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多発神経根症 polyradiculopathy

神経根障害は頚椎症性神経根症と腰椎症性神経根症が頻度として圧倒的に多いです。しかし、それだけではなく胸髄領域の神経根が障害される場合もあれば、複数の神経根が同時障害される多発神経根症を呈するものもあります。ここではminorな多発神経根症の鑑別をまとめます。

どの部位の障害か?

以下にどの部位の神経根が障害されるとどのような症状が出現するかの対応を記載します。

頸髄神経根:頚部痛(~肩甲骨周囲の疼痛)と神経根レベルに沿った放散痛を認めます。Jackson, Spurlingで神経根痛を誘発することができます。

胸髄神経根:神経根障害として最も頻度が低いもので、頻度が低いがゆえに見逃されることも多い部位です。持続的な胸痛や腹痛(締め付けられるような・帯状の など)を呈します。腹部の筋緊張が低下すると腹部が膨隆することもあります。胸痛、腹痛いずれも内蔵疾患が原因のことが多いので普段はあまり胸髄由来の疾患を考慮しないかもしれないて注意が必要です。頸髄、胸髄のような誘発方法はありませんが、前屈や障害部位への側屈で神経根痛が増悪することがあります。以下は腹部膨隆の例です(J Neurol Neurosurg Psychiatry 1999; 66: 405より引用)。

腰髄神経根:腰部痛や臀部~膝裏にかけての放散痛を認めます。Straight leg raising testfemoral stretch testで神経根痛を誘発出来ます。これは椎間板ヘルニアだけではなくギラン・バレー症候群などでも誘発可能です。

馬尾:馬尾は神経根なので(まずこの認識がない場合があるので注意です)、神経根性疼痛が強く、間欠性跛行が臨床的な特徴として挙げられます。膀胱直腸障害は早期にはあまり目立ちませんが、障害の時間が経過してから徐々に顕在化してきます。原因としては脊柱菅狭窄症、椎間板ヘルニア、その他腫瘍(悪性リンパ腫も含む)などが挙げられます。下図の解剖に関してはこちらをご参照ください。

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鑑別

polyradiculopathyに関してreviewは存在しません。私が調べた範囲で、まとめた鑑別を掲載させていただきます。

各論

GBS・CIDP:polyradiculopathyをきたす自己免疫性疾患として最も有名。詳細に関しては割愛させていただきます(CIDPに関してはこちらをご参照ください)。

CISMP(chronic immune sensorimotor polyradiculopathy)

CISP(chronic immune sensory polyradiculopathy)とCIMP(chronic immune motor polyradiculopathy)がそれぞれ感覚障害のみもしくは運動障害のみを呈する多発神経根症として知られています。感覚障害、運動障害両者を呈するものがCISMPとして報告されています。

■CISMPの2例を提唱した報告 Muscle Nerve 55:135–137, 2017

2例からCISMPという疾患概念を提唱しており、神経根の評価としてF波、SSEP、MRI(neurography)が有用であると報告しています。

症例1:27歳女性3年経過の緩徐進行性の感覚性失調、下肢筋力低下で受診。歩行には介助が必要で股関節、膝ではMMT3、足首ではMMT5であった。膝蓋腱反射、アキレス腱反射は消失、下肢は上前腸骨棘まで振動覚が低下しており、Rombergは陽性。表在感覚は正常。上肢は運動感覚反射いずれも正常。
電気ではSural正常、TibialでF波消失し、H波消失。針筋電図ではVM, TA, GM, GCにおいて神経再支配の所見を認め、下肢SSEPではN8正常、N22消失(上肢SSEPは正常)。MRI検査では腰仙髄領域の神経根の腫大と造影効果を認めた。軟髄膜の造影効果はなく、占拠性病変も指摘できなかった。各種自己抗体、ウイルス検査は陰性。髄液は細胞数4/μL, 蛋白200mg/dLと上昇、ステロイドPSL1mg/kg/日を6週間継続し、その後10日間ずつに5mg/日減量、その後steroid-sparingとしてアザチオプリンを導入した。その後支えなく歩行可能まで改善した。

■症例2:17歳女性が緩徐に進行する不安定と下肢筋力低下で受診。神経所見では股関節MMT3、膝MMT3、足首MMT3で位置感覚下肢は障害されており、反射は消失。NCSでは感覚神経は上下肢ともに正常範囲内。CMAPは両側腓骨神経、脛骨神経で低下し、F波は下肢全て消失。針筋電図ではVM, TA, GM, GC慢性神経再支配の所見、SSEPではN8正常もN22導出困難。MRIでは腰仙髄神経根の腫大と造影効果を認めた。髄液は細胞数2/μL, 蛋白86mg/dL、プレドニンとMMFで治療を開始しMRSは2まで改善した。

VZV

EBV

■EBVによるpolyradiculitis BMC Neurology 2013, 13:96

35歳女性が1周間前に伝染性単核球症に罹患し、その後両下肢に放散する疼痛をきたし、神経学的所見ではfocal neurological signは認めず、感覚障害もなく、深部腱反射も保たれていた。NCSではCMAP, SNAP問題なく、F波も保たれていた。髄液は細胞数18/μL, 蛋白83mg/dLに上昇(Qalb=12.5×10*3)、髄液中EBV-PCR陽性、MRIの情報なし。
→なぜこれでpolyradiculopathyと判断したのか不明でEBVによるradiculopathyと呼ぶには臨床情報が不足しすぎている印象があります。

CMV感染(AIDS関連)

CMVはAIDS関連でpolyradiculopathyを呈した報告が多数あります。CMVによる神経合併症としては脳炎、末梢神経障害、多発神経根症が挙げられてます。ARTが導入されてからその数は減少しており、AIDS関連のCMVによる多発神経根症は報告をすべてあつめても数例程度です。

■症例報告:AIDS関連のCMVによるpolyradiculopathyの3例(Intern Med 54: 513-518, 2015))
・Case 1: 50歳男性AIDS、排尿障害、下肢筋力低下を呈し、髄液は細胞数1813/μL(poly:74%),TP1860 mg/dL, Glu 29 mg/dL, CMV-DNA+、造影MRIで馬尾造影効果、ガンシクロビル治療も他界。
・Case 2: 29歳男性AIDS、1ヶ月経過の左下肢筋力低下を呈し、髄液細胞数291/μL(poly62%)、TP269mg/dL, glu31mg/dL、CMV-DNA+、造影MRIで馬尾(左優位)に造影効果あり。ガンシクロビルにより杖歩行まで改善し33日目に退院。
・Case 3: 54歳男性AIDS、2週間経過の排尿障害と下肢筋力低下、髄液細胞数298/μL(poly63%)、TP342mg/dL,Glu 42mg/dL、CMV-DNA+、造影MRIで右馬尾に造影効果あり。

Tick-borne encephalitis virus (TBEV) 通常は髄膜炎、髄膜脳炎、髄膜脳脊髄炎を呈することが多いが、polyradiculopathyを呈する症例報告が以下の通り。

TBEVによりpolyradiculopathyを呈した症例報告 Arch Neurol. 2009;66(7):904-905.

58歳男性が急速進行性の左下肢有痛性麻痺を呈し、3週間前にダニ交渉があり。神経学的所見では両下肢深部腱反射は低下しており、髄液は細胞数44/μL, 蛋白260mg/dLと上昇、TBEVに対するIgM, IgGがともに上昇していた、Lyme borreliosisは陰性。MRIは下図の通り馬尾に造影効果を認めた。

髄膜脳炎にpolyradiculitisを合併した症例報告 Neurology. 2007 Apr 10;68(15):1232-3.

梅毒

梅毒によるpolyradiculopathyの既報まとめ Clin Microbiol Infect. 2000 May;6(5):284-5.

糖尿病

DTP(diabetic thoracic polyradiculopathy)は糖尿病患者さんに認めることがある胸髄領域の多発神経根症で、症状としては慢性経過の持続性腹痛(発症は突然のことも緩徐のこともある、両側性のこともあり)、腹部の感覚障害腹部膨隆(腹筋の筋緊張が低下するため、座位や立位で目立つ:ヘルニアと間違える場合もある)を認めます。多発神経根症の中ではおそらく頻度は比較的多いものでまず想起する疾患と思います。ただ糖尿病患者の何%程度に認め、また何がリスク因子となっているかに関しては報告がありません(参考文献:Best Practice & Research Clinical Gastroenterology Vol. 19, No. 2, pp. 275–281, 2005)。

高TG血症

症例報告:74歳男性(既往歴:糖尿病HbA1c=6.4%, CLL)数ヶ月持続するTh4-8領域両側性の疼痛にて受診。身体所見では皮疹はなく、腹壁反射やBeevor徴候の記載なし。髄液所見は特記すべき異常所見なしく、NCSは正常、MRIも正常範囲内。唯一の異常所見がTG=3898 mg/dL(44mmol/L)でありこれがpolyradiculopathyの原因と考えたというケースレポート。参考:doi:10.1136/bcr-2014-206966 この他には高TG血症による多発神経根症の報告はなし(neuropathyの報告はあるが)。

サルコイドーシス

サルコイドーシスによる末梢神経障害のパターンは、57例(脳神経障害のみを除く)の検討では以下の通りです(Journal of the Neurological Sciences 244 (2006) 77 – 87)。
・polyradiculoneuropathy 22例(39%)
・polyneruopathy 19例(33%)
・polyradiculopathy 9例(16%)
・multiple mononeuropathy 6例(11%)
・radiculoplexus neuropathy(lumbosacral) 1例(1.8%)
この様にpolyradiculopathyを呈する症例が多く存在することがわかります。以下で具体的なsarcoidosisによるpolyradiculopathyの症例をまとめます。

■造影MRI検査で神経根腫大・造影効果を認めたサルコイドーシスによるpolyradiculopathyの症例報告 臨床神経 2011;51:483-486

80歳女性がTh4~10 レベル両側に帯状の絞扼感と四肢の痺れ感を認め受診。採血検査では抗ガングリオシド抗体陰性、髄液は細胞数38/mm3(mono:100%), TP135.1mg/dL, IgG index=0.59, sIL-2R=346 U/mLと上昇し、ウイルスPCR陰性、細胞診陰性。NCSはmedian, ulnarでF波潜時延長あり、造影MRIでは著明な神経根の腫大と造影効果を認め、軟髄膜にも造影効果あり(下図参照)。リンパ節生検でサルコイドーシスの診断で、神経サルコイドーシスと判断(臨床神経 2011;51:483-486より引用させていただきました)

■Sarcoidosisによる体幹部のradicolopathy症例報告 Journal of the Neurological Sciences 281 (2009) 108–109

43歳女性、左の顔面神経麻痺後に右の体幹と上腕尺側の感覚低下が出現し、その後視力低下なども出現。神経診察ではC8-Th12レベルに感覚低下を認めた。髄液は細胞数40/μL(mono:98%)、蛋白85mg/dL、MRI検査では脳・脊髄いずれも異常所見なし。胸部レントゲンでBHLあり、Gaシンチで同部位に集積あり。眼科診察ではぶどう膜炎を認めたことからサルコイドーシスと診断。神経病変に関しても同部位の生検はないが、サルコイドーシスによるpolyradiculopathyと判断しステロイド治療を開始した。

サルコイドーシスで脳神経障害は多いが、神経根障害はまれで体幹部の感覚障害を伴った末梢神経障害もしくは神経根障害は8例報告ありまとめている(下図)。年齢は26-83歳、全例女性で、両側線病変が7/8例と報告されています。

■Sarcoidosisによるpolyradiculopathy17例のまとめ 引用:Muscle Nerve 22: 608–613, 1999

Sarcoidosisでギラン・バレー症候群のように発症する症例報告が複数あり、sarcoidosisでのpolyradiculopathyはrareではあるがその特徴を調べた報告です。
受診時年齢は33歳(17-48歳)、男女比は1.4:1、受診時下肢筋力低下が71%(12/17例)、近位筋>遠位菌に筋力低下を認め、膀胱直腸障害を35%(6/17例)に認めた。下肢深部腱反射は59%(10/17例)で消失。全例胸髄神経根もしくは腰髄神経根を障害していた、頸髄は1例のみで障害していた。背部痛、下肢痛を8例で認め、頚部痛を1例で認めた。疼痛は通常数日別持続する鈍い背部痛。
髄液蛋白は326mg/dL(50-1145)、glucose 41.6 mg/dL(20-165)、細胞数156(5-575)/μL。
針筋電図は6例で急性脱神経の所見を認めた。14例中9例はステロイドにより症状の改善を認めた。

Sarcoidosisによる馬尾障害(感覚障害のみ)の症例報告 Muscle Nerve 43: 900–905, 2011

59歳男性が6週間の経過で進行性の歩行障害を呈し、神経学的所見では筋力低下はなく深部感覚障害が主体。血液ACEは正常範囲内、髄液細胞数36/μL、蛋白509mg/dL、OCB-、各種感染症検査陰性、細胞診陰性、MRI検査で馬尾肥厚と造影効果があり、円錐部も造影効果あり。NCSでは下肢CMAP ampは保たれ、suralのSNAPも保たれおり後根神経節より近位部での障害が示唆された。針筋電図では急性脱神経所見をとらえられず。馬尾生検を実施し、サルコイドーシスの診断。

この報告では馬尾障害を呈したサルコイドーシスは既報で24例あり、10/24例は全身のサルコイドーシス障害を伴っておらず、既報例は感覚運動障害もしくは運動障害のみの報告で、感覚障害のみの報告はなかったとされています。脊髄のいずれかを障害するサルコイドーシスは蛋白上昇200mg/dl程度を認め、細胞数増多や糖低下を伴う場合もあります。馬尾を障害するサルコイドーシスの報告では蛋白は55-810mg/dL(ほとんどが330mg/dL以上)と大きく上昇しています(CSF flowが障害されるためかもしれないと記載あり)。治療に関しては(19/24例で治療効果に関して報告あり)ステロイドが14/19例で効果あり、4/19例で軽微な改善、1/19例は悪化と報告されています。

・Schwannoma

Schwannomaによるpolyradiculopathyまとめ The Open Neuroimaging Journal, 2011, 5, 9-13

悪性リンパ腫

炎症性多発神経根症とまぎらわしかった馬尾原発の悪性リンパ腫の症例報告 Intern Med 2007;46:1029-1032

67歳女性が右手の異常感覚から発症し、下肢運動障害も認めた。神経学的所見では深部腱反射は低下。NCSはF波の出現頻度低下と遅延があり。髄液細胞数85/μL(mono:90%, poly:10%)、蛋白404mg/dL、細胞診はclass1。MRIで馬尾の腫大とびまん性の造影効果を認めた(頭部は問題なし)。CT検査で悪性腫瘍はなく、sIL2Rは325U/mLと正常範囲内。抗ガングリオシド抗体は陰性、炎症性のpolyradiculopathyと判断してIVIGを実施。症状は著明に改善し脚を引きずらずに歩けるまでに改善した。症状は再発し、IVIGを計8回実施したが、その後IVIGで改善せず悪化した。MRIに腫瘤性病変が指摘されおり髄液は細胞数70/μL, 蛋白1468mg/dLと上昇、細胞診はclassⅡ、髄液sIL2Rは12,333 U/mlと著明に上昇。生検しNHL(DLBCL)の診断。

polyradiculopathyで発症したIVL(血管内リンパ腫)の症例報告 Muscle Nerve 23: 1295–1300, 2000 詳細に検討とまとめがされており剖検もされているため、個人的にはかなり衝撃的な症例報告でした。

53歳男性が進行性の下肢感覚障害、脱力(発症4ヶ月で歩行困難)、膀胱直腸障害(7ヶ月で自己導尿が必要)、背部痛、全身症状(発熱、盗汗、10kgの体重減少)と汎血球減少を呈した。肝脾腫があり、神経学的所見では脳神経は問題なく、C5-6左に軽度筋力低下、また両下肢に筋力低下あり。アキレス腱反射は消失。髄液検査検査は細胞数問題なく、蛋白68mg/dL、MRI検査ではごく軽度のT2高信号域を円錐部に認めた。体幹部CT検査では悪性腫瘍やリンパ節腫脹なし。NCSはtibial CMAP amp低下、suralは正常、針筋電図では安静時fib、MUPはlarge polyphasic MUP、干渉不良を左右TA,右RF、右GM、傍脊柱起立筋に認め、電気生理検査の結果からは腰仙髄領域のpolyradiculopathyを示唆した。胃、十二指腸直腸生検ではアミロイド沈着を認めず。各種ウイルス検査は陰性。骨髄検査、肝生検では血球貪食症候群を示唆する所見であり、肉芽腫、血管炎や悪性腫瘍は認めなかった。HHV6 PCRは結成、髄液、骨髄で陽性。状態は悪化していき、消化管出血のコントロールがつかず死亡。剖検で血管内リンパ腫の診断。

polyradiculopathyで発症したIVLの症例報告 Neurology 1996;47:1009

67歳男性が4ヶ月の経過で肛門周囲の感覚低下が生じ、下肢へ波及した。その後両下肢脱力と膀胱直腸障害が悪化した。髄液検査は3ヶ月後で細胞数7/μL、蛋白50mg/dL、4ヶ月後で細胞数2/μL, 蛋白141mg/dL, 5ヶ月後で細胞数1/μL, 蛋白79mg/dLであった。NCSはtibialのCMAPが低赤しており、SNAPは保たれていた。針筋電図ではL5,S1領域に脱神経所見。MRI検査は後根に造影効果あり。腓腹神経生検では炎症・血管炎・肉芽腫は指摘できなかったが血管内に異型細胞があり。免疫染色ではB細胞が示唆されたが、ブロック数が足りずその他の免疫染色は調べられず。血管内リンパ腫の診断でCHOP実施し神経症状は進行なし。

馬尾生検で診断した血管内リンパ腫 臨床神経 2013;53:803-808

49歳男性が全身倦怠感、両膝から下にかけてのもやもやとした異常感覚が出現し、腰痛と下肢脱力が出現し杖歩行を開始し、一過性尿閉が出現。身体所見ではリンパ節触知せず、神経学的所見では下肢はMMT3程度、L4-S1領域にかけて異常感覚、深部腱反射は下肢いずれも消失、病的反射はいずれも陰性。血液検査のLDH209 IU/L, sIL-2R 383 U/mLと正常範囲内, 自己抗体各種陰性、髄液検査は細胞数457/μL(mono:97%, poly:3%),蛋白4550mg/dL,sIL2R:37,482 U/mL, 細胞診は陰性。ランダム皮膚生検は陰性。造影MRI検査では脳室に造影効果、また脊髄円錐から馬尾が腫大して神経根に沿ってびまん性の造影効果。馬尾生検を施行し、DLBCLの診断。

この論文では今までの馬尾を主座としたDLBCL28例中、馬尾生検施行例は8例において認めまとめています。

polyradiculopathyを呈したPLML(primary leptomeningeal lymphoma)の症例報告 Neurol Sci (2011) 32:1171–1174

既往のない62歳女性が1ヶ月の亜急性経過で進行性の下肢筋力低下・歩行障害を呈した。神経学的所見では左近位、右遠位に中等度の筋力低下をそれぞれ認め、下肢は深部腱反射消失し、感覚障害や脳神経障害、意識障害、膀胱直腸障害は認めなかった。電気生理検査はradiculoneurupathyに矛盾しない結果で、脊髄MRI検査は正常であった。髄液は細胞数上昇、蛋白上昇を認め、細胞診は正常、OCB陰性、感染症は指摘できず(いずれも具体的な数字の記載なし)。血液検査ではIgGλのモノクローナルなグロブリン増加を認め、MGUSに矛盾ない所見であった。CT検査は以上なく、IVIG5日間実施し軽度の運動障害の改善を認めた。
3ヶ月後に両下肢麻痺が悪化進行し、C3,4,5レベル左に神経根性疼痛を認めた。電気生理検査では頸髄領域の感覚性神経根障害と下肢の運動性神経根症を認めた。造影MRI検査で神経根布の腫大と造影効果を認めた。5ヶ月後FDG-PETで神経根レベルに複数の集積を認め、髄液フローサイトメトリーよりB細胞系のclonalityを認め、B細胞性リンパ腫の診断(PLML)に至った。

EBV-associated lymphoproliferative disorderによるpolyradiculopathy Neurology. 2008 Nov 11;71(20):1644-5.

56歳女性関節リウマチに対してMTXを20年間使用中、4日前から進行性の左上肢、下肢筋力低下と腹部の感覚障害にて受診。神経学的所見では上肢>下肢、近位>遠位での筋力低下を認め、深部腱反射は減弱していた。電気生理検査では近位でに伝導ブロックを認めた。脊髄造影MRI検査では特記所見なし。髄液細胞数60/μL,蛋白124mg/dL、EBV-DNA陽性。結成はEBNA+,IgG+, IgM-で既感染パターン。CTをはリンパ節腫脹を占めし、生検ではポリクローナルな免疫グロブリン増殖を認めた。EALD(EBV-associated lymphoproliferative disorder)の診断で、これによるpolyradiculopathyと判断した。MTXを中止、リツキシマブを開始。

白血病

白血病による馬尾症のまとめ World Neurosurg. (2020) 134:439-442.

白血病FAB-M2にpolyradiculopathy合併 Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 1993;56:936-938

AML5にpolyradiculitis合併 Pan African Medical Journal. 2010; 5:17

■BPDCN(Blastic Plasmacytoid Dendritic Cell Neoplasm)による馬尾症 JAMA Neurol. 2015;72(8):938-939.

76歳男性で既往にBPDCNがある患者が、亜急性進行性の両下肢麻痺、膀胱直腸障害にて受診。神経学的所見では弛緩性麻痺で腱反射低下。造影MRIでは神経根の腫大、肥厚を認め、髄液は細胞数3397/μL、98%は異型細胞でBPDCNを反映しているものであった。

leptomeningeal metastases

神経根を直接障害して神経根痛をきたすとされています。原発巣としては白血病、リンパ腫、乳がん、肺がん、メラノーマ、消化管腫瘍が多いとされています。leptomeningeal metastasesによる馬尾障害では造影MRI検査で馬尾の部分に“sugar-coated”と表現されるびまん性の増強効果を認めることが典型的です(下図)。

乳癌髄膜転移により馬尾にFDG-PET/CTで集積を認めた症例報告 Clin Nucl Med 2016;41: e485 – e486

32歳女性でBRCA1陽性の転移性乳癌患者が2週間経過で増悪する下肢の感覚低下と便秘、排尿障害を呈した症例。

馬尾障害で発症し、馬尾生検で診断した転移性乳癌症例 Ann Intern Med. 2010 Oct 19;153(8):550-1. 馬尾障害が初発症状としてそこを生検して乳癌の診断に至るという非常にかっこいい症例報告です。

65歳女性が2ヶ月経過で下肢感覚障害を呈した。その後4ヶ月で下肢筋力低下、感覚低下が進行。髄液検査は細胞数正常、蛋白619mg/dLと上昇、細胞診は問題なし。脊椎頭部MRI検査は正常。その2ヶ月後に弛緩性麻痺と位置覚障害、感覚低下で受診。筋電図はFibが広範囲にあり、腰仙髄のpolyradiculopathyと診断し、髄液は蛋白上昇のみ、造影MRI検査で馬尾の造影効果を認めた(画像なし)。同部位の馬尾を生検し、転移性lobular breast adenocarconimaを診断。3ヶ月前のマンモグラフィーでは異常所見はなかったが、MRIを実施し7mm大の右乳癌を指摘。

SLE

SLEによるpolyradiculopathyの症例報告 J Neurol Neurosurg Psychiatry 1999;66:658–661

SLE既往の22歳女性が3ヶ月の経過で両下肢筋力低下(左>右)を呈し、深部腱反射は下肢で減弱しており、感覚障害は認めなかった。電気生理検査では神経根障害が示唆され(具体的な記載なし)、下肢のCMAP ampは低下するもsural, superficial peronealのSNAPは保たれていrた。針筋電図でL4-S1にかけてFibを指摘した。MRI検査では神経根に造影効果を認め(下図)、髄液細胞数正常、蛋白は77-105mg/dLと上昇。ステロイド、IVIG、IVMPは効果なく症状は進行。腓腹神経生検では血管炎の所見を認め、血管炎の病態がpolyradiculopathyに関与しているのではないかと推察している。

SLEにpolyradiculopathyを合併した症例報告 J Assoc Physicians India. 2003 Mar;51:304-5.

SLEが既往にある21歳女性が両下肢近位筋力低下を呈して受診。膝蓋腱反射低下、アキレス腱消失、髄液検査は細胞数20/μL(96%:mono),蛋白73.4mg/dL、MRI検査でL3-5の神経根腫大を認め(画像なし)、筋電図でL2-3に神経原性変化、NCSはL4-5,S1の神経根障害を示唆と記載あるが詳細な情報なし。SLEに伴うpolyradiculopathyと診断。ステロイド導入にて症状は改善した。

・Sjogren症候群

■亜急性経過のpolyradiculopathyを呈したSjogren症候群の症例報告 Muscle Nerve 39: 855–857, 2009

73歳女性が3ヶ月前に発症し、2周間前から進行する手、脚の感覚障害と運動障害を主訴に受診。神経診察では遠位優位にMMT4/5程度、stocking-glove型の分布で感覚障害あり、深部腱反射は上肢で低下、下肢で消失。髄液細胞数9/μL, 蛋白74mg/dL、細胞診やウイルス検査は陰性。口唇生検結果と唾液低下がありSjogren症候群の診断。NCSでCMAP, SNAPは正常だがF波は上肢で軽度延長し、下肢は導出されなかった。造影MRI検査では神経根(前根+後根)に造影効果を特に頸髄領域で認めた(下図参照)。ステロイドにより症状は徐々に改善。この論文では亜急性経過のpolyradiculopathyの鑑別にSjogren症候群を入れるべきだと述べている。

■運動神経主体のpolyradiculopathyを呈しMNDが当初疑われたSjogren症候群の症例報告 Ann Clin Neurophysiol 2019;21(1):61-65

55歳女性が9ヶ月経過の両上肢下肢の筋力低下もあり当初はMND初期を疑われて受診。感覚障害はなく、舌の萎縮もなし。上肢腱反射は低下、MRIでは腹側神経根のみが造影効果あり(背側神経根に造影効果はなし:下図参照)、髄液検査では細胞数1/μL,蛋白65mg/dL、抗ガングリオシド抗体陰性、各種ウイルス検査陰性。Sicca症状が2年前からあることが発覚し、シンチで取り込み低下あり(口唇生検なし)Sjogren症候群の診断。その後ステロイド治療で症状は改善し、フォローアップ造影MRIでも造影効果は消失した。生検はされていない。

NSVN(non-systemic vasculitic neuropathy) J Neurol (2000) 247 : 645–646

くも膜炎

脳表ヘモジデリン沈着症 J Neurol (2001) 248:63–64

ライム病

MTX髄注 以下で紹介するように、前根が選択的に障害されていることから神経根前根が薬剤性に障害されやすいことが示唆されます。

ALLに対して初回MTX髄注後に腰仙髄領域のpolyradiculopathyを呈した症例報告 Journal of the Neurological Sciences 267 (2008) 158 – 161

30歳男性ALLの患者に対して初回MTX髄注から4日後に患者は尿閉と下肢に不快感と軽度の筋力低下を呈した。その後患者は肺炎になりICUで相関管理、肺炎から改善後は重度の下肢弛緩性麻痺と膀胱障害を認め、下肢腱反射は低下から消失。深部感覚は上前腸骨棘から下肢にかけて低下し、髄液は蛋白163mg/dL、細胞数21/μLと上昇。各種ウイルス検査は陰性で抗ガングリオシド抗体は陰性、細胞診は3回実施し陰性、造影MRI検査は正常範囲内。NCSではCMAP低下、SNAP正常もF波消失。IVIG実施も症状は改善せず。剖検実施なし。

MTX髄注後の前根障害のpolyradiculopathyの3例報告 Pediatr Neurol 1999;21:576 – 8

Ara-C、MTX髄注後に前根障害のpolyradiculopathyを呈した症例報告 Muscle Nerve 2002;25:106 – 10.

3歳ALL患者がAra-C、MTX髄注後15日で下肢麻痺と深部腱反射消失を呈した(感覚障害はなし)。髄液所見は細胞数0/μL、蛋白107mg/dLと上昇し、NCSではCMAP ampは低下、F波消失、SNAPは正常。各種ウイルス検査は陰性で抗ガングリオシド抗体は陰性。MRI検査では腰仙髄領域の前根に造影効果を認めた。IVIGにを実施し徐々に改善を認めた。

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免疫チェックポイント阻害剤:イピリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブなど

■イピリムマブによるpolyradiculopathy、neuropathy、脳神経麻痺の症例報告 Muscle Nerve 48: 440–444, 2013(純粋なpolyradiculopathyではないけれど)

31歳男性、転移性メラノーマあり、3週間おきに10mg/kgイピリムマブを3クール投与。4クール目予定の2日前にめまい、水平性複視、耳鳴り、王騎嘔吐、構音障害、右顔面神経麻痺、近位下肢疼痛と歩行障害を呈した。イピリムマブによる免疫介在性のneuropathyが疑われステロイドパルス1g5日間、血漿交換を実施。筋力低下は進行して呼吸不全へ至った。3-4週間後から改善していき、monophasicな経過。
髄液検査は蛋白749mg/dL、細胞数130/μL、IgG index=4.98、リンパ球のflow cytometryは96%がCD3+、細胞診、培養検査などはいずれも問題なし。MRIは軟髄膜と胸髄腰髄領域の神経根(前根、後根いずれも)の造影効果を認めた。

インフリキシマブ インフリキシマブは投与後のMMNの報告が有名ですがpolyradiculopathyに関しても症例報告があります。

インフリキシマブ投与後の抗ガングリオシド抗体陽性のpolyradiculopathy Journal of Clinical Neuroscience 20 (2013) 1618–1619

64歳男性乾癬に対してインフリキシマブ投与1ヶ月後から四肢遠位の感覚障害と歩行障害が出現。神経学的所見では深部感覚障害が主体で、深部腱反射は消失。抗ガングリオシド抗体はIgM anti-ganglioside GM1, GA1, and Gal-C antibodiesが陽性、髄液細胞数は正常、蛋白上昇71mg/dL、IgG index正常、NCSは正常でSSEPはN20が異常所見あり。MRI検査は神経根の肥厚や造影効果は指摘できず。IVIGにて改善を認めた。

電気生理検査からは後根神経節より近位の障害が示唆され、CISPの臨床像と合致すると考えられた。

エチレングリコール中毒 エチレングリコール摂取5-20日後に両側性多発脳神経障害を生じる場合があり、GBSとの鑑別が困難な場合があります。

エチレングリコール中毒でのpolyradiculopathy Neurology. 2002 Dec 10;59(11):1809-10.

40歳男性が不凍液を飲んでしまいアニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスと急性腎障害で受診、摂取から12日後に脳神経麻痺と下肢麻痺を生じた。上肢筋力は問題なく、下肢は深部腱反射消失。髄液は細胞数正常、蛋白432mg/dL、NCSはperonealとtibialでF波消失。下肢に関して病態はradiculopathyと推定している。

医原性

腰椎穿刺後の馬尾障害 Journal of Clinical Neuroscience 16 (2009) 714–716

ここでは凝固障害など既往のない29歳女性がtrauma tapもなかったですが、腰椎穿刺後に硬膜外血腫をきたし下肢筋力低下、感覚障害を呈した症例が報告されています。事前にリスクをきちんと説明する、凝固障害がないからといって血腫は除外できない、trauma tapがないからといって血腫は除外出来ないが重要です。以下が腰椎穿刺、脊椎麻酔などでの血腫報告例のまとめです。

検査

以下の3つが特に原因同定に重要です。

髄液検査:髄液細胞診、ウイルスPCR

造影MRI検査:神経根部分の造影効果と脊髄自体の変化に関して。また純粋に物理的な神経根布の圧迫病変がないかどうか?を調べるために行う。神経根の造影効果に関してはこちらをご参照ください。MR neurographyを撮像するとよりわかりやすいです。

電気生理学検査:NCS、針筋電図 障害部位の同定に使用する。髄節に沿った障害か?それともdiffuseな障害なのか?の鑑別に有用。NCSではF波、SNAP amp(通常神経根の障害ではDRGは障害されないため、SNAP ampは低下しない)、SSEPなどが有用。

参考文献

・Up to date “Polyradiculopathy”