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CJD: Creutzfeldt-Jakob disease クロイツフェルト・ヤコブ病

本来正常に存在するプリオン蛋白(PrPc)が感染性を有する異常プリオン蛋白(PrPsc)に変換し中枢神経系に蓄積して神経機能を障害する疾患です。

分類/疫学

■分類
1:孤発性プリオン病 76.6% 孤発性CJD
・古典型:MM1(最多),MV1
・失調型:VV2,MV2
・視床型:致死性孤発性不眠症(FSI)、MM2視床型
・大脳皮質型:MM2皮質型(進行性認知症)、VV1
2:遺伝性(家族性)プリオン病 20.4%
・遺伝性(家族性)CJD 日本:V180I(最多)>P102L-129M>E200K>M232R>P105L
・Gerstman-Sträussler-Scheinker病 (GSS)
・致死性家族性不眠症 (fatal familial insomnia: FFI)
・その他
3:感染性 3.0%
・ クールー病
・医原性CJD
・変異型CJD(variant: vCJD)

■疫学
・sCJD発症年齢の中央値は67.9歳、50-75歳に多いとされますが、報告では14歳~86歳まで報告があるようです(5類感染症に指定)。

臨床像

急性進行性認知症(RPD: rapidly progressive dementia)が特徴です(こちらのまとめをご参照ください)。
・経過で錐体外路、錐体路徴候、皮質盲、幻覚、睡眠障害、失調、失行、ミオクローヌスなどさまざまな臨床像を呈し、最終的に平均3-6か月で無言性無動”akinetic mutism”を呈して、死亡に至る進行性の病態です(下図Pract Neurol 2017;17:113–121.より引用)。ミオクローヌスや無言性無動が臨床像として有名ですが、これはあくまで最終像であり初期は非特異的な臨床像を呈することが多いため注意が必要です。
・発症から死亡までの中央値は6か月とされており、1年以上生存は14%、2年以上生存は5%とされています。

髄液検査

・細胞数は正常範囲内、蛋白も60mg/dLまでのことが通常です(細胞数上昇や蛋白上昇を認める場合は他の疾患を考慮する)。
14-3-3蛋白、総tau蛋白の上昇が有名ですが、これはCJDに特異的な所見ではない点に注意です(これらが上昇しているとCJDの診断名に飛びついてしまい誤診してしまうことも。個人的には痛い経験があります)。
14-3-3蛋白:RPD(rapidly progressive dementia)においてCJDの診断にどの程度寄与するかどうか→感度 92%, 特異度 80% LR+ 4.7 LR- 0.10(Neurology 2012; 79: 1499)。*またMV2は感度60%、MM2は感度70%とも報告されており臨床タイプにより異なります。
RT-QUIC法(real time qucking-induced conversion):近年注目されているバイオマーカーとして最も重要で、異常プリオン蛋白に対してより特異度の高い方法です。(長崎大学さんに普段測定を依頼させていただいております)。 臨床神経 2013;53:1252-1254

*サーベイランス調査と蛋白検査などは長崎大学さんに依頼させていただくことが多いです:

http://www2.am.nagasaki-u.ac.jp/prion-cjd/prion/。

脳波

・PDsが典型的な所見ですが、早期には認めない場合も多くあり、フォローしていくことで典型的な所見を得ることができます(感度64%、特異度91%と報告:Ann Neurol 2004; 56: 702–08.)。またMV2, VV2, MM2などでは感度が低いとされています。異常検出に関しては頭部MRI検査のDWIの方が脳波検査よりも感度が高いとされています。

画像検査

DWIでの信号変化がFLAIRよりも明瞭(FLAIRの方が明瞭な場合は他疾患を考慮する!)
・基底核の信号変化:尾状核>被殻前部>被殻後部 *淡蒼球は保たれる *内包前脚は保たれる


・皮質:前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉、島部、帯状回、海馬 cortibal ribbon sign, gyriform pattern 左右非対称の場合が多い(左右対称の場合は他疾患も考慮必要)
・視床:Pulvinar sign(両側左右差対称の視床枕高信号), Hockey stick sign→これら2signsはvCJDにおいて90%程度認めるが、sCJDでも認める
・Gd造影:造影効果は認めない(他の腫瘍などとの鑑別で有用な所見であり、CJDを疑う場合は鑑別の意味でGd造影は実施するべき)
側頭葉内側・海馬には病変を呈しない場合が多い(他の皮質高信号疾患との鑑別点) 下図参照

■CJDでのDWI高信号の分布 Neurology 2011;76:1711

下図:赤(50-65%)>濃い青(35-50%)>薄い青(10-35%) *中心前回はspareされる傾向にある

*参考:痙攣後脳症の画像とCJDの鑑別
・淡蒼球がCJDではあまり高信号にならない
・血流増加をCJDでは認めない
→てんかん重責とCJDは似通った画像を呈するため注意が必要である(個人的にCJDと思ったら結果けいれん重積後脳症の診断に至った症例もあり、それ以降画像の解釈はかなり注意しています・・・。つい皮質が「びかびか」とDWIで高信号だとCJDに飛びつきたくなってしまいますが特徴がCJDと合致するかどうか確認することが重要です。)

*DWIはかなり感度が高いことが知られており、症状が出現する前偶然撮像されたMRI検査でDWI高信号の指摘があり、のちにCJDの臨床像を呈した症例報告があります(JNNP 2011;82:942)。
→従来のWHOのCJD診断基準は頭部MRI検査が項目に組み込まれておらず、発症早期には感度の低い脳波所見や、特異度に欠ける14-3-3蛋白などの比重が高い点が問題点として挙げられます(今後の改訂に期待です)。

■遺伝子検査:CJD疑いでは必ず実施します。

鑑別診断と誤診

CJDはまだまだ特異的なバイオマーカーが確立しきっていないため、誤診が多い疾患と思います。鑑別の一覧と、CJDと誤診してしまった症例また実はCJDであった症例を剖検例から検討した報告を掲載します。

■生前臨床からCJDと診断したが剖検でCJDではなかった症例のまとめ Ann Neurol 2011;70:437

結果
・1106例の脳剖検(2006-2009年)のうち352例(32%)はCJDではなかった
・うち71例(23%)は治療介入可能な疾患であったとされており、内訳は以下の通りです。
 免疫介在性疾患 26例:Primary angitis of CNS 7, ADEM 6, Limbic encephalitis 6, Sarcoidosis 4, PCD 2, Wegener 1
 腫瘍 25例:Primary CNS lymphoma 8, IVL 8, Leptomeningeal lymphoma 2, glioma 5, leptomeningeal carconoma 
 感染症14例:真菌 Coccidioides 3, Aspergillus1, Cryptococcus neoformans 1, Viral 5, 寄生虫 round worm2, その他 2
 代謝性 6例:Wernicke encephalopathy 3, その他3。
・治療介入困難な疾患:アルツハイマー型認知症154例、血管性認知症36例、FTLD9例、海馬硬化症5例、DLB4例、HDLS3例、PSP3例など

考察
・CJDの認知によりCJDがoverdiagnosedになっていることがある→全体の約1/3程度は誤診
treatableな疾患をきちんと除外する姿勢が必要である
・WHOの診断基準は必ずしも早期診断に適しているわけではない
・初発症状は認知機能障害のみ
#誤診の原因1:RPD(rapidlly progressive dementia)の鑑別はCJD以外もたくさんあり
#誤診の原因2:14-3-3蛋白の特異度は高くないが、過剰に信じてしまう (acute neuronal damageを反映しているだけであって、プリオンに対して特異的なわけではない)その他橋本脳症やVGKC脳炎がPrion mimickingな症例として報告がある

■剖検の結果CJDと判明した97症例のまとめ Arch Neurol 2012;69:1578

結果
・こんどは上記と逆で生前診断はCJDではなかったが、剖検の結果CJDと判明した症例をまとめた報告。
・誤診:ウイルス性脳炎、傍腫瘍症候群、うつ、末梢性めまい、アルツハイマー型認知症、脳卒中、非特異的な認知症、CNS vasculitis、末梢神経障害、橋本脳症

考察
・診断基準が早期の症状に対して感度が不十分である
・14-3-3 proteinに比重が置かれすぎている
・頭部MRI検査でのDWIの重要性

診断基準

感染対策

通常の非侵襲的な診療、看護、介護などでプリオン病が感染する科学的根拠はない。
感染性が高い組織:脳,脊髄,脊髄神経節,三叉神経節, 硬膜, 視神経,網膜,下垂体
(血液はvCJD以外ではなし、 sCJDでは報告例なし)*脳脊髄液は「感染性が低い組織」に該当
空気感染、飛沫感染、接触感染なし
歯科治療、口腔内組織での検出はなし
髄液検査:ゴーグル着用
通常の紫外線、消毒液では死滅しない(オートクレーブ、ホルマリン、グルタルアルデヒド、エタノール、紫外線などでは不完全)

1:プリオンを完全に不活性化する方法
 高温による焼却
2:感受性実験動物に対する伝達性を失わせるレベルの不活性化
 次亜塩素酸ナトリウム、高濃度アルカリ洗浄剤、SDS/NaOH
3:不完全な不活性化
 オートクレーブ、3%SDSボイリング、NaOH、中濃度アルカリ洗浄液、過酸化水素ガス滅菌
4:ほとんど不活性化されない
 過酢酸、SDS、過酸化水素水、酵素洗浄剤
*不完全な不活性化であっても組み合わせることで伝達性を検出限界以下にすることが可能である。したがって、実際に不活性化を行う場合、複数の不活性化法を組み合わせて行う事が強く推奨される(1C)。

参考文献
・Pract Neurol 2011; 11: 19–28
・プリオン病感染予防ガイドライン(2020年版)
・Lancet Neurol 2021; 20: 235–46

管理人記録:T.M先生からご指摘頂きLancet Neurology 2021;20:235で記載されている診断基準を追記(2021/8/15)。