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排尿・蓄尿障害まとめ

排尿障害は尿路感染症での評価、高齢者での一般的な症状として泌尿器科非専門医にとっても避けては通れない分野です。ここでは非専門医として考えることをまとめます。このよう内容はまだ勉強が浅いので適宜アップデートしていきます。

1:排尿の調節

末梢神経:骨盤神経(副交感神経)、下腹神経(交感神経)、陰部神経(体性神経)

■蓄尿:交感神経

・α1(交感神経、下腹神経):収縮 内尿道括約筋
・体性神経(陰部神経):収縮 外尿道括約筋
・β3:膀胱平滑筋弛緩

■排尿:副交感神経

・アセチルコリン受容体(ムスカリン)(副交感神経、骨盤内蔵神経):膀胱平滑筋収縮 *先に尿道が弛緩

2:症状と病態の対応関係

下部尿路症状には「蓄尿障害」「排尿障害」の2つが存在します。両者は完全に独立ではなく、共存することがあります。尿路症状とざくっとまとめてしまわず、まず「蓄尿障害」、「排尿障害」のどちらなのか?アプローチします。

「排尿障害」は膀胱がうまく収縮出来ない、もしくは前立腺肥大などの物理的障害により尿をうまく出せない状態です。症状としては「尿が出しづらい」、「尿勢低下」、「腹圧排尿」などが該当します。
*「尿閉」に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。

「蓄尿障害」は膀胱にうまく尿をためられない状態で、膀胱の拡張障害を表します。症状としては、「尿意切迫感」、「頻尿」、「夜間頻尿」などが該当します。

「尿失禁」は「これらの病態の結果」という位置づけにするとイメージしやすいと思います。排尿障害があると結果として尿がたまり過ぎてしまい溢流性尿失禁をきたします。また蓄尿障害があると尿意切迫感から切迫性尿失禁をきたします。これらの下部尿路障害がない場合でも、多経産婦の方は骨盤底筋群脆弱化により腹圧性尿失禁をきたし、認知機能障害の患者さんはトイレに間に合わず、機能性尿失禁をきたす場合があります。まとめると下図の通りです。

3:検査

排尿障害、蓄尿障害、尿失禁いずれでも以下の点を確認します。ここまでは泌尿器科非専門医でもアプローチすることが出来ると思います。

問診 IPSS(international prostate symptons score)

診察直腸診(男性の場合、前立腺を評価)

採血:男性の場合PSA測定

尿検査:肉眼的血尿を認める場合は、悪性腫瘍の可能性も考慮し細胞診提出を検討。

腹部エコー検査:排尿後残尿測定(100ml以上は介入必要)・男性の場合前立腺体積測定

(A x B x C)cm ÷ 2 = 体積(mL)と近似して計算します。前立腺体積も同様です(正常:20~30ml、50ml以上の場合は泌尿器科コンサルテーション)が、前立腺体積は腹部エコー検査では場所が遠いため十分に観察・測定出来ない場合も多いです。前立腺の測定は経直腸エコーが確実ですが、経直腸エコーは泌尿器科の先生にお願いしたほうが良いと思います。

4:治療薬

排尿障害に対するα1受容体拮抗薬と蓄尿障害に対する抗コリン薬が治療薬の代表です。ここで簡単に解説します。

■α1-blocker

α1作用は内尿道括約筋を収縮させる作用があるため、α1受容体を阻害すると、排尿をしやすくなる作用を持ちます。男性の前立腺肥大症に伴う排尿障害が適応となります。α1-受容体は下部尿路だけでなく、血管平滑筋にも存在するため起立性低血圧の副作用などが懸念となります。α1受容体にはα1A, α1B, α1Dの3つのサブタイプがあり、下部尿路はα1A, 血管平滑筋にはα1Bが主に分布しています。

第2世代α1阻害薬は下部尿路の選択性(つまりα1A)が高く、血管平滑筋への選択性が低いため、低血圧のリスクが低く比較的安全に使用することが出来きます。効果発現は早く数日で効果がでますので、尿閉で尿道カテーテルを留置し、すぐに薬剤治療を開始するのが良いと思います。以下にα1A受容体の選択性が高いα1遮断薬をまとめます。

・シロドシン(ユリーフ®) 処方例:4mg 1日2回投与 効果がすぐ出てα1A選択性高いため、効果高い(がその分副作用も多い)。
・塩酸タムスロシン(ハルナール®)OD 処方例:0.2mg 1日1回
・ナフトピジル(フリバス®)処方例:25~75mg 1日1回投与(開始:25mg/日、最大投与量:75mg/日)

副作用
・射精障害(逆行性射精)・口渇・尿失禁・血圧低下
*IFIS(intraoperative floppy iris syndrome)・白内障に対する手術療法(水晶体超音波乳化吸引術)中の交際の逸脱が生じる病態でα1遮断薬投与による報告があります。

■抗コリン薬

アセチルコリンのムスカリン受容体は膀胱を収縮する作用を持ちます。抗コリン薬はこれを阻害することで、蓄尿障害を改善する作用があり、過活動膀胱(OAB)に治療適応があります。しかし、排尿障害では逆に症状を増悪させてしまうため注意が必要です。

抗コリン薬以外にも抗コリン作用を持つ薬剤は多数あり、その代表は抗ヒスタミン薬(第1世代)、抗精神病薬、一部のベンゾジアゼピン系が挙げられます。前立腺肥大がある高齢男性が風邪で抗ヒスタミン薬を内服して、尿閉になってしまうことはあるあるだと思います。

緑内障、認知機能、腸閉塞、気管支喘息など副作用のオンパレードの薬なので特に高齢者の処方では慎重になるべきです。

過活動膀胱に対しては以下の薬を使用する場合が多いです。

・プロベリン(バップフォー®) 処方例:20mg 1日1回投与(1日2回まで増量可能)
・ソリフェナシン(ベシケア®) 処方例:5mg 1日1回投与 (10mg/日まで増量可能)

抗コリン薬は過活動膀胱だけではなく、COPDでの吸入薬(LAMA:長時間作用型ムスカリン受容体作動薬)、パーキンソン病治療薬(トリヘキシフェニジル)、腸管蠕動運動抑制(スコポラミン)、徐脈への対症療法(アトロピン)などがあります。これらでも尿閉をきたす場合があるため注意が必要です。

4:神経変性疾患での尿路症状

多系統萎縮症とパーキンソン病では尿路症状の出方に違いがあることが指摘されています。以下はNeurology ® 2019;93:e946-e953より引用します。

先にまとめてしまうと下記の通りです。
MSA:排尿障害が主体(排尿流速が低い、残尿量が多い、膀胱コンプライアンス低下、膀胱収縮力低下)・尿路症状が早期から出現(中央値2.9年±1.9年)
PD:蓄尿障害が主体でOABの症状を呈する(尿失禁が多い)・尿路症状が遅れて出現(中央値7.6±4.6年)

これは実臨床でもまさにその通りと感じるところです。この研究では後ろ向きにMSA107人、PD112人のurodynamic study結果をまとめています。

MSAでは橋、仙骨排尿センターの部分の神経脱落が関与しており、排尿障害が主体となり、PDでは基底核が前頭葉と連結しているため前頭葉の機能不全が蓄尿障害と関係しているのではないか?と推察されています。MSAに関しての総論はこちらをご参照ください。