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筋強直性ジストロフィー myotonic dystrophy

筋強直性ジストロフィーは神経内科の疾患というよりも内科医がみつけるべき疾患という位置づけだと個人的には思っています(頻度もまれではありません)。「なんでこの年で白内障があって誤嚥性肺炎になるの?」、「なんでCKがちょっと高くて不整脈と白内障があるの?」などなど年齢に比してこれはおかしいという臨床的な視点が本疾患を疑うヒントになると思います。

病態/遺伝

1型(DM1)に関して
遺伝形式:AD 遺伝子:DMPK(dystrophia myotonica protein kinase) 第19染色体長腕(19q13)
CTG repeat 通常:5-30回、本症:50-2000回 triplet repeat disease→repeat数と臨床症状は相関するとされている
表現促進現象(anticipation):特に父親からの遺伝で世代ごとに症状が重症化する(DM1のみで、DM2にはなし)

分類
先天型(CDM: congenital):発症~生後4週間、リピート数>1000、筋緊張低下(floppy infant)、呼吸不全、哺乳力低下(四肢の筋力低下は軽度の場合があり解離を認めることがある)、顔貌の特徴は逆V字型上口唇(鯉の口: carp mouth 口周囲筋の弛緩による)、精神発達遅滞(ミオトニアを呈するのは4歳以降) DM1のみ(母親罹患95%以上) *胎児期に嚥下障害による羊水過多を呈する場合もある 参考文献:臨床神経 2012;52:1264-1266
・成人(古典)型:今回はこれを中心に取り上げます。

*2型(DM2)は遺伝子CNBP(ZNF9)のCCTG repeatが原因で、1型と異なりrepeat数と重症度の相関関係はない。1型と2型の罹患筋分布の違い(1型は遠位、2型は近位)は下図参照。

臨床像(以下は基本DM1に関して)

筋力低下(特に顔面筋+遠位筋:深指屈筋、前脛骨筋など、進行すると呼吸不全や嚥下障害)と筋強直現象が重要です。呼吸筋は呼気の方が吸気よりも先に障害され、咳嗽力の低下により喀痰喀出がわるくなり肺炎を繰り返す場合があります。 *筋疾患全般へのアプローチ方法に関してはこちらをご参照ください。

患者さん自身は緩徐進行性でもあり症状に対して無自覚のことも多く(これは背景に高次脳機能障害があるためかどうかはわかりませんが)、医療者が積極的に疑う目線を持って診断する疾患といえると思います(なぜこの若年で誤嚥性肺炎を繰り返すの?なんでこんな呼吸器合併症を認めるの?といった臨床的視点)。このため経験ある医師にとっては診断が容易ですが、経験がないとそもそも疑うことが出来ないといった臨床力の差が表れやすい疾患です。

Grip myotonia, percussion myotonia:筋強直性ジストロフィーで認める所見として重要です。以下は自験例の動画です(患者さんから許可取得ずみ)。繰り返すと軽度になる warm up現象(認めない場合はパラミオトニアの鑑別が必要)。

下図はNEJMのimageで取り上げられた舌のmyotonia(NEJM 2011;365;15)。舌の上に舌圧子をのせてそこをハンマーでたたくことで誘発します。

斧様顔貌(hatchet face):側頭筋と咬筋の萎縮によって側頭部がえぐれて西洋斧(hatchet)の様な顔になることが語源のようです。胸鎖乳突筋萎縮により細長い印象も持ちます。経験のある先生はこの特徴的な顔貌だけで一発診断してしまう疾患です。*岐阜大学神経内科さんのホームページに非常に詳しい解説がありましたので、こちらをご参照ください。

多臓器合併症

myotonic dystrophyはとにかく合併症が多いことが有名で代表的なものを以下にまとめます。私自身もなぜか若年で誤嚥を繰り返し、肺化膿症になってしまった症例で原因検索の結果筋強直性ジストロフィーがみつかった症例を経験しています。集学的なアプローチが重要になってきます。

・心臓:伝導障害、不整脈、心筋症
・呼吸器:拘束性換気障害、呼吸調節障害(睡眠時無呼吸・中枢性低換気)
・中枢神経:無気力、無関心、認知機能障害、白質病変、日中過眠、精神発達遅滞、学習障害、注意欠陥
・内分泌/代謝:耐糖能異常、高インスリン血症、脂質異常症、甲状腺機能障害、性腺ホルモン異常、不妊
・消化管:嚥下障害、便秘、イレウス、巨大結腸、胆石
・眼:白内障、網膜色素変性症、眼球運動障害
・耳:感音性難聴、中耳炎、副鼻腔炎(鼻咽腔閉鎖不全) 口腔衛生不良→誤嚥により注意
・骨格系:頭蓋骨肥厚、後縦靭帯骨化症
・腫瘍:悪性腫瘍発生率は一般人口の約2倍とされている
・その他:前頭部禿頭、低IgG血症

*死因:呼吸器感染症・呼吸不全が最も多い Neurology 1999;52:1658

検査

採血検査:CKは軽度上昇(数百単位程度)のことが多い(4桁の場合は外傷や他の合併を疑う)

遺伝子検査:確定診断に必要です。現在(2021年6月27日時点)は外注(BMLこちらのホームページ参照)で可能です。遺伝子検査で診断がつけられるため、筋生検が必要になることは通常ありません。

針筋電図:安静時での“myotonic discharge”が国家試験でも紹介される有名な所見(急降下爆撃音)です。筋由来の放電で、バイクのエンジンをふかしたときのように「ぶおんぶおーん」と周波数が変化することが特徴です。また”myotonic discharge”≠筋強直性ジストロフィーであり、必ずしも一対一対応の関係ではない点に注意です(その他の筋疾患でも”myotonic dischage”を認める場合があるが、目立たない)

こちらの動画が分かりやすいです。https://www.youtube.com/watch?v=vh2e_Y4IxX8

針筋電図に関してはこちらもご参照ください。

画像所見側頭極白質のT2WI高信号を認める場合(下左図)がありますが、これは認知機能障害との相関関係はないとされています。(ちなみに下右図は頭蓋骨肥厚)

*参考:側頭極のT2高信号病変を呈する疾患 神経梅毒・筋強直性ジストロフィー・CADASIL・ALSの一部など

*筋生検は非翻訳領域だと特異的な所見を得られにくいため通常必要なし

治療

現時点では根本的な治療法は存在しません。

参考文献
・「筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン2020」日本神経学会
・Front Neurol. 2018 May 2;9:303. doi:10.3389/fneur.2018.00303. よくまとまったreviewで分かりやすいです。