めまい診療についてはこちらに詳しくまとめているのでご参照ください。
はじめに・私見
まず私は”HINTS”を全く使っていないです。そして自施設では若い先生方に「使わないこと」を推奨しています。
めまい診療で最も重要なことは「各病巣と眼振,神経所見の対応関係を理解すること」です(こちら)。「急がば回れ」でここの対応関係をきちんと理解することが何よりも重要で、ここを充分理解していないまま”HINTS”を運用するのは極めて危険です。強調しますが、初学者が使用するものでは全くありません。
HINTSの誤用パターンとして
①そもそもの前提条件である急性前庭症候群(AVS: acute vestibular syndrome)を満たしていない(BPPVを疑う症例にHINTSを適応している)
・後述の文献参照 “Diagnostic Accuracy of the HINTS Exam in an Emergency Department: A Retrospective Chart Review” ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE 2021;28:387–393.
・救急外来を受診する「めまい」患者の約10-20%がAVSと報告されている(更にAVSのうち約25%が脳卒中) 文献 “Does my dizzy patient have a stroke? A systematic review of bedside diagnosis in acute vestibular syndrome” CMAJ. 2011 Jun 14;183(9):E571-92. つまり「めまい」患者全体に使える訳では全くない
②診察手技が間違っている(例:head impulse testに習熟していない,注視誘発性眼振と生理的な極位眼振と間違える)
③陽性と陰性が何を意味しているのか混乱している(HINTS-central, HINTS-peripheralと記載した方がよいという報告もある)*参考:”Avoiding “HINTS Positive/Negative” to Minimize Diagnostic Confusion in Acute Vertigo and Dizziness.” Journal of Acute Care Physical Therapy 7(4):p 129-131, October 2016.
④HINTSの白黒のみでその他の神経所見を充分加味していない(無視している)結果判断を間違えている(例:ホルネル症候群や痛覚の神経所見を充分評価しない結果Wallenberg症候群を見逃す)
これらのトラブルをこれまであまりにも多くみてきました。
このようにHINTSを知っていればめまい診療が成立する訳では全くありません。
ただ“HINTS”が伝えたいメッツセージは極めて重要です。それは中枢性の病態を検出する上で「画像検査よりも神経所見の方が感度が高い」ということです。そもそも「MRIで急性期にうつらないから、神経所見でより感度高く中枢性の脳血管障害をとらえることができるか?」という文脈からHINTSが誕生しました。ここは十分理解したいです。
出発点は”head impulse test”
head impuse testで中枢性 vs 末梢性を区別できるか?の検討 ”Normal head impulse test differentiates acute cerebellar strokes from vestibular neuritis” Neurology® 2008;70:2378–2385
・AVS43人の内訳:末梢性8人、脳幹または小脳脳卒中35人
・Head impulse test陽性(異常):末梢性100%, 中枢性9%(n=3)⇒中枢性でHIT陽性の症例は小脳下部,橋小脳,迷路領域の梗塞
・結果まとめ
1:HITが陽性(異常)により中枢性病変を除外はできない
2:HITが陰性(正常)は中枢性病変を強く示唆する
この“head impuse test”単独では中枢性病変を完全に除外しきれないという検査特性が出発点です。
“HINTS”の元論文を読む
“HINTS to Diagnose Stroke in the Acute Vestibular Syndrome Three-Step Bedside Oculomotor Examination More Sensitive Than Early MRI Diffusion-Weighted Imaging” Stroke. 2009;40:3504-3510.
・背景と目的:AVSの原因は末梢性(前庭神経炎)が多いが、中枢性のこともある。画像検査は急性期に感度が十分でないこともありベッドサイドで評価可能な診察によりより感度特異度を高く評価することができないか?という方法。
・“HINTS”(Head-Impulse Test、Nystagmus、Test-of-Skew):①head impulse test正常,②方向交代性眼振,③眼位異常 skew deviationのいずれか1つでも該当する場合を陽性(中枢性)と判断
・評価者:神経眼科医 Jorge C. Kattah先生1人による評価(画像診断に関しては盲検化しているが,患者のその他所見に関しては盲検化されていない)
・対象患者:AVS*(この文献では眼振の有無は必要としていない)+脳卒中リスク因子を最低1つ有する(喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動、子癇、過凝固状態、直近の頸部外傷、脳卒中または心筋梗塞の既往)
*AVSは文献により定義が少し異なる点(特に眼振を必要としているか)に解釈上注意が必要です
・結果:”HINTS”は脳卒中に関して感度100%, 特異度96%⇒発症24-48時間以内の初期MRI DWIよりも感度が高い(ここが最も重要!)
| 項目 | 感度 | 特異度 | 陰性尤度比(95%CI) |
|---|---|---|---|
| 一般的な神経学的徴候 | 19% | 100% | 0.81 (0.72–0.91) |
| 明らかな眼球運動徴候 | 28% | 100% | 0.72 (0.63–0.84) |
| 重度の体幹失調 | 33% | 100% | 0.67 (0.56–0.79) |
| 上記いずれかの明らかな徴候 | 64%† | 100% | 0.36 (0.27–0.50) |
| 初期MRI DWI | 88%‡ | 100% | 0.12 (0.06–0.22) |
| HINTS | 100% | 96% | 0.00 (0.00–0.12) |
・各項目について
| 各項目 | 末梢性 n=25 | 中枢性 n=76 | negative LR(95%Cl) |
|---|---|---|---|
| 付随症状 (Associated symptoms) | 12% | 41% | 0.67 (0.53–0.85)* |
| 急性聴覚症状 | 0%† | 3% | 0.97 (0.94–1.01) |
| 頭痛または頸部痛 | 12% | 38% | 0.70 (0.56–0.88)* |
| 一般的な神経学的徴候(体幹失調を含む) | 0% | 51% | 0.49 (0.39–0.61)* |
| 顔面麻痺 (Facial palsy) | 0% | 1% | 0.99 (0.96–1.01) |
| 片側感覚消失 (Hemisensory loss) | 0% | 3% | 0.97 (0.94–1.01) |
| 交差性感覚消失 (Crossed sensory loss) | 0% | 3% | 0.97 (0.94–1.01) |
| 嚥下障害/構音障害 (Dysphagia/dysarthria) | 0% | 3% | 0.97 (0.94–1.01) |
| 四肢失調 (Limb ataxia) | 0% | 5% | 0.95 (0.90–1.00) |
| 精神状態異常(傾眠) | 0% | 7% | 0.93 (0.88–0.99) |
| 片麻痺(UMN顔面筋力低下を含む) | 0% | 11% | 0.89 (0.83–0.97) |
| 重度の体幹不安定性(介助なしで座れない) | 0% | 34% | 0.66 (0.56–0.77)* |
| 明らかな眼球運動徴候 (Obvious oculomotor signs) | 0% | 32% | 0.68 (0.59–0.80)* |
| 主に垂直性または回旋性の眼振 | 0% | 12% | 0.88 (0.81–0.96) |
| 眼球運動麻痺(3-4-6、INO、注視麻痺) | 0% | 21% | 0.79 (0.70–0.89)* |
| 微妙な眼球運動徴候 (Subtle oculomotor signs) | 4% | 100% | 0.00 (0.00–0.11)* |
| 方向が変わる水平眼振 (Direction-changing horizontal nystagmus) | 0% | 20% | 0.80 (0.72–0.90)* |
| 斜偏位の存在または検査不能 | 4%‡ | 25%§ | 0.78 (0.67–0.91)* |
| h-HITが正常または検査不能 | 0% | 93%¶ | 0.07 (0.03–0.15)* |
| 急性梗塞または出血 ± 慢性病変 | 0% | 86% | 0.14 (0.08–0.25)* |
管理人のコメント
・繰り返しですが、”HINTS”の最も重要なメッセージはMRIよりも神経所見の方が感度が高いということです。
・背景を解説します。方向固定性水平性眼振の原因は①前庭神経,②小脳いずれの場合もあります(眼振についてはこちら)。ここで”head impulse test”を実施すると末梢性(=遅延あり異常)と中枢性(=正常)を区別できますが、脳幹内で前庭神経核を障害している場合(AICA梗塞や延髄外側梗塞など)は反射経路を含んでいるので、”head impulse test”は異常になります。
・このように”head impulse test”のみでは完璧ではないため、より中枢性に特異的な所見として「注視誘発性眼振」と「Skew deviation」の2つを加えて評価しているということです。つまりそもそものスタートは”head impulse test”の異常の有無です。”HINTS”を運用する上ではこの文脈を理解する必要があります。
・またこの研究では評価者が神経眼科医(1人)であり、こうした診察に非常に長けているプロが行っているという点です。これをGeneralistやER医が実施してどうなのか?という点は懸念です(後述します)。感度,特異度の数字だけに眼が奪われてしまってはいけません。
・またときどき勘違いされているのは、”HINTS”は上記の通りそもそもAVSが前提条件です。BPPVを含めた末梢性を評価できる訳ではない点に注意が必要です。めまい全体を母集団として末梢性か?中枢性か?を検討している訳ではありません。
”HINTS plus”について
“HINTS Outperforms ABCD2 to Screen for Stroke in Acute Continuous Vertigo and Dizziness” ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE 2013; 20:987–996
・HINTSに”片側難聴”を加えた方法⇒目的はAICA梗塞(こちら)での内耳領域の梗塞を検出するため
・患者背景AVS190人:内訳 後頭蓋窩脳卒中が59.5%(梗塞105件、出血8件)、前庭神経炎が34.7%、その他の中枢性原因 5.8%
・MRI感度 86.7%(偽陰性13.3%)
・結果(下図)
| 項目 | HINTS (脳卒中) | HINTS “plus” (中枢性病変) |
|---|---|---|
| 感度 (Sensitivity) | 96.5% | 99.2% |
| 特異度 (Specificity) | 84.4% | 97.0% |
| 陰性尤度比 (LR–) | 0.04 | 0.01 |
| 陽性尤度比 (LR+) | 6.19 | 32.7 |
“HINTS”の検証
ER医が”HITNS”を実施すると感度特異度は低い
“Can Emergency Physicians Accurately Rule Out a Central Cause of Vertigo Using the HINTS Examination? A Systematic Review and Meta-analysis” ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE 2020;27:887–896.
・先に指摘した通り元の”HINTS”は神経眼科医が評価した場合に検査特性が優れているという文献である。救急を受診したAVS患者における”HINTS”の検査特性がER医師にとってどうか?を検討したsystematic review and meta-analysis(計5文献,計617例,椎骨脳底動脈領域の梗塞は9.3-44%)
・結果:救急医がHINTSを使用する場合検査特性は不十分である
| 実施者 | 感度 (95% CI) | 特異度 (95% CI) |
|---|---|---|
| 神経科医/神経眼科医 | 96.7% (93.1% to 98.5%) | 94.8% (91% to 97.1%) |
| 救急医および神経科医の混合コホート | 83% (63% to 95%) | 44% (36% to 51%) |
救急医がERで実施した”HINTS”についての検討⇒前提条件を満たしていないことが96%
“Diagnostic Accuracy of the HINTS Exam in an Emergency Department: A Retrospective Chart Review” ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE 2021;28:387–393.
・後ろ向きコホート研究 めまい主訴2309人のデータから
・HINTS実施は19.5%,そのうち96.9%は適応基準を満たしていなかった
・適応を満たしていない理由:眼振の記録がない,症状が持続性ではなく断続性(BPPVには使用できない)
・HINTS試験を受けた患者の約半数(49%)がDix-Hallpike testも実施されていた(ここもAVSと混同されている)
・まとめ:高い実施率であるが、そもそも前提条件を満たしていない適応外患者に実施されていることが多く、検査特性が制限されている
*この文献でのAVSの定義:持続性のめまい(断続的やすでに改善は除外)・眼振(自発眼振または注視誘発性眼振が存在する)・歩行障害(ふらつき、歩行時の不安定性)の3点を全て満たす
⇒前述のHINTS元論文(Stroke 2009)では眼振は必要条件としていない点が本文献では異なる点に注意
“v-HINTS”について
Korda A, Wimmer W, Zamaro E, Wagner F, Sauter TC, Caversaccio MD, et al. Videooculography “HINTS” in Acute Vestibular Syndrome: A Prospective Study. Front Neurol. 2022;13:920357.
・目的:ビデオ眼球運動記録装置(VOG)を使用したHINTS検査(v-HINTS)の精度をもともとのHINTSと比較検討
・救急部門の前向き検討、AVS46例(内訳AUVP35例、脳卒中11例)、評価者は神経耳鼻科医1人(複数人の評価ではない)
・各項目に関して:斜偏倚は両者で完全に一致(VOGサポートなしで十分評価可能)、Head impulse testは一部違いあり、眼振評価は一致が低い(最もVOGなしでは難しく、VOGなしでは低強度の眼振が検出しきれない)

| 評価方法 | 感度 | 特異度 |
|---|---|---|
| vHINTS | 100% | 88.9% |
| cHINTS (専門家) | 90.9% | 85.7% |
“HINTS”の仲間たちそれぞれの特性はどうか?
“Using “HINTS family” to diagnose stroke in the acute vestibular syndrome: A systematic review and meta-analysis” American Journal of Emergency Medicine 2026; 99: 192–200.
・結果:v-HINTSが最も検査特性が優れる
| 検査名 | 感度 (95% 信頼区間) | 特異度 (95% 信頼区間) |
|---|---|---|
| HINTS | 0.97 (0.94, 0.99) | 0.81 (0.72, 0.88) |
| HINTS plus | 0.99 (0.95, 1.00) | 0.82 (0.74, 0.88) |
| v-HINTS | 1.00 | 0.90 |
まとめ
・AVS(acute vestibular syndrome)において、中枢性か?末梢性か?を区別する上では”head impulse test”が重要である。しかし単独では中枢性除外において十分ではないため、”nystagmus”と”test of skew”を追加することでより検査特性を高めた方法が”HINTS”である。
・ここでの重要なメッセージは「MRIよりも神経診察の方が感度が高い」という点である。
・そして、これは確かに診療に長けた医師が行うと感度特異度は非常に優れている。しかし、ER医師が実施すると感度特異度ともに低い。
・それを克服するためにVOGを用いたv-HINTSがあり感度特異度ともに優れるが、これをER医が実施した場合の検査特性に関してはまだデータ不十分である。
管理人から最後にもう一言
“HINTS”はざっくり言うとマネージメント(帰れるか?)を検討しているものであり、”HINTS”の結果により病態・病名がわかる訳ではありません。めまい診療の”本丸”を攻めていない訳です。
もちろん”HINTS”を使ってはいけない訳ではありませんが、私たちは1例経験するごとに臨床力を高め成長しないといけません。”HINTS”が「黒か?白か?」というアプローチでめまい診療をしていても病態にアプローチできていないですし、病態を考えずに流れ作業のように診療がすすんでしまうため、めまい診療は上達しないと思います。そちらの方が医療安全の側面からは統一した安全指針ということでよいのかもしれませんが、臨床力は成長しないですし、何よりもただの流れ作業で臨床がつまらないと思います。