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頚動脈狭窄 carotid stenosis

頸動脈での動脈硬化は特に内頚動脈と外頚動脈の分岐部に起こりやすく、以下2つの機序によりTIA・脳梗塞の原因となります。前方循環の脳梗塞・TIA患者さんでは必ず原因として想起するべき病態(原因の10-20%を占めるとされている)です。
機序1:A to A emboli
機序2:血行力学的な機序 *分水嶺領域の脳梗塞に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。

解剖・身体所見

椎体高位C4, 甲状軟骨の上縁部周囲に総頚動脈から内頚動脈/外頚動脈の分岐部が存在します。胸鎖乳突筋の内側裏を走行して耳の方向へ走っていくイメージです。総頚動脈と内頚静脈が伴走します(総頸静脈ではない点に注意)。思っているよりも上方(下顎のすぐ後ろの部分)に内頚/外頚動脈の分岐部がある点に注意が必要です(結構研修医の先生方を指導しているとかなり下の部分に聴診器を当てている場合が多い印象があります。下図の解剖参照:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E9%A0%B8%E5%8B%95%E8%84%88より引用)。頸動脈雑音を聴取する際には聴診器の「ベル型」を当てます
・頚動脈雑音の軽度なものは呼吸音にかき消されてしまうため、呼吸を少し患者さんに止めてもらう協力を得た方が上手くいきやすいです。
・臨床的に有意な内頚動脈狭窄を認めない場合も45-80歳の5%に血管雑音を聴取するとされており、これだけをもって特異的とはいかないですが重要な身体所見です。

頸動脈エコー検査

頸動脈狭窄の最も簡便かつ低侵襲な検査として地位を確立しているのが「頸動脈エコー」検査です。リニアプローベで誰でも簡単に当てることが出来ますので、簡単にポイントを記載します。

■患者さんの姿勢
・「顎」は少し上げる
・「顔」は少し反対側を向く

■表示の仕方
・短軸:見たままの配置(左右)になるように
・長軸:右、左どちらが頭側になるかは決まっていない
*頚動脈分岐部は前方approachよりも「側方approach」が良い
*頸部に対して垂直ではなく、「血管」に対して垂直にapproachするように心がける(乳突洞の近くまで到達したら覗き込むようにプローベをかたむけるのは良くない)

■内径動脈と外径動脈を区別する方法
1:内径動脈 
動脈径が大きい・外側後方へ走行・分枝血管がない
2:外径動脈 内側前方へ走行・分岐がある

狭窄度の評価

NASCET法(North American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial):最も標準的な測定方法で治療方針の決定に使用します。内頚動脈の基準(下図:Yに該当)を狭窄よりも遠位部で測定することがポイントです。

PSV(peak systolic velocity):200cm/s以上は狭窄率50%以上を示唆するとされています。

*プラークの性状評価にはMRI/MRAのBB法(black-blood法)を利用する場合もあります。
・脂肪抑制のT1, T2で撮像し、いずれかが高信号の場合は不安定プラークを示唆します(T1, T2いずれも低信号の場合は安定プラーク)。

治療

■外科的介入:CEA・CAS

脳梗塞/TIAと同側・NASCET 70%以上の狭窄病変:脳梗塞/TIA発症から2週間以内のCEAを推奨(50-69%狭窄は考慮)
*狭窄度50%未満は利益はなく外科的介入は推奨されない

*無症候性の頚動脈狭窄に対する外科的介入の推奨はない
*時期に関しても発症2週間以内の早期手術介入が最も効果が高いとされている

以下「脳卒中ガイドライン2021」より引用
「症候性頸動脈高度狭窄(70-99%狭窄、NASCET法)では、抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて、手術および周術期管理に熟達した術者と施設において頸動脈内膜剝離術(CEA)を行うことが勧められる(推奨度A エビデンスレベル高)。狭窄末梢が虚脱した高度狭窄(near occlusion)には、CEAを行うことを考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル中)。」 
「症候性頸動脈中等度狭窄では、抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて、手術および周術期管理に熟達した術者と施設においてCEAを行うことが妥当である(推奨度B エビデンスレベル高)。」
「症候性頸動脈狭窄に対して症状発症後早期にCEAを行うことは妥当である(推奨度B エビデンスレベル中)。」

CASを推奨する状況(CEAよりも):CEAの周術期危険因子が該当する場合
*周術期リスク
:心臓疾患・重篤な呼吸器疾患・対側頸動脈閉塞・対側喉頭神経麻痺・頸部直達手術もしくは頸部放射線治療の既往・CEA再狭窄例

以下「脳卒中ガイドライン2021」より引用
「症候性内頚動脈高度狭窄では、頸動脈内膜剝離術(CEA)の危険因子(上記)を持つ症例に対して、抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて、手術および周術期管理に熟達した術者と施設において頸動脈ステント留置術(CAS)を行うことは妥当である(推奨度B エビデンスレベル中)。」 
「症候性内頚動脈高度狭窄では、CEAの危険因子を持たない症例に対して、抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて、手術および周術期管理に熟達した術者と施設においてCASを行うことを考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル中)。」

■内科治療:外科的治療の適応有無に関わらず最大限行うことが重要

1:抗血小板薬
2:脂質管理:特にスタチン
3:血圧管理
4:禁煙

繰り返しですが例え外科的介入(CEA/CAS)を行うとしても最大限の内科治療を行うことが極めて重要です。

頚動脈狭窄の治療は非専門医の先生方からよく質問・相談をいただきますが少しややこしい点も多いので、最後に治療のポイントをまとめます。

1:外科的治療適応の有無に関わらず最大限の内科的治療(抗血小板薬・スタチン・血圧管理・禁煙)を行う
2:「症候性か?」「無症候性か?」がまず外科的治療適応の大きな分かれ目となる
*症候性と判断するためには内頚動脈の血管還流の解剖知識が必要
*無症候性は基本的に外科的治療の適応はない
3:「症候性」の場合はNASCET法での狭窄度に応じて外科的治療の判断(70%以上>50-69%)
*50%未満の狭窄は外科的治療によるメリットないことが証明されている
4:周術期リスクと対側血流などを総合してCEAもしくはCASの適応判断
*基本的にCEA推奨だが、施設ごとの適応判断の要素も大きい

参考文献
・N Engl J Med 2013;369:1143-50. よくまとまったreviewでさすがNEJMです。