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肥厚性硬膜炎 hypertrophic pachymeningitis

病態・原因

髄膜は硬膜、くも膜、軟膜に分けられますが、ここではこのうち硬膜に主病変がある肥厚性硬膜炎を取り上げます。硬膜病変へのアプローチ一般に関してはこちらにまとめましたので、ご参照ください。

感染症は肥厚性硬膜炎の原因としては現代は比較的まれだとされています。

自己免疫関連ではGPA(多発血管炎性肉芽腫症)が原因として最も多いと報告されており、側頭動脈炎・サルコイドーシスも重要な原因となります。

特発性肥厚性硬膜炎は上記原因がすべて指摘できない場合の除外診断です。

日本の疫学調査159例の肥厚性硬膜炎をまとめたものでは、特発性44.0%、ANCA関連34.0%、IgG4/MFS関連8.8%、その他13.2%と報告されており、やはり2次性の原因としてはANCA関連が多いことがわかり、またIgG4関連疾患も多いことが注目されます。

臨床像

ここでは特発性肥厚性硬膜炎の報告から臨床像をみていきます。日本の159例報告をまとめます。

経過は急性25.8%、亜急性47.2%、慢性17.0%で、臨床経過としては単相性32.1%、進行性17.6%、再発寛解型39.0%、不明11.3%と報告されています。

初発症状は頭痛35.2%(最多)、視力低下13.2%、複視12.6%、聴覚症状9.4%と報告されています。経過中の症状としては頭痛71.1%、背部痛3.8%、意識障害13.2%、痙攣8.8%、記憶障害やその他の高次脳機能障害6.9%、視力障害32.7%、複視28.9%、感覚障害28.3%、膀胱障害6.3%と報告されています。

脳神経障害は全体の62.3%で認め、そのうち1つの障害40.4%、多発脳神経麻痺が59.6%に認め、脳神経の障害としてはⅡ:41.4%、Ⅲ:30.3%、Ⅳ:25.4%、Ⅴ:19.2%、Ⅵ:35.4%、Ⅶ:19.2%、Ⅷ:27.3%、Ⅸ:13.1%、Ⅹ:10.1%、Ⅺ:5.1%、Ⅻ:8.1%と報告されています。

神経学的所見その他は項部硬直4.4%、運動障害16.4%、深部腱反射異常27.7%、病的反射9.4%、四肢もしくは体幹の失調3.8%、感覚低下19.5%、膀胱直腸障害3.1%と報告されています。

36例の原因疾患ごとの臨床像の違いまとめは以下の通りです(Brain 2014: 137; 520–536)。

特発性肥厚性硬膜炎に関しては12例報告の論文があります(NEUROLOGY 2004;62:686–694)。2次性の原因がいずれも除外されたものを特発性肥厚性硬膜炎と扱っています。ここでは12例(男性9例、女性3例)、年齢中央値55歳(39-88歳)です。発症時の症状は頭痛(11/12例)、視力低下(7/12例 視神経症)、複視(4/12例)、その他の脳神経症状(3/12例)、失調(2/12例)、痙攣(1/12例)と報告されています。MRI検査では蝶形骨翼部が全例で障害されていました。髄液は細胞数上昇を4/12例で認め、蛋白上昇は6/12例で認めています。硬膜生検は5/12例で実施されており、腫瘍、血管炎や感染はいずれも指摘できていません。ステロイドで症状は全体的にかなり改善していますが、6例ではステロイドtapering中に症状の再燃を認めています。

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症状としてはやはり頭痛脳神経障害が重要と思います。ただ「これがあったら硬膜病変」という硬膜病変に特異的な症状がある訳ではないため「どこで臨床的に肥厚性硬膜炎を疑うか?」ですが、「原因不明の慢性~亜急性経過の頭痛」、「多発脳神経麻痺」などが鑑別点になるかと思います。脳神経の中では視神経顔面神経は特に硬膜と神経が近いため、軽度の硬膜肥厚で神経症状が出現しやすいとされています。

*私は月単位で頑固な頭痛を呈し、肺病変のある患者で両者を別と判断してしまい、頭痛は片頭痛と判断して実は肥厚性硬膜炎(原因はGPA)であったという苦い経験があります。夜間就寝中も頭痛で眼が覚めてしまうという点が片頭痛としては合致しない点もあり非常に反省しました。

検査

2次性の原因検索のために行います。それでもわからない場合は硬膜生検が最終的に必要となります。

採血
・血液像目視(異型細胞の検出はないか?)
IgG4、sIL2R、(ACEあまり意義には乏しいかもしれないが)
・自己抗体関連:ANA, SSA, ANCA, RF, 抗CCP抗体
・感染症関連:梅毒、結核、HTLV1
尿検査:尿沈渣で糸球体腎炎はないかどうか?(血管炎に伴う)
髄液検査:IL6、結核培養・PCR、細胞診
*細胞数上昇は一般的な髄膜炎と比べて肥厚性硬膜炎では少ないとされています
画像:造影CT検査GdシンチもしくはPETCT 全身病変の検索(悪性リンパ腫・サルコイドーシス・血管炎など)
硬膜生検:原因が全身検索で指摘できない場合は最終的に硬膜生検が必要となります。

日本からの159例の報告では以下の通りです。
採血:ESR上昇75.0%、WBC上昇43.2%、CRP上昇73.8%、ANA上昇16.9%、MPO-ANCA+27.7%、PR3-ANCA12.6%、IgG4上昇25.9%
髄液:細胞数上昇61.2%、蛋白上昇99.6%

画像

・MRI検査(非造影):T2WIで肥厚した硬膜は低信号を呈します・GdT1造影造影効果
*重要:慢性炎症の後は線維化(fibrosis)を呈するため、慢性炎症後の変化としてT2WI低信号が鑑別上とても有用です。普段注目していないと容易に見逃してしまうため注意が必要です。
・分布:局所的かつ不均一 *低髄圧症は均一かつびまん性の病変を呈する点が鑑別点です
*鑑別
・低髄圧症(髄液漏出症):びまん性・T2低信号になることはない
・en plaque meningioma:dural tailが広範囲に及ぶことが特徴
・組織球症

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参考文献

・N Engl J Med 2008;359:2267-78 MGH case recordsの非常に秀逸な解説付きの症例です。

・J Neurol Neurosurg Psychiatry 2014;85: 732–739. 日本の疫学調査159例の肥厚性硬膜炎をまとめた報告です。

・Brain 2014: 137; 520–536 肥厚性硬膜炎36例を原因別の臨床像の違いをまとめた報告です。

管理人メモ 2022/5/20日本神経学会学術総会での講義も踏まえて画像のところを追記