円錐部、円錐上部、馬尾の臨床像についてはこちらをご参照ください。
脊髄梗塞一般に関してはこちらをご参照ください。
円錐部血管支配の解剖
“Microsurgical anatomy of the arterial basket of the conus medullaris” J Neurosurg Spine 22:672–676, 2015 ★素晴らしく勉強になる剖検16例を含めた円錐部血管の微小解剖に関する文献
・円錐部は血流が比較的豊富⇒円錐部周囲のASAとPSAの間には高度に発達した吻合網(anastomotic ansa “arterial basket”)が存在する つまり円錐部を取り囲むようなネットワークを形成している
・吻合血管は1-2本でASAとPSAをつないでいる、両側性81.3%, 片側性18.7%
・ASAは脊髄円錐に地下ずくにつれて細くなる、吻合血管の長径は約0.5mm

・吻合血管から脊髄円錐部の実質に血流を供給する微細な穿通枝(perforating vessel)が多数存在することが証明された(組織学的検討)
⇒ただの吻合血管ではなく、同部位から円錐部に血流を供給している
・この吻合血管はAVM、AVFなどの血管奇形に関与している
円錐部の梗塞はどのくらいあるのか?
・最も大きなコホート研究では”円錐部に限局した”脊髄梗塞は脊髄梗塞全体の1%(n=1/125)、胸髄病変を含む円錐病変合併は26% “Characteristics of Spontaneous Spinal Cord Infarction and Proposed Diagnostic Criteria” JAMA Neurol. 2019;76(1):56-63.
・26例の検討では12.5% “Study group on spinal cord infarction of the French neurovascular society. Spinal cord infarction: clinical and magnetic resonance imaging findings and short term outcome.” J Neurol Neurosurg Psychiatry 2004;75(10):1431-1435.
臨床像の検討
円錐部に限局した脊髄梗塞19例のまとめ
“Isolated Infarctions of the Conus Medullaris: Clinical Features and Outcomes” Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, Vol. 30, No. 10 (October), 2021: 106055
・ここでも馬尾症候群と似た臨床像と記載
・臨床像:突然発症 疼痛(背部または臀部)79%、運動障害 84%(対麻痺または不全麻痺)
・神経所見:上位運動ニューロン障害 16%(ほとんどが下位運動ニューロン障害⇒これが診断を難しくしていると記載されている 全例でアキレス腱反射は消失、バビンスキー徴候は全例陰性である)、下肢・臀部・会陰部の感覚障害は全例で認めており、膀胱直腸障害も高頻度で認める
・患者背景:血管リスク因子は37%のみ
・原因:53%原因 その他は大動脈疾患、AVM、ECMO合併症など
・機能予後:介助なし歩行可能 82%(脊髄梗塞全体よりも予後良好)
考察部分
・脊髄梗塞におけるDWIの有用性 最短発症から3時間で異常を検出する
| 患者 | 年齢 性別 | 血管リスク | 発症直前 | 疼痛 | 運動障害 | 感覚障害 | 神経因性膀胱 | 肛門括約筋反射 | 原因 | 介助なし歩行 (時期) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 71/F | なし | 特になし | あり | 弛緩性不全対麻痺 | 左L4以下、臀部、会陰 | あり | あり | 不明 | はい (2ヶ月) |
| 2 | 69/F | あり | 特になし | あり | 弛緩性不全対麻痺 | 両側S1以下 (臀部) | あり | あり | 不明 | いいえ (2ヶ月) |
| 3 | 44/F | なし | 特になし | あり | 弛緩性対麻痺 | 両側L4〜S4 | あり | NS | プロトロンビン変異 & ピル内服 | はい (6ヶ月) |
| 4 | 28/M | なし | 特になし | なし | 対麻痺 | 両側L1以下、会陰 | あり | NS | 硬膜AVM | いいえ (術後) |
| 5 | 39/F | なし | 特になし | あり | 痙性不全対麻痺 | 両側S2/3 | NS | あり | 不明 | はい (時期不明) |
| 6 | 59/M | なし | 仕事 (詳細不明) | あり | 不全対麻痺 | 両側S2-S5 | NS | NS | 不明 | はい (時期不明) |
| 7 | 77/F | なし | 特になし | あり | 対麻痺 | 両側L1以下 | NS | NS | 不明 | はい (時期不明) |
| 8 | 79/F | なし | 特になし | あり | 弛緩性対麻痺 | T12以下 | あり | あり | 大動脈アテローム性疾患 | いいえ (時期不明) |
| 9 | 46/F | なし | 腰椎穿刺 (RI脳槽造影) | あり | なし | 会陰および肛門周囲 | あり | あり | 不明 | はい (12ヶ月) |
| 10 | 77/F | あり | 特になし | あり | なし | 両下肢、臀部、会陰 | あり | あり | 不明 | いいえ (2ヶ月) |
| 11 | 48/M | なし | 背部の過伸展 | あり | 弛緩性対麻痺 | 右L3-S2、左T12-S2 | あり | あり | 過伸展損傷 | いいえ (15週) |
| 12 | 67/M | あり | 大動脈ステントグラフト留置 | なし | 弛緩性不全対麻痺 | 両下肢 | NS | NS | Adamkiewicz動脈閉塞 | いいえ (11日) |
| 13 | 51/F | なし | 前屈 | あり | 弛緩性不全対麻痺 | 両側T12以下、性器、会陰 | あり | NS | 不明 | NS |
| 14 | 55/M | あり | 横臥位から起き上がる | あり | 弛緩性不全対麻痺 | 両側L5, S1; サドル領域 | あり | NS | 不明 | はい (39ヶ月) |
| 15 | 34/F | なし | 長時間の座位 | あり | 弛緩性不全対麻痺 | 両側T11以下; サドル領域 | あり | NS | 不明 | はい (51ヶ月) |
| 16 | 56/M | あり | L4/5切除後の排便 | なし | 不全対麻痺 | サドル領域の感覚脱失 | あり | あり | 潜在性AVM | いいえ (時期不明) |
| 17 | 70/F | なし | 特になし | あり | 単麻痺 (右下肢) | 右下肢、L1以下、臀部、会陰 | あり | あり | 腹部大動脈アテローム硬化 | NS |
| 18 | 68/F | あり | 自転車に乗る (10分) | あり | 弛緩性不全対麻痺 | 右下肢、L1以下、臀部、会陰 | NS | なし | 紡錘状AAA (腎動脈下) | いいえ (2ヶ月) |
| 19 | 50/F | あり | VA-ECMO | なし | 弛緩性不全対麻痺 | L4, L5, S1, 会陰 | あり | あり | VA-ECMOの塞栓合併症 | いいえ (1ヶ月) |
2例の電気生理を含めた症例報告
“Clinical, neuroimaging, and nerve conduction characteristics of spontaneous Conus Medullaris infarction” BMC Neurology (2019) 19:328
症例1:55歳男性(血管リスク因子は脂質異常症)ソファに横になって起き上がった瞬間に突然両側臀部痛が生じ、その後下肢脱力と膀胱直腸障害あり
腱反射膝蓋腱減弱、アキレス腱消失
感覚障害:サドル型、L5-S1領域にかけての異常感覚
MRI16時間後にDWI信号変化あり、脊柱起立筋にも梗塞画像指摘あり
電気生理:脛骨神経CMAPamp低下、F波消失
症例2:34歳女性血管リスク因子なし、トイレに座った後に突然の腰痛、7時間かけて両下肢脱力としびれ、3時間後には尿失禁あり
神経所見:アキレス腱反射消失、Saddle領域の感覚障害 馬尾症候群に似ていると記載
MRI:18時間後は異常なし、3日後は病変検出
電気生理:脛骨神経CMAPamp低下、F波消失(当日) 長期的にはS1領域の脱神経所見

臨床的検討
・この文献では馬尾症候群として誤認される可能性があるという記載になっている
・下腿屈筋の筋萎縮、アキレス腱消失が年単位で持続
・脊髄円錐部梗塞は最も頻繁には下部腰髄から第1仙髄領域を巻き込むため、歩行に関する罹患率は他のタイプの脊髄梗塞に関連するものよりも低い
電気生理の検討
・神経伝導検査:脛骨神経CMAP振幅低下、F波消失
・針筋電図:持続的S1領域の脱髄所見
第1仙髄筋節(myotome)における神経伝導の回復不良および非対称なふくらはぎの萎縮は、脊髄円錐部梗塞の特徴的な徴候である可能性が
既報のまとめ
| 研究 | 年齢 性別 | 原因 | 既往 | 予後 | 電気生理所見 |
|---|---|---|---|---|---|
| Konno et al. | 77 / 女性 | 不明 | 不明 | 不明 | 不明 |
| Combarroso et al. | 69 / 女性 | 不明 | 高血圧 | 2ヶ月後に歩行器歩行可能、括約筋機能は正常 | 5日目から9ヶ月目まで腓骨神経F波消失、4週目から12ヶ月目まで前脛骨筋に自発電位あり |
| Alanazy et al. | 48 / 男性 | 過伸展姿勢の可能性 | 不明 | 105日目に歩行器歩行可能 | 4日目に下肢F波消失、56日目に軽度延長 |
| Lamin et al. | 9 / 女性 | 不明 | 不明 | 介助なしで歩行可能 | 不明 |
| Herrick et al. | 不明 | 解離性大動脈瘤からのアテローム塞栓 | 不明 | 不明 | 不明 |
| Anderson et al. | 54 / 男性 | CABG後の心筋梗塞に続く大動脈操作 | 心不全、心筋梗塞 | 部分的回復、7週間後に心筋梗塞で死亡 | 不明 |
| 75 / 男性 | 大動脈瘤手術 | 喫煙 | 16ヶ月後に部分的回復 | 不明 | |
| 66 / 男性 | 腹部大動脈石灰化 | 喫煙 | 2ヶ月後に部分的回復 | 不明 | |
| 51 / 男性 | 不明 | 喫煙 | 28ヶ月後に部分的回復 | 不明 | |
| 47 / 女性 | 不明 | なし | 2年間変化なし(固定) | 不明 | |
| Wildgruber et al. | 44 / 女性 | プロトロンビン変異 | 経口避妊薬使用 | 2週間後に括約筋機能と歩行が部分的回復 | 不明 |
| Mhiri et al. | 28 / 男性 | 硬膜動静脈瘻 | 不明 | 変化なし(固定) | 不明 |
| Diehn et al. | 24 / 男性 | 線維軟骨塞栓の可能性 | 不明 | 変化なし(固定) | 不明 |
| Wong et al. | 79 / 女性 | びまん性大動脈アテローム、CABG後の微小血管障害 | CABG術後、腎不全 | 退院時に部分的回復 | 不明 |
| Andrews et al. | 71 / 女性 | 不明 | なし | 2ヶ月後に介助なしで歩行可能、神経因性膀胱あり | 大殿筋、大腿二頭筋、腓腹筋、前脛骨筋、肛門括約筋における動員(recruitment)低下 |
| Herkes et al. | 53 / 女性 | 不明 | 不明 | 6ヶ月後に介助下で歩行可能 | 不明 |
| 本研究 (症例1) | 55 / 男性 | 長時間の側臥位 | 脂質異常症 | 39ヶ月時点でADL(日常生活動作)は正常、非対称なふくらはぎの萎縮、神経因性膀胱あり | 両側のS1(第1仙髄)支配筋において活動性の脱神経所見が持続 |
| 本研究 (症例2) | 34 / 女性 | トイレでの長時間の座位 | なし | 51ヶ月時点でADLは正常、非対称なふくらはぎの萎縮、神経因性膀胱あり | 両側のS1(第1仙髄)支配筋において活動性の脱神経 |