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impingement症候群

肩疼痛の原因(5つ)

肩関節の問題(関節炎=感染・RA・結晶性,OA,凍結肩):肩関節ROMの全方向性制限,三角筋周囲の疼痛を認めることが多い
・肩関節外の問題(特にimpingement症候群):肩挙上により疼痛悪化する
頸椎症性神経根症:首の運動により疼痛悪化する(Jackson/Spurling test) 僧帽筋周囲に疼痛が多い
腕神経叢障害(2大原因:Neuralgic amyotrophy, 悪性腫瘍の腕神経叢浸潤
・心筋梗塞による放散痛

肩関節Impingement症候群神経根腕神経叢放散痛
疾患炎症性(感染,結晶,RA), OA加齢性,外傷性,PMRなど頸椎症性神経根症神経痛性筋萎縮症 腫瘍浸潤心筋梗塞,横隔膜病変など
疼痛部位三角筋周囲肩周囲後頚部~僧帽筋~肩甲骨周囲肩周囲肩周囲
頸部運動変化なし変化なし後屈,側屈で悪化 Jackson/Spurling testさまざま変化なし
肩運動全方向性可動域制限挙上で疼痛増悪 Painful arc sign Empty can test外転で軽減 Shoulder abduction test肩内旋,肘屈曲で改善 flexion adduction  sign変化なし

肩の解剖再考

肩甲上腕関節(肩関節)とrotator cuff

・股関節と異なり肩甲骨は臼蓋が浅い
・三角筋が上腕骨を引っ張る方向(ベクトル)は頭側(上向き)である
・そのままだと臼蓋の縁が浅いので上腕骨が頭側へ転位して肩甲骨から外れてしまう
・rotator cuffが上腕骨を肩甲骨に引き寄せて安定させることで、三角筋による外転効果を生んでいる
→従来棘上筋が肩関節外転最初の30度を担うとされていたが、そうではなくrotator cuffによる肩甲骨の安定化の影響が大きい

rotator cuff(回旋腱板)=棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋
*小円筋は関与があまりに小さいので忘却してよいと教科書(参考文献)には記載されている
下図N Engl J Med 2024;391:2027-34.より

肩峰下の構造物(3つ)

肩峰下滑液包(障害されやすい、疾患ではリウマチ性多発筋痛症で障害される)
棘上筋(rotator cuffの中で最も障害されやすい)
上腕二頭筋腱長頭(筋力にはほとんど関与しない)

・これらの構造物が肩挙上により肩峰と上腕骨頭の間に挟まれ物理的に圧迫されやすい
・加齢に伴う摩耗により変性する(外傷がなくとも)*教科書には加齢性変化であり白髪と同じ現象と書かれている
・impingement症候群の病態はSpectrumであり、軽症~重症にかけて”滑液包炎→腱板損傷・上腕二頭筋長頭腱炎→断裂”となる

impingement症候群の診察

ポイント:肩関節の挙上で疼痛が誘発される点
→逆に挙上していない状態では疼痛は誘発されない

1:ROM(他動的) 外転(painful arc sign)・屈曲・外旋・内旋
・impingementでは外転・屈曲で疼痛を生じる、特に外転60-120°で疼痛を生じる場合はimpingementを示唆する(painful arc sign)*自動ではなく他動である点に注意
・肘を脇につけた状態での内外旋は挙上していないのでimpingement症候群では疼痛を生じないが、肩甲上腕関節の問題であれば全方向性の問題であるため疼痛を生じる

2:empty can test(自動的) 棘上筋を調べる方法
・被検者:肘伸展位で上肢を90度外転,水平面で30度内転,母指を地面に向けて前方挙上して抵抗する
・検者:被検者の上腕(肘より近位)を地面向きに抑える
疼痛誘発または筋力低下を認める場合は棘上筋障害を示唆する所見である

Impingement症候群の臨床像

上肢挙上による疼痛が最も重要
・手を挙げる動作(頭を洗う、高いところのものをとるなど)が大変、手を後ろに回す動作(シャツやコートを着る動作など)
・夜間悪化して起きることもある(患側を下にすると疼痛悪化)
・上腕骨の中央部に疼痛の放散を認めることもある

参考文献:Practic office Orthopedics English Edition