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外リンパ瘻 perilymphatic fistula

SSHL(こちら)の鑑別としてNeurologistにとってやっかいなのが外リンパ瘻(PLF: perilymphatic fistula)です。外傷歴や疑わしい病歴があればすぐに耳鼻科コンサルトになりますが、それらの病歴がない場合はどうしても侵襲的アプローチが必要となるため非耳鼻科医にとっては限界があります。私は現在耳鼻科常勤医がいない病院で急性期のめまい診療の責任を担っているので、耳鼻科領域の取りこぼしと診療上の間違いがないように必死です。後輩I先生に伺ったり文献を読んだりしながら勉強した内容をまとめます。

病態・原因

・外リンパ液が内耳外(ほとんどが卵円窓または正円窓を介して中耳腔)と交通してしまう病態で、それにより臨床的には急性経過の片側前庭障害+蝸牛障害を呈します(両方を呈することが多い)。
流水様耳鳴(水が流れるような耳鳴り)、発症時のポップ音(発症時にぱちっと膜が破れるような音)、圧変化での症状変動などが病歴としては特徴的なものとして挙げられます(これらを認めなくとも否定はできない)。

分類 Acta Otolaryngol. (2017)137:S53–S9.
カテゴリー1:外傷(頭部外傷や全身外傷など)、内耳中耳疾患、手術関連
カテゴリー2:外因性の圧外傷(飛行機、ダイビング、爆風など)
カテゴリー3:内因性の圧外傷(いきみ、鼻かみ、くしゃみ、咳嗽など)
カテゴリー4:明らかな誘因なし(idiopathic) *特発性は文献により頻度さまざま 24-51%

試験的鼓室開放術:外リンパ液の漏出所見の有無を直接観察する方法で従来からの診断ゴールドスタンダードです。しかし問題点として以下が挙げられます。
問題点1:片側耳内の外リンパ液は150μL(水滴3滴分)しか存在しないため、中耳に観察される液体が本当に外リンパ液なのか?CSFなのか?中耳浸出液なのか?局所麻酔液をみているだけなのか?が分からない偽陽性の問題
問題点2:持続漏出ではなく間欠的に漏出する場合もあるため、観察時に漏出がないからといって否定はできない偽陰性の問題
→外リンパ液に特有のバイオマーカーとしてCTP(cochlin tomoprotein)が挙げられ、これは日本独自のバイオマーカーとして日本では測定されることがあるようです(2022年に保険収載 こちら)。

・側頭骨の高解像度CT検査:空気が三半規管、蝸牛内に認める場合がある(図:参考文献より引用)

非専門医が外リンパ瘻をどのように疑い耳鼻科医につなげるか?

・SSHLにおいて、まず病歴で必ず外傷歴(交通外傷や頭部外傷)、圧外傷(ダイビング、飛行機など)、Valsalva負荷(いきみ、鼻かみ、くしゃみ、咳嗽など)の先行有無と流水性耳鳴、発症時のポップ音、圧変化での症状変動を確認します。この時点で外リンパ瘻が疑わしい場合は耳鼻科に相談します。
・これらの病歴がない場合、多くの場合(もちろんオージオメトリー所見なども総合しますが)突発性難聴としてステロイド治療が始まります。
・ここでステロイド治療反応性が悪い場合(症状が進行する場合)は、造影MRI(きちんと内耳道のthin sliceが必要)でSchwannoma検索、側頭骨CTで内耳解剖に問題がないかの確認をします。その上でステロイド治療抵抗性のSSHLとして外リンパ瘻の可能性を考慮し耳鼻科コンサルテーションが望ましいフローと思います。
・超緊急で外科的介入になる訳ではないため、最初にステロイドの治療反応性をみてからの紹介で遅すぎることはなさそうですがここは意見が分かれるところかもしれません。

*その他稀な鑑別疾患 3rd window syndrome(つまり別の部位で瘻孔を形成する)
・semicircular canal dehiscence (SCD)
・carotid artery-cochlear dehiscence (CCD)
・cochlea-facial nerve dehiscence (CFD)

治療

・保存的 or 手術(内耳窓閉鎖術)いずれもあるようであり、統一された推奨基準はなく、相当施設によって選択肢が変わるようです。参考文献で読んだ論文では筆者が鼓室内ブラッドパッチを第一選択にしており、いきなり手術はしないとしています(このプラクティスもおそらくかなり独自のものと思われます)。ここはさすがに耳鼻科医に相談しないといけないところです。
・手術する場合の時期に関しても議論があるようです(統一された手術時期の推奨基準はなし)。
・手術により前庭機能(80-95%)の方が蝸牛機能(20-40%)より改善しやすいです。

参考文献
Sarna B, Abouzari M, Merna C, Jamshidi S, Saber T, Djalilian HR. Perilymphatic Fistula: A Review of Classification, Etiology, Diagnosis, and Treatment. Front Neurol. 2020 Sep 15;11:1046. doi: 10.3389/fneur.2020.01046. PMID: 33041986; PMCID: PMC7522398.