注目キーワード

突発性難聴 SSHL: Sudden sensorineural hearing loss

先日起床後に安静時めまい+左難聴・耳鳴りを呈した症例があり、診察するとsupine head-roll testで左頭位変換で回旋性眼振が出現する症例を経験しました。当初は三半規管の問題であったとしたらBPPVで蝸牛症状は伴わないはずだし、でも前庭神経の問題なら普通は頭位変換と関係ないからなーと病巣が良く分からずでしたが、結局突発性難聴の診断に至りました。なぜこうなったのか疑問に思い改めて調べます。

病態・臨床像

・病態に関してはまだ解明されておらず微小虚血や炎症(特にウイルス感染や自己免疫機序)などの関与が想定されています。

突然発症(定義は~72時間)感音性難聴・片側である(両側性のことはめったにない→両側性の場合はまず他疾患を考慮する)

・耳閉感から発症することが多く、当初聴こえないことに気づかない場合があります。この場合は適当に片づけられてしまいすぐに医療機関を受診しないため診断に遅れが生じてしまう場合が問題です。このため突然発症の耳閉感では必ず難聴がないか?を確認するステップを踏む必要があります。

・90%以上は耳鳴りを自覚し、20-60%はめまいを呈する (Acta Otolaryngol [Suppl]2001;545:80–83.)。

*前庭機能障害について(NEUROLOGY 2005;64:148–151)
・29例の突発性難聴症例を検討し, 45%は前庭障害を認めた
・安静時眼振(Frenzel眼鏡装着) 7例(44%)
・9例中7例は後半器官, 2例は外側半規管の障害を呈した(5例は前庭機能の完全な障害)
*自験例はおそらく外側半規管を障害していたと考えられる. こういった一部の三半規管障害を伴う点が意外であるがずっと疑問であったのでこの結果をみてすっきりした。

突発性難聴の鑑別

片側性の場合
・腫瘍:聴神経鞘腫, 癌性髄膜炎
・外傷
・血管障害:特にAICA梗塞こちらを参照)
・自己免疫
・感染:ウイルス性, 細菌性髄膜炎, 梅毒など
・薬剤:アミノグリコシド, ループ利尿薬など
・その他:特発性突発性難聴, メニエール病, パジェット病, 多発性硬化症, サルコイドーシス

両側性の場合髄膜炎, 腫瘍の後頭蓋窩・硬膜浸潤など
*先日も癌性髄膜炎の症例で超急性経過での両側感音性難聴を呈した症例があり, 当初は髄膜炎を疑うことができず後日の髄液検査で判明した症例がありました。

特に重要な鑑別(1%はretrocochler disordersである):Schwannoma, 脱髄疾患, 脳血管障害
→基本的に全例どこかで造影MRI検査で器質的疾患の除外をするべきである
*556例の突然発症難聴例をMRI検査で全体の3%(17例)に腫瘍を指摘と報告(Otolaryngology–Head and Neck Surgery (2008) 138, 13-17)

ガイドライン:6. Retrocochlear pathology
“Clinicians should evaluate patients with SSNHL for retrocochlear pathology by obtaining an MRI or auditory brainstem response(ABR).” Recommendation

*聴神経鞘腫(vescibular shwannnoma)について
・内耳神経は解剖的に中枢性神経の髄鞘(oligodendrocyte)が脳幹を出た後も8-12mm続いている(ほかの部位では認めない)特徴があります。内耳孔付近で中枢~末梢神経への移行部になり、聴神経腫瘍はこの移行部~末梢側に発生することが多いとされています。
・生じる部位は下前庭神経に多いとされています(蝸牛神経にはまれ)
・”extra-axial neoplasm”として2番目に多い(最多は髄膜腫: meningioma)
・聴神経鞘腫の10-20%で突然の聴力低下を生じるとされており, 突然発症であったとしても注意が必要です Acta Otolaryngol. 2005;125(6):592-595.
→臨床像だけで特発性突発性難聴との鑑別は困難であり画像検査(Gd造影MRI)が必要
小脳橋角部腫瘤の鑑別:聴神経鞘腫最多(85-90%)

*細菌性髄膜炎による難聴のsystematic review: Otol Neurotol 37:1–8, 2016.
難聴全体(>25±5 dB): 14%, 重度難聴(>90dB): 5%
・両側性60%, 片側性30%, 左右非対称10%
・難聴は細菌性髄膜炎発症直後に多い(後から出現することは少ない)
・難聴は経過で改善することも悪化することもある
S.pneumoniaで多い

突発性難聴・診療の流れ

1:突然から超急性発症の耳閉感
2:難聴有無を確認
3:感音性難聴か伝音性難聴かを確認(Weber, Rinne試験*こちら
4:オージオメトリーで確認
5:造影MRI検査で腫瘍などの器質的原因を除外
6:治療介入(ステロイド)

治療

ステロイド全身投与

・有名であるが, RCTで効果が証明されていない点があり(ただこれはoutcomeの設定をどの期間に設けるかといった問題もはらんでいる), Cochrane Reviewでもそのような見解(Cochrane Database Syst Rev. 2013;(7):CD003998.)
・投与量, 投与期間に関しては不明(7日間と3日間デキサメタゾン300mg/日パルス療法を検討した試験では改善に有意差なし(Laryngoscope 2007;117:684-90.).

処方例(N Engl J Med 2008;359:833-40.での紹介例):プレドニゾロン60mg/日 4日間→その後2日間で10mgずつ減量していく方法

ガイドラインでの記載:STATEMENT 8. INITIAL CORTICOSTEROIDS: “Clinicians may offer corticosteroids as initial therapy to patients with SSNHL within 2 weeks of symptom onset.” Grade “C”, level of evidence “Medium” Option

ステロイド内耳投与

ガイドライン:10. Intratympanic steroids for salvage therapy
“Clinicians should offer, or refer to a clinician who can offer, intratympanic steroid therapy when patients have incomplete recovery from SSNHL 2 to 6 weeks after onset of symptoms.” Recommendation

*その他の治療法で効果が確立したものは存在しない
・抗ウイルス薬:ステロイドに追加することでの効果改善はなし Acta Otolaryngol 1998;118:488-95. Otol Neurotol 2002;23:301-8. Ann Otol Rhinol Laryngol 2003;112:993-1000.

ガイドライン: 11. Other pharmacologic therapy
“Clinicians should not routinely prescribe antivirals, thrombolytics, vasodilators, or vasoactive substances to patients with SSNHL.” Strong Recommendation against

*その他生活指導
・スキューバダイビングは避けるべき:既報でスキューバダイビングで鼓膜穿孔 5.9%, 内耳障害(耳鳴り, 難聴, 平衡感覚障害)2.3%と報告(709例のスキューバダイビング例 Otol Neurotol 2001;22:475-9.).
・騒音対策をする

ガイドライン 13. Rehabilitation
“Clinicians should counsel patients with SSNHL who have residual hearing loss and/or tinnitus about the possible benefits of audiologic rehabilitation and other supportive measures.” Strong recommendation

予後

予後規定因子:最初の難聴の程度

Otolaryngology–Head and Neck Surgery (2007) 136, 221-224

156例の治療を受けた突発性難聴症例の機能予後
・45.5%が10日間の治療から遅れて改善する経過
・内訳:78.3% 1か月以内に改善, 5.5%1-2か月で改善, 12.7% 2-3か月で改善

参考文献
・N Engl J Med 2008;359:833-40.
・”Clinical Practice Guideline: Sudden Hearing Loss (Update)” Otolaryngology–Head and Neck Surgery 2019, Vol. 161(1S) S1–S45 ガイドライン