脳梗塞の患者さんを受け持っていきなり困るのが「先生この患者さんの安静度どうしましょう?」という点です。ここはエビデンスがあまりない分野だけにいろんなoriginalな解釈がされている領域ですが、まずは臨床試験の結果・ガイドラインの推奨とすすんで最後に個人的なアプローチ方法を提示したいと思います。
病態生理
CPP=MAP-ICP
*CPP=cerebral perfusion pressure 脳還流圧
*MAP=mean arterial pressure 平均動脈圧
*ICP=intracranial pressure 頭蓋内圧

頭蓋内圧上昇へのアプローチに関してはこちらをご参照ください。
頭位挙上の影響は?
急性脳損傷患者に対して
“The Effects of Head Elevation on Intracranial Pressure, Cerebral Perfusion Pressure, and Cerebral Oxygenation Among Patients with Acute Brain Injury: A Systematic Review and Meta-Analysis” Neurocrit Care 2024. 41:950–962
頭位30°挙上と頭位0°の比較
・MAP:低下– 7.30 mmHg p < 0.00001
・ICP:低下-5.58 mmHg P<0.00001 *30°と45°でICPへの影響に差は認めなかった
・CPP:差なし -2.48 mmHg p = 0.13 *有意差なし
・脳酸素化パラメータ(頸静脈球酸素飽和度 [SjvO2]、脳組織酸素分圧 [PbtO2]、動静脈酸素較差 [AVDO2])への影響:差なし
*差については言及があるが、絶対値の平均に関して言及がない
*虚血性脳卒中の患者のみを対象とした研究は1つのみ(次に紹介するn=18の研究)このため全体(n=425)の中では一部である
脳梗塞患者での頭位とICP、CPPの検討
“Effects of Body Position on Intracranial Pressure and Cerebral Perfusion in Patients With Large
Hemispheric Stroke” Stroke. 2002;33:497-501.
・MCA領域の広範囲脳梗塞(挿管人工呼吸管理)18例でモニタリング、0°仰臥位→15°→30°→0°と体位を変更して測定
・ICP≧20mmHgまたは瞳孔異常を呈する患者は除外
・CPP:0°が最も高い結果(ICPも0°が最も高い)
| 指標 | 体位 | 平均値 ± 標準誤差 (mmHg) [i] | P値 [i] |
| 頭蓋内圧(ICP) | 0° (ベースライン) | 13.0 ± 0.9 | <0.0001 |
| 15° | 12.0 ± 0.9 | ||
| 30° | 11.4 ± 0.9 | ||
| 脳灌流圧(CPP) | 0° (ベースライン) | 77.0 ± 1.8 | <0.0001 |
| 15° | 70.0 ± 1.8 | ||
| 30° | 64.7 ± 1.7 |

頭位と虚血部位の脳血流の関係
“Heads down Flat positioning improves blood flow velocity in acute ischemic stroke” NEUROLOGY 2005;64:1354 –1357
・方法:発症から24時間以内の急性期脳梗塞20名(平均年齢60±15歳、NIHSS中央値14点、前方循環)で、経頭蓋ドップラー(TCD)で検出可能な残存血流信号を伴う動脈閉塞
・結果:MCAの平均血流速度MFVは頭部挙上を30°から0°に下げると20%増加、平均動脈圧と心拍数は変化なし、3人の患者(15%)で頭部位置を低くした後即時の神経学的改善(NIHSS運動項目で平均3点の改善)を認めた
・結論:頭部挙上の低い位置(0°〜15°)が虚血性脳組織への残存血流を促進する可能性がある
・limitation:CBFを測定している訳ではなく、代替としてMFVを測定している
臨床試験
安静度
“HeadPost” NEJM 2017;376:2437
・脳梗塞急性期の安静度は長年慣習的に行われていた分野であり、病院ごとのローカルルールが数多く存在するのではないかと推察します。
・この分野に初めて前向き研究が登場したのが2017年NEJMの”HeadPost”で以下にまとめます。

サブグループ解析の結果(下図)

結果まとめ
・primary outcomeの90日後機能予後に関して有意差なし、またsafetyoutcomeの肺炎合併に関しても有意差なし
・サブグループ解析では病型や重症度(NIHSS)による差も指摘できず
*参考:管理人の個人的な意見とつぶやき
・個人的にはここまで雑多に全てをまぜこんでしまうと有意差はでないのではないかなと正直思いました(もちろんサブグループ解析はあるのですが)。
・臨床的におそらく最も知りたいのは「アテローム血栓性やBADなどの明らかに体位変換により悪化することがある症例でどうすべきか?」という点なので、この点に関しては正直この臨床試験の結果だけからは何ともいえないと考えます。ぜひこれらの病型に絞ったかたちでの臨床試験が今後でてくれることに期待です。
・またNIHSS=4点と軽症例が多く、そもそも恩恵を受けづらいのではないか?という懸念があることと、開始が14時間遅れているので最も恩恵を受ける時間帯を逃しているのではないか?などの疑問があります。
・この臨床試験の結果をどのように臨床に応用するか?という点ですが、すごく大雑把に解釈すると「軽症の脳梗塞において頭位0°にすることのメリットは証明できなかった」と表現できるかもしれません。
“ZODIAC trial” JAMA Neurol. doi:10.1001/jamaneurol.2025.2253
Design:RCT 盲検化PROBEデザイン(患者:非盲検、NIHSS評価者:盲検)
Patient:発症から治療または検査開始まで6時間以内(途中で24時間以内へ変更)でASPECTS≧6点のLVO(large vessel occlusion)で機械的血栓回収療法を待機する患者(18歳以上、もともとのmRS=0-1点) n=92
exclusion criteria:挿管人工呼吸管理、嘔吐あり(誤嚥リスクが高い)、後方循環、rt-PA投与後15分以上経過した患者、肺炎などで仰臥位保持が困難な場合
患者背景まとめ
| 特性 | 0°頭部位置群 (n=45) | 30°頭部位置群 (n=47) | 全体 (N=92) |
| 年齢、平均 (SD)、歳 | 65.27 (14.02) | 67.79 (14.85) | 66.55 (14.43) |
| 研究チームが最初に遭遇した際の頭部位置、人数 (%) | |||
| 0° | 11 (24.44) | 10 (21.28) | 21 (22.83) |
| 30° | 34 (75.56) | 37 (78.72) | 71 (77.17) |
| 既往歴、人数 (%) | |||
| 収縮期血圧 (SBP)、平均 (SD)、mmHg | 149.53 (30.25) | 157.94 (26.06) | 153.83 (28.35) |
| 拡張期血圧 (DBP)、平均 (SD)、mmHg | 85.27 (16.60) | 89.13 (16.01) | 87.24 (16.33) |
| NIHSSスコア(ベースライン時)、中央値 (IQR) | 10 (8-15.0) | 10 (6-15.5) | 10 (7-15.25) |
| ASPECTS、中央値 (IQR) | 8 (6-8) | 8 (7-8) | 8 (7-8) |
| 脳卒中前のmRS、人数 (%) | |||
| 0 | 34 (75.56) | 35 (74.47) | 69 (75.00) |
| 1 | 10 (22.22) | 11 (23.40) | 21 (22.82) |
| 2 | 1 (2.22) | 0 | 1 (1.09) |
| 3 | 0 | 1 (2.13) | 1 (1.09) |
| 閉塞部位、人数 (%) | |||
| 右 | 28 (62.22) | 21 (44.68) | 49 (53.26) |
| 左 | 16 (35.56) | 23 (48.93) | 39 (42.39) |
| 椎骨脳底動脈 | 1 (2.22) | 2 (4.26) | 3 (3.26) |
| 両側半球 | 0 | 1 (2.13) | 1 (1.09) |
| 脳卒中血管領域、人数 (%) | |||
| 中大脳動脈 | 37 (82.22) | 37 (78.72) | 74 (80.43) |
| 内頸動脈 | 6 (13.34) | 7 (14.89) | 13 (14.14) |
| 前大脳動脈 | 0 | 0 | 0 |
| 脳底動脈 | 1 (2.22) | 2 (4.26) | 3 (3.26) |
| 多領域 | 1 (2.22) | 1 (2.13) | 2 (2.17) |
| 全身血栓溶解療法、人数 (%) | |||
| アルテプラーゼ | 22 (48.89) | 22 (46.80) | 44 (47.83) |
| テネクテプラーゼ | 1 (2.22) | 2 (4.26) | 3 (3.26) |
| いずれかの全身血栓溶解剤 | 23 (51.11) | 24 (51.06) | 47 (51.09) |
| 無作為化後に頭部位置が中断した患者、人数 (%) | 1 (2.22) | 0 | 1 (1.09) |
| 脳卒中メカニズム、人数 (%) | |||
| 大動脈アテローム動脈硬化症 | 13 (28.90) | 7 (14.89) | 20 (21.74) |
| 心原性脳塞栓症 | 24 (53.33) | 28 (59.57) | 52 (56.52) |
| 稀な病因の脳卒中 | 2 (4.44) | 2 (4.26) | 4 (4.35) |
| 潜在性脳卒中 | 6 (13.33) | 9 (19.15) | 15 (16.30) |
| 不明 | 0 | 1 (2.13) | 1 (1.09) |
| 脳卒中発症から来院までの時間、平均 (SD)、分 | 161.61 (179.82) | 71.35 (76.07) | 119.85 (147.76) |
| 脳卒中発症から登録[同意]までの時間、平均 (SD)、分 | 221.27 (175.46) | 124.57 (85.67) | 174.26 (146.61) |
| 脳卒中発症から登録[同意]までの時間(血栓溶解療法を受けた患者のみ)、平均 (SD)、分 | 143.30 (84.23) | 96.30 (45.99) | 119.80 (71.19) |
| 脳卒中発症から介入位置までの時間、平均 (SD)、分 | 227.16 (210.08) | 125.09 (82.36) | 177.54 (168.13) |
| 来院から介入位置までの時間、平均 (SD)、分 | 41.66 (24.60) | 47.66 (24.45) | 44.66 (24.57) |
| 脳卒中発症から血栓除去術までの時間、平均 (SD)、時間 | 4.47 (3.55) | 2.67 (1.37) | 3.59 (2.83) |
I:血栓回収療法まで頭位0°維持
C:血栓回収療法まで頭位30°維持
O: primary outcome 血栓回収療法前のNIHSS 2 点以上の悪化
| 評価項目 | 0°頭部位置群 (n=45) | 30°頭部位置群 (n=47) | ハザード比 (HR)/オッズ比 (OR) (95%信頼区間) | P値 |
| 対象患者数(無作為化) | 45人 | 47人 | NA | NA |
| 主要評価項目 | ||||
| 血栓除去術前の神経学的悪化(NIHSS 2点以上悪化) | 1人 (1230人時) | 26人 (850人時) | HR: 34.40 (4.65-254.37) | <.001 |
| 安全性評価項目 | ||||
| 血栓除去術前の重度の神経学的悪化(NIHSS 4点以上悪化) | 1人 (1230人時) | 20人 (940人時) | HR: 23.57 (3.16-175.99) | .002 |
| 院内肺炎(HAP) | 0人 | 0人 | NA | NA |
| 退院時/7日目の死亡 | 1/45人 (2.22%) | 1/47人 (2.13%) | OR: 0.96 (0.05-15.78) | .98 |
| 90日時点の全死因死亡 | 2/45人 (4.44%) | 10/46人 (21.74%) | HR: 5.81 (1.20-28.22) | .03 |
| 退院後の脳卒中 | 1/45人 (2.22%) | 0人 | NA | .49 |
| 症候性脳内出血 | 0人 | 1/47人 (2.13%) | NA | >.99 |
| 探索的評価項目 | ||||
| 24時間後のNIHSS改善 | 39/45人 (86.67%) | 28/47人 (59.57%) | OR: 0.24 (0.08-0.68) | .01 |
| 退院時/7日目のNIHSS改善 | 39/45人 (86.67%) | 31/47人 (65.96%) | OR: 0.32 (0.11-0.92) | .03 |
| 90日時点のmRS 0-1 | 24/45人 (53.33%) | 21/46人 (45.65%) | OR: 0.74 (0.32-1.68) | .46 |
| 90日時点のmRS 0-2 | 31/45人 (68.89%) | 26/46人 (56.52%) | OR: 0.59 (0.25-1.39) | .22 |
まとめ:血栓回収療法を行うLVO患者において、血栓回収療法をするまでの期間に30°頭部位置群と比較して、0°頭部位置群では神経学的悪化の発生率が著しく低く、90日時点での全死因死亡率も低いことが示されました。また、肺炎のリスク増加も認められませんでした。
リハビリテーション
“AVERT” Lancet 2015; 386: 46
・早期からリハビリテーション介入をすることが重要なのは論を待たないところですが、具体的にどのくらい急性期からどのくらいの強度で開始してよいのか?という点に関してはまだ分からなかった点にこたえる目的です。

サブグループ解析(下図)

結果
・超急性期積極的介入群の方が有意に90日後の機能予後良好が少ない結果
*参考:個人的な意見・つぶやき
・両群でリハビリテーション開始時期の差が4時間しかない点やComparisonの”usual “群では具体的にどのような強度でリハビリテーション介入しているのかが不明確である点など分かりにくい点が多くありこれらの点から不完全といえます。
・とはいえリハビリテーションを全て画一的に行いRCTを行うのはかなり大変なことであり(やはり患者の状態に合わせてリハビリテーションの内容は異なるため)、ある程度仕方がない点も十分にあると思います。
・またここもやはり病型ごとの違いが気になるところで、脳出血と一緒になっていることと、増悪リスクが高いBADやアテローム血栓性でどうなるのか?は気になります。また「具体的にいつからリハビリ介入をするのが望ましいか?」という疑問には答えていない点に注意が必要です。
・ただ24時間以内の超急性期に積極的介入をする意義には現状は乏しいと言わざるをえないと思います。
ガイドライン
AHA/ASA “Guidelines for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke: 2019 Update to the 2018 Guidelines for the Early Management of Acute Ischemic Stroke” Stroke. 2019;50:e344–e418
4.2 Head Positioning
1. The benefit of flat-head positioning early after hospitalization for stroke is uncertain. COR Ⅱb LOE B-R
4.12. Rehabilitation
1. It is recommended that early rehabilitation for hospitalized stroke patients be provided in environments with organized, interprofessional stroke care. COR Ⅰ LOE A
6: High-dose, very early mobilization within 24 hours of stroke onset should not be performed because it can reduce the odds of a favorable outcome at 3 months. COR Ⅲ:Harm LOE B-R
脳卒中治療ガイドライン2021(日本)
2-1:全身管理(6)体位など
- 分泌物による気道閉塞や誤嚥の危険性がある場合あるいは頭蓋内圧亢進がある場合は, 15~30度の頭部挙上を考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル中)
- 脳卒中入院後急性期に一律に頭部を水平位に保つことの有効性は確立していない(推奨度C エビデンスレベル中)
- 症状が安定している軽症脳梗塞で頭蓋内血管に狭窄の無い場合には, 発症翌日より座位をとることを考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル低)
2-4:リハビリテーション(3)急性期リハビリテーションの進め方
- 十分なリスク管理のもとに、早期座位・立位・装具を用いた早期歩行訓練、摂食・嚥下訓練、セルフケア訓練などを含んだ積極的なリハビリテーションを、発症後できるだけ早期から行うことが勧められる(推奨度A エビデンスレベル中)
- 脳卒中急性期リハビリテーションは、血圧、脈拍、呼吸、経皮的動脈血酸素飽和度、意識、体温などのバイタル徴候に配慮して行うよう勧められる(推奨度A エビデンスレベル中)
- 早期離床を行う上では、病型ごとに注意すべき病態を考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル中)
では実際にどうするか?(個人の考え)
・上述のHeadPostをどこまで拡大解釈して良いかは難しいところですが、臥床制限を推奨する根拠には乏しいという点はガイドラインでも共通認識と思います。
・おそらく国内の多くの医療機関では安静度をがちがちに制限しすぎなのではないかと思いますので(私が今まで聞いた限りの話で強縮ですが)、その認識を改めるという意味では個人的には意義が大きい臨床試験なのではないかと考えます。
・特にラクナ梗塞や心原性塞栓症は上記病態機序からも急性期から臥床制限する必要性は低いと考えます。
・ガイドラインでは病型の違いによるアプローチの違いに関して言及していませんが、実臨床ではアテローム血栓性やBAD症例で急性期にすぐ立位などをとると明らかにその瞬間に症状が悪化する症例があることは経験から明白です。これは病態生理からは頸動脈狭窄などがあると多少血圧が低下するだけで還流圧が低下してしまうことや、penumbraはauroregulationが破綻しており体血圧依存性に血流が変化してしまう(下図)ことなどが病態として考えられます。

・なのでやはりこれらの体位変換により症状増悪のリスクが高い病型に関してはまだ慎重な姿勢をとらざるを得ないと個人的には考えます。
・またリハビリテーションに関しては早期からリハビリテーション介入することが重要なのは確実ですが、24時間以内の超急性期介入のメリットは証明されておらず、「具体的にいつからどの程度の強度で介入するべきか?」という疑問に答えてくれる臨床試験はないためこの点に現時点でこだわる必要はないと考えます。
・これらを総合して個人的には以下のように考えています。
- 主幹動脈に狭窄を有するアテローム血栓性・BAD症例:安静度は慎重にあげる
例:まず頭部挙上で問題ないか?→座位・車いす移動→対面立位可→立位歩行訓練
*24時間以内は立位はとらない・24時間以降に症状が安定している場合は徐々に対面立位から
2. ラクナ梗塞・症状進行なし:初日から制限なし・早期からリハビリテーション介入開始
3. 心原性塞栓症:初日から制限なし(脳浮腫合併症例では注意)・早期からリハビリテーション介入開始
繰り返しですがここは決まりはまだなく、施設ごとに色々な考え方があると思います。