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滑車神経麻痺 trochlear nerve palsy

解剖・病態

・滑車神経は上斜筋(眼を下内転+内旋させる作用)を支配しています。
・滑車神経麻痺では上下方向の複視を訴えます(下図参照)。複視へのアプローチに関する一般的な内容はこちらをご参照ください。
・病歴上の特徴は特に下を向く時(階段を下る時・読書など)に増悪することと、頭位により増悪を認める(患側に傾けると悪化する)ことが挙げられます。

・滑車神経麻痺では眼は患側が上斜位になり、これは特に患側眼の内転で悪化、外転で改善します。これは眼の動く方向のベクトルをイメージすると理解しやすいと思います(下図参照)。

代償性頭位

・左滑車神経麻痺を例に考えると、できるだけ左眼を内下転しないような頭位にします。このため健側に頭を傾け、顎を引いて上目遣いの頭位(患側眼を上外転位)を取ります。後述の「Bielshowsky頭位傾斜試験」と代償性頭位が混同されてしまっている場合がよくあるため注意が必要です。

回旋の評価

・眼球の回旋に関しては馴染みが少ないと思いますので以下の様になっています。眼球の上に指標があり、「指標が外側へ回るか?内側へ回るか?」をイメージすると内旋(intorsion)、外旋(extorsion)の言葉との対応が理解しやすいと思います。以下の外眼筋との対応関係にあります。
・内旋(intorsion)を担う外眼筋:上直筋・上斜筋(滑車神経支配)
・外旋(extorsion)を担う外眼筋:下斜筋:下直筋

Bielshowsky頭位傾斜試験

・上斜筋の機能である眼球の内旋機能を評価する方法です。眼球の内旋・外旋を評価するためには頭位を片方へ傾けることで行い、これを「Bielshowsky頭位傾斜試験」と表現します。
・左滑車神経麻痺を例に考えます。
健側に頭位傾斜した場合:左眼は外旋しますが、滑車神経麻痺では障害されず複視は増悪しません。
患側に頭位傾斜した場合:左眼は内旋しないといけませんが、滑車神経麻痺では内旋が障害されます。別の内旋を担う上直筋が代償的に強く収縮することで内旋を保とうとしますが、上直筋は上転作用もあるため結果眼は上転してしまい複視は増悪します。

動眼神経麻痺合併例での滑車神経麻痺の評価

・動眼神経単独の障害か?動眼神経麻痺に滑車神経麻痺を合併しているか?は鑑別が大きくことなるため両者の鑑別は極めて重要です(動眼神経麻痺に関してはこちらをご参照ください)。
・動眼神経麻痺があると眼は”down and out”で下外転を向いてしまうため、上斜筋による下内転の眼球運動評価が上手く出来ません。このため、ここでは上斜筋による眼球の内旋を評価します。
・下に左動眼神経麻痺の例を挙げましたが、この状態で患者さんに勢いよく内下方を見ようとしてもらいます。実際に内転はしないのですが、その際に眼球が内旋すれば上斜筋は保たれており(滑車神経は正常)内旋が見られなければ上斜筋は障害されている(滑車神経麻痺)と判断します。内旋を観察する際には眼球結膜の血管に着目して、血管がどううごくか?を観察します。これはかなり上級者向けの診察方法です。

Neurology. 2007 May 22;68(21):E34. こちらに動画があり大変わかりやすいです。

上斜位へのアプローチ

「片側の眼が上斜位の場合どの外眼筋が障害されれているのか?」を解明するための方法を”3 step test”と呼び、以下に解説します。これは鑑別の入り口が「上斜位」の場合全てに使用できる非常にシステマチックなアプローチです。

1st Step:正中視
・正中視をしてもらい、どちらの眼が上斜位になっているかを確認します。例えば右眼が上転している場合(以下のStepも全て右眼上転からスタートしたアルゴリズムと仮定します)は、右眼の下転障害(上斜筋もしくは下直筋)左眼の上転障害(下斜筋もしくは上直筋)の障害を疑います。つまり4つの外眼筋障害の可能性に絞られます。

2nd Step:右方視・左方視
・右方視・左方視をしてもらい、どちらで上斜位が悪化するか?を確認します。
右方視で悪化する場合:右眼外転で強く作用する右下直筋、もしくは左眼内転で強く作用する右下斜筋の障害を考えます。
左方視で悪化する場合:右眼内転で強く作用する右上斜筋、もしくは左眼外転で強く作用する右上直筋の障害を考えます。
・こうすることで障害の原因を4つから2つに絞ることが出来ます。

3rd Step:頭位傾斜(回旋の評価)
・2nd Stepまでで鑑別は2つに絞られました。次の3rd Stepでは眼球の回旋を評価することで責任病巣を特定します。回旋は普段なかなか気にしない項目なので非常にややこしく感じます(私は理解するまでに非常に時間がかかりました)。
・以下がまとめになります。
*参考
・内旋(intorsion)を担う外眼筋:上直筋・上斜筋(滑車神経支配)
・外旋(extorsion)を担う外眼筋:下斜筋:下直筋

すべてまとめると下図の通りです。

原因

1:単独障害の場合(後述文献参照)
外傷性、特発性、微小血管性

2:複数の脳神経障害の場合
→多発脳神経麻痺の鑑別へ(こちらをご参照ください)

“Etiologic distribution of isolated trochlear palsy: Analysis of 1020 patients and literature review” Eur J Neurol. 2022;29:3658–3665.

1020人の単独滑車神経麻痺症例(診療科横断的であり神経内科または眼科のみとならないことで偏りを防ぐ)の検討
原因(全体):先天性 32.4%,特発性 25.1%, 微小血管性 20.8%, 外傷性 14.2%
年齢による違い:10歳未満 先天性86.6%, 20歳代 外傷性 35.0%, 30-40歳代:特発性,60歳以降 微小血管性 46.0%

年齢先天性特発性微小血管性外傷性そのて455tぬhjき78じょ
年齢層先天性特発性微小血管性外傷性その他
0–9歳86.6%11.1%0.0%1.1%1.1%
10–19歳47.4%29.8%0.0%17.5%5.3%
20–29歳30.0%27.5%0.0%35.0%7.5%
30–39歳21.5%46.2%1.5%16.9%13.8%
40–49歳20.4%38.7%11.8%24.7%4.3%
50–59歳12.4%26.7%28.6%19.3%13.0%
60–69歳3.5%24.3%46.0%13.9%12.4%
70–79歳2.6%31.0%44.0%17.2%5.2%
80歳以上4.2%20.8%41.7%20.8%12.5%
全体32.4%25.1%20.8%14.2%7.5%

両側性(全体の1.3%)の場合:外傷性が最多 53.8%
*ここでの微小血管性の定義は①血管リスクを有し、②その他の原因がなく(MRI正常)、③1年以内に自然改善することとされています。

以上おおまかに滑車神経の評価方法に関して解説しました。滑車神経の難しい理由は「回旋」を評価しないといけない点につきます。ややこしい内容ですが参考になりましたら幸いです。

参考文献
・「神経症候学を学ぶ人のために」 著:岩田誠先生