ここ最近外来をしながら気になっていたテーマです。高齢発症うつ病と診断されていろいろ薬を使われたけれど改善せずむしろ過鎮静になっていき実はレヴィ小体型認知症であったというケースにしばしば遭遇します。つまり、初期像は高齢発症うつ病とそっくりのDLB(dementia with Lewy bodies: レヴィ小体型認知症)があると思います。
DLBの全体像が完成する何年も前からαシヌクレインは蓄積しており、このDLB前駆期=Prodromal DLBが注目されています。以下の論文を中心に調べた内容を少しずつまとめていきます。
“Research criteria for the diagnosis of prodromal dementia with Lewy bodies” Neurology® 2020;94:743-755.
分類
1: MCI
2: delirium-onset
3: psychiatric-onset
Delirium-onset DLB
・せん妄または意識状態の変動はDLBの診断になる前に介護者の43%から指摘がある The pre-dementia stage of dementia with Lewy bodies. Eur J Neurol 2011;18:69.
・過去にせん妄を認めたことはDLB 25% vs AD 7%とDLBの約1/4人はせん妄の訴えがある History of a suspected delirium is more common in dementia with Lewy bodies than Alzheimer’s disease: a retrospective study. Int J Geriatr Psychiatry 2014;29:178–181.
内容 | 説明 |
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DLB患者のせん妄リスク | DLB患者はアルツハイマー病患者よりもせん妄を起こしやすく、認知症発症前に最初の症状としてせん妄を呈することがある。 |
せん妄の誘因 | 手術、感染症/敗血症、発熱、その他の全身疾患、薬物・アルコールの使用や急激な中止など多様な因子で誘発される可能性がある。 |
DLBの早期診断を疑うべきケース | ・明確な誘因が見当たらない場合 ・せん妄が長引く、または再発を繰り返す場合 ・その後に進行性認知機能低下や認知症を発症した場合 |
DLBの核心的特徴の診断的限界 | ・意識の変動や混濁はDLB以外のせん妄でも見られ、診断特異性に欠ける ・視覚的幻覚も薬剤誘発やアルコール離脱で非DLB性せん妄に出現することがある ・パーキンソニズムはせん妄治療に使われる抗精神病薬の影響による可能性がある ・せん妄患者におけるRBDの診断的意義は確立されていない |
DLB発症型せん妄の診断支援 | ・MCI-LBバイオマーカーの使用が診断補助となる可能性があるが、さらなる研究が必要 ・抗精神病薬や抗コリン薬の使用を避ける・最小限にするなど、管理計画に関する情報提供が重要 |
Psychiatric-onset DLB
・現時点ではまだ高齢発症のうつ病と初期段階でどう区別できるか?はわかっていないが、高齢発症の精神病がDLBの初期像の可能性があることに注意する必要がある
・特に薬剤過敏性から抗精神病薬が効かない、過鎮静になる場合などは注意するべきである
・精神症状の症候学的にDLBとその他(高齢発症精神病など)を区別することは困難 ”The neuropsychological profile and phenomenology of late onset psychosis: a crosssectional study on the differential diagnosis of very-late-onset Schizophrenia-like psychosis, dementia with Lewy bodies and Alzheimer’s type dementia with psychosis.” Arch Clin Neuropsychol 2019;34:183–199.
内容 | 説明 |
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精神症状主体の特徴 | 高齢発症の大うつ病性障害または高齢発症の精神病に対応する精神症状が主体で、幻視などの幻覚やカプグラ症候群などの体系化された妄想を呈することがある。 |
その他の臨床所見 | ・無気力、不安、抑うつを伴うことがある ・症状が重度で入院が必要になることがある ・高齢発症精神疾患の原因としてのLB疾患の頻度は不明 |
精神症状主体の患者におけるDLBの核心的特徴の評価時の注意点 | ・動作緩慢は、うつ病でよく見られる精神運動抑制によって模倣される可能性がある ・パーキンソニズムは精神疾患治療用の抗精神病薬によって誘発される可能性がある ・RBDは抗うつ薬によって誘発される可能性がある ・軽度の認知障害がみられることもあるが、主症状ではなく変動する可能性がある ・神経心理検査は精神症状によって評価が困難な場合がある ・認知機能の変動頻度や特徴は不明 |
精神症状発症型DLBの診断支援 | ・MCI-LBバイオマーカーの使用が診断補助となる可能性があるが、さらなる研究が必要 ・抗精神病薬や抗コリン薬の使用を避ける ・最小限にするなど、管理計画に関する情報提供が重要 |
“The clinical phenotype of psychiatric‐onset prodromal dementia with Lewy bodies: a scoping review” Journal of Neurology (2024) 271:606–617
精神症状発症のDLBについてのまとめ
・52例、女性63%、年齢平均63歳、うつ症状が最多(88%)
・発症時に精神病症状は11%しかし前駆期全体を通じて83%
・精神症状を繰り返すことは94%で認める
・DLB診断まで平均8年(1-19年)
・一般的にDLBは男性が多いが、今回の前駆症状で精神症状を呈する患者は女性が多かった
・高齢の新規発症精神症状では、DLBを示唆するその他の症状(パーキンソニズム、RBD、起立性低血圧、便秘、嗅覚障害)を検索すべき
・感情症状から精神病症状へ移行する場合もDLBの可能性に注意すべき