回きり 非常用 

・3mg鼻腔内投与 Diabetes Care 2016;39:264-270.
・肝臓グリコーゲン分解による

*ブドウ糖10g=血糖値50mg *ショ糖は20g