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梅毒 Syphilis

病原体:Treponema pallidum(スピロヘータ)
感染経路:性行為感染(1,2期梅毒、早期潜伏梅毒)もしくは母子感染

臨床像

・第1期梅毒:無痛性の陰部潰瘍(硬性下疳)が有名(感染後平均3週間後に出現)。無治療でも消失する。初期は非トレポネーマ検査が陰性の場合もあり注意が必要(時間をあけてフォロー)。
・第2期梅毒:臨床像が極めて多彩で疑わないと診断することができない(起炎菌自体の病原性よりも免疫応答自体による臨床像が主体とされている)。特に皮疹が重要であり、手掌・足底に皮疹を認めた場合は必ず梅毒を確認する。「皮疹+全身リンパ節腫脹」は梅毒を疑う。
神経梅毒はどの時期にも生じるため注意が必要。

検査・診断

・培養検査ができないため血清検査を利用する。それぞれの検査特性は記載の通り。疑う場合はSTS法とTP法を同時に提出しても良い。
・梅毒患者は全例HIV検査実施を奨める。

*生物学的偽陽性の原因:感染性心内膜炎、HIVなど感染症、全身性エリテマトーデスなどの膠原病、妊娠、悪性腫瘍など

■神経梅毒に関して(どの期でもありうる)
1:いつ髄液検査をするか?
・神経所見/眼所見がある場合:全例必要
・神経所見/眼所見がない場合:HIV陽性例、血清RPR32倍以上、梅毒の治療抵抗例などで髄液検査実施検討
2:髄液検査の解釈
・髄液RPR(+):神経梅毒診断
・髄液RPR(-)+髄液細胞数上昇(>5/μL) or 蛋白上昇(>45mg/dL):神経梅毒診断
・髄液RPR(-)+髄液細胞数/蛋白正常+髄液FTA-ABS(-):神経所見が無い場合は神経梅毒除外、神経所見がある場合は神経梅毒除外出来ない(他疾患との鑑別で判断)
*日本では海外で診断のゴールドスタンダードである髄液VDRLが検査できず、髄液PRPで代用。
*髄液FTA-ABSは感度が高いが特異度は低い。陰性であれば神経梅毒の可能性を下げるが完全に除外は出来ない。
*神経梅毒の判断は髄液VDRLが使用できない日本では個々の判断となり自施設の感染症医、神経内科医にコンサルテーションするべき(上記は筆者の例)。

神経梅毒に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。

治療

*梅毒の治療方法は日本は海外で第一選択のベンザシンペニシリン筋注が現時点では使用できないため、代替的な治療法となっており、治療方法に関して感染症専門医と相談出来る場合は相談した方が望ましい。
■抗菌薬選択(神経梅毒以外):経口ペニシリン(アモキシシリン)による代用もしくはドキシサイクリン(第2選択として確立)
*アモキシシリンは非HIV患者にはevidence確立なし(HIV患者さんには日本からのアモキシシリン高容量投与の報告あり:Clinical Infectious Diseases 2015;61(2):177 – 83)
*本来はベンザシンペニシリン筋注が海外ではGold standardであるが、日本では使用できないため(近日認可される方向)

治療期間:早期梅毒(第1期、第2期、早期潜伏梅毒)14日間、後期梅毒(後期潜伏、第3期梅毒)28日間(この治療期間は MMWR Recomm Rep 2021;70:1-187 の記載されているもので、日本のガイドラインではより長い期間の推奨)

処方例
(処方例1)ドキシサイクリン100mg 1日2回内服( MMWR Recomm Rep 2021;70:1-187 ベンザシンペニシリン筋注が使用できない場合の第2選択として)
(処方例2) アモキシシリン500mg 1日3回 + プロベネシド(商品名:ベネシッド)250mg 1日3回内服(梅毒診療ガイド2018 http://jssti.umin.jp/pdf/syphilis-medical_guide.pdf)
(処方例3)アモキシシリン1000mg 1日3回 + プロベネシド(商品名:ベネシッド)250mg 1日3回内服 *上記論文での使用法( Clinical Infectious Diseases 2015;61(2):177 – 83 )

■神経梅毒の場合:ペニシリンG点滴静注 10-14日間
(処方例)ペニシリンG点滴静注 400万単位 4時間おき点滴静注

Jarisch-Herxheimer反応:梅毒治療後初回投与24時間以内に発熱、筋肉痛などの全身症状を生じるため注意(ペニシリンアレルギーと混合しないように注意が必要)。

感染対策:標準予防策で問題なし

検査においても治療においても日本は海外の標準的検査、治療が行えない現状のためややこしい現状となっています(文献によって相当書いてある内容が異なります・・・)。このため上記の内容が全てではないですが、日常臨床で困ることが多い内容のため一度改めて整理しまとめました。私の尊敬する感染症科の先生にもご意見を伺いお忙しい中本当にありがとうございました(私の勉強不足もありすべてを反映しきれておらず申し訳ございません)。もしご意見などございましたらご指摘いただけますと幸いです。

参考文献
・JAMA 2003;290:1510 梅毒に関するreview
・MMWR Recomm Rep 2021;70:1-187 STDに関するガイドライン
・Medicina 2019 Vol.56 No.12 2015「梅毒血清反応検査」著:本郷偉元先生