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心臓腫瘍 cardiac tumors

再発性の塞栓性脳梗塞の原因精査でみつかった例がありましたので、調べた内容をまとめます。

塞栓源としては①疣贅、②血栓、③腫瘍が代表的な原因です。

転移性心臓腫瘍は原発性に対して 20-40倍の頻度があり、原発性心臓腫瘍は非常に頻度が少ない。以下は原発性心臓腫瘍の分類を示す。

分類

histological classification of tumors of the heart (2004)

良性腫瘍(-90%)悪性腫瘍(-10%)
筋細胞分化を示す腫瘍心臓肉腫sarcomas
・横紋肉腫Rhabdomyoma(小児最多 45%)・血管肉腫Angiosarcoma
・プルキンエ細胞過誤腫Purkinje cell hamartoma・類上皮血管内皮腫
・Hamartoma of mature cardiac myocytes・多形型悪性線維性組織球腫
多能性間葉細胞由来の腫瘍・線維肉腫
・心臓粘液腫Cardiac myxoma(成人最多 45%、小児 15%)・横紋筋肉腫
・乳頭状線維弾性腫Papillary fibroelastoma(成人 15%)・平滑筋肉腫
血管腫Haemoangioma・滑膜肉腫
筋繊維芽細胞分化を示す腫瘍・脂肪筋肉腫
・心臓線維腫Cardiac fibroma(小児15%)心臓リンパ腫
・炎症性筋繊維芽細胞腫Inflammatory myofibroblastic tumor転移性腫瘍
心臓脂肪腫Cardiac lipoma(20%) 
AV nodeの嚢胞性腫瘍Cystic tumor of AV node 

参考:部位により生じやすいものの違い
・左房:血栓、転移、myxoma, sarcoma, lipoma
・右房:血栓、転移、myxoma, lipoma, lymphoma, (angio)sarcoma
・左室/右室:血栓、転移、firoma, lipoma, rhabdomyoma, lymphoma
・心外膜:血栓、転移、liposarcoma, lipoma, lymphoma
・弁:血栓、疣贅、fibroelastoma

臨床像

3主徴:全身症状、塞栓、心腔閉塞

原則として、腫瘍の位置がどこにあるかによって症状が決まる(組織型は症状に影響は少ない)

1:全身症状

発熱、全身倦怠感、体重減少、関節痛などが認められる。検査上でも炎症反応を認めることが多い。これらから膠原病疾患、感染症などとの鑑別も難しく重要である。

2:塞栓症状

腫瘍断片自体または腫瘍に付着した血栓が塞栓源となりうる。特に心臓粘液腫では腫瘍自体が脆弱で塞栓を起こす確率が高い(約45%)。
・左心系→脳梗塞、四肢、腎臓、脾臓、腹腔動脈、上腸間膜動脈など
・右心系→肺塞栓、(卵円孔開存の場合左心系)
若年発症や基礎疾患のない患者での脳梗塞では鑑別に入れるべきである。また鑑別として感染性心内膜炎や血管炎も挙げられる。

3:心腔閉塞

腫瘍がどこにあるか、どこに突出するかで症状が異なる
・左房→僧房弁狭窄症、僧房弁閉鎖不全症に似た症状
・左室→左心不全、伝導障害(刺激伝導系に浸潤する場合)、不整脈
・右房、右室→右心不全
・心外膜→心タンポナーデ
・刺激伝導系(心筋内)→伝導障害、不整脈

各論

心臓粘液腫Myxoma

原発性心臓腫瘍で最多の良性腫瘍である。1863年Virchowにより初めて報告された。

由来:多能性間葉系細胞
・炎症性サイトカインIL-6を産生→全身の炎症反応がみられることが多い。
・年齢:30-50才が多い
・数:単発がほとんど(90%~)、多発では家族性のCarney syndromeが多い
・好発部位:左房約80%(特に卵円窩) 内訳:左房:88.3%、右房:9.4%、右室:1.2%、左室:0.6%(信州大学の報告)
・形状:有茎性、可動性、表面平滑または絨毛様→表面が絨毛様の方が塞栓症を起こしやすい
*腫瘍に感染が起こり感染性心内膜炎になることもある。
・大きさ:平均4cm(報告があるのは1-15cm)
・エコー所見:中心壊死、出血、石灰化病変などを内部構造に認める場合がある
・腫瘍径の自然予後:0.15-1.2cm/1年(報告により様々)
・手術後再発:2-5%

乳頭状線維弾性腫Papillary fibroelastomas

良性の原発性心臓腫瘍で頻度2位 11.5% *エコーの解像度が上がり過去の報告よりも多く存在することがわかっている
・年:平均60才、男女差ほぼなし *先天性ではなく後天性と考えられている
・大きさ:平均0.9cm(1cm以下の小さいことが多い <2cm 99%) *膠原繊維、男性線維を内皮が覆う構造
・形:イソギンチャク様,可動性があり指が屈曲伸展するような”flexion-extension of a finger”と表現されることもある
・部位:弁の後ろ側(僧帽弁であれば左室側,大動脈弁であれば大動脈側)に多く生じることが特徴
80%:弁に生じる(大動脈弁44%、僧房弁35%、三尖弁15%、肺動脈弁8%) Am Heart J 2003;146:404–10.
*成人:大動脈弁、小児:三尖弁が多い
*左房に生じることは稀(既報の後ろ向き研究では1.3%-6.1%)
TTEでは見逃す場合があり,TEEの方が描出しやすいため重要
・鑑別:ランブル疣贅(こちら) ランブル疣贅は弁尖部に生じやすい

症状:塞栓症としてTIAと脳梗塞が最も多い リスクは既報から13.5-53.6% 
発症率 6%/1年, 13.5%/5年 非切除時の脳梗塞再発率 16-24%/31か月 Cardiovasc pathol 2019;40:65-67.
*冠動脈を閉塞してしまう場合は致死的になる
*通常弁破壊は生じない(経過は緩徐)ため、それ自体で症候性になることはない

治療
外科手術:症候性(2次予防)は外科治療適応、無症候性(1次予防)は左心系(≧1cm)は治療適応として考えるべき(無症候性に関して議論がある)
*surgeryがされない場合の抗血栓薬に関してはエビデンスが集積していない(治療に関するRCTは存在しない)

参考文献
“Cardioembolic Stroke Secondary to an Aortic valve Fibroelastoma” Stroke 2021;52:e111-e114.
Am Heart J 2003;146:404–10. 725例の後ろ向き研究であり最多で最も引用されている
Intern Med 2009;48:77-80.
Cardiovasc pathol 2019;40:65-67. ケースレポートであるがdiscussionで深く議論しており優れている

横紋肉腫Rhabdomyoma

・小児で最多の約66%を占める。成人で発症する場合もある
・約80%に結節性硬化症を合併する(結節性硬化症の約60%に横紋筋腫を合併する)
・腫瘍が縮小する場合がありその原因はよく分かっていない
・数:多発(90%)
・部位:右左心系で同程度であり、心房は30%で起こる

血管肉腫angiosarcoma

悪性心臓腫瘍で最多の約33%を占める
由来:血管内皮細胞
一般的な病変:皮膚、軟部組織
稀に他臓器にも:心臓、肝臓
年齢:30-50才多い、男:女=2:1、基本的に遺伝はしない

腫瘍の特徴
・部位→悪性で右心系が多い
 内訳:右房:71.4%、心膜:20.4%、右室:3.7%、右房:2.8%
・診断時には既に多臓器に転移している場合がほとんど(88.4%)
→転移先:肺74.4%、肝臓51.2%、CNS37.2%、胸膜20.9%、その他

症状(浸潤傾向が強い)
・心外膜→心タンポナーデ
・上大静脈→上大静脈症候群
・三尖弁→三尖弁閉鎖不全症、三尖弁狭窄症→右心不全

予後:約9か月程度と予後不良(発見が遅れることが原因かもしれない)
*結節性硬化症を合併することが多い

参考
・Up to date “cardiac tumors”
・JACC cardioOnc 2020;2:293-311. 心臓腫瘍に関するわかりやすいreview article