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動眼神経 oculomotor nerve Ⅲ

1:解剖

動眼神経の走行

動眼神経核→髄内神経根→くも膜下腔(脚間窩→PCAとSCAの間)→海綿状脈洞→上眼窩裂→眼窩内という走行をたどります。

神経核の局在解剖

高さ:中脳上丘 部位:内側縦側MLFの内側
神経核と神経走行の関係性
上眼瞼挙筋:両側性支配(神経核が中央に1つしかなく、両側性支配)
*中脳の障害により両側性の眼瞼下垂をきたす
上直筋:反対側 *注意
その他(内直筋、下直筋、下斜筋):同側

対光反射の解剖経路

動眼神経の機能として眼球運動だけではなく、副交感神経での瞳孔調節機能があります。

MRI検査での動眼神経

動眼神経はくも膜下腔(脚間窩、PCA/SCAの間)の部分でMRIで同定することが出来る(下図 RadioGraphics 2013; 33:47)。

2:動眼神経麻痺

眼位:下向き外転位 “down and out”  * 上斜筋と外直筋が相対的優位になることによる

散瞳:副交感神経線維は動眼神経の最外側を走行します(正確には中枢測から末梢測に移行するにつれて、内側上方~内側下方へ位置を変えていきます)。このため動脈瘤の圧迫では外眼筋麻痺より先に散瞳が生じます。散瞳せず外眼筋麻痺のみを呈する場合を“pupil sparing”と表現し、微小血管障害での動眼神経麻痺に特徴的な所見とされています(虚血は動眼神経の内側が中心に障害されるため)。しかし、これはあくまで原則であり瞳孔障害があるかどうか?だけでは虚血病変か?圧迫病変か?は区別しきれないためあくまで参考所見にするべきです(以下の文献も参照)。

3:動眼神経麻痺の原因

部位からの鑑別
・神経核:微小血管障害(特に糖尿病)
・髄内神経根:Weber syndrome, Benedikt syndrome, Claude syndrome
・くも膜下腔:動脈瘤(IC-PC)、髄膜炎、ヘルニア
・海綿状脈洞:Tolosa-Hunt, 腫瘍、転移、真菌感染症、結核、血管炎
・上眼窩裂

3.1: 動眼神経単独麻痺の場合

原因として多いのは動脈瘤、鈎ヘルニア、微小血管障害です。基本的には緊急で脳動脈瘤の除外をすることから始め、その他の鑑別を考える形になります。

3.2: 他の脳神経障害合併の場合

多発脳神経麻痺の鑑別になります。また海綿状脈洞症候群、上眼窩裂症候群などある一定のパターンでの脳神経障害があるかどうかを確認します。

「動眼神経麻痺に滑車神経麻痺を合併しているか?」は鑑別の上からは非常に重要ですが、診察はとてもむずかしいです。こちらにまとめましたのでご参照ください。

■動眼神経麻痺の原因・疫学調査 JAMA Ophthalmol. 2017;135(1):23-28.

1978年~2014年までのミネソタ州のOlmsted countyで新規に診断された後天性の動眼神経麻痺の原因などを調査した壮大な研究です。原因としては微小血管障害が最多で42%、外傷12%、腫瘍による圧迫11%、脳外科術後10%、動脈瘤による圧迫6%、その他5%(海綿静脈洞のdAVF、帯状疱疹、がん性髄膜炎、偏頭痛、海綿静脈洞血栓症、ウイルス感染後麻痺)、脳卒中4%、原因不明4%、下垂体卒中2%、Tolosa-Hunt症候群2%、側頭動脈炎1%となっています。下図が年代別の原因一覧です。

原因別の臨床情報は以下の通りです。微小血管障害は瞳孔障害が16%で認めるのに対して、圧迫性病変では64%で認めたとされています。この通り「瞳孔障害があるかどうか?」だけでは原因が圧迫性病変か?虚血か?は完全には区別しきれない点に注意が必要です。

管理人記録:2022/6/14 動眼神経の副交感神経線維の位置についてコメントいただいた点を改訂