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Small fiber neuropathy: SFN

病態

・Small fiber neuropathy(SFN)は末梢神経線維の中でもAδ線維(有髄)・C線維(無髄)を障害するもので、臨床的には疼痛・自律神経症状を主体症状とします。
・症状としては灼熱感・針で刺すような痛みを訴え、夜間や温熱で増悪、allodyniaを認めるア場合や温痛覚低下を認める場合があります。
・診察では大径有髄線維が関与する筋力・深部腱反射・触覚・深部感覚は障害されません
・神経伝導検査は大径有髄線維を調べる検査なので純粋なSFNでは異常所見は指摘できません。
・神経障害の分布はlength-dependentの場合とnon-length-dependentの場合があります(length-dependentとnon-length-dependentの比は3~4:1程度で報告されています)。non-length-dependentな分布に関しては後根神経節の障害が機序として推定されています。
・このように他覚的な所見に乏しい点から「心因性」と片付けられてしまう可能性が高いためまずsmall fiber neuropathyの概念を知っておくことが重要です。

原因

SFNの原因として以下のものが挙げられます(Muscle Nerve 53: 671–682, 2016より引用)。

・特発性 30-50%程度は原因が分からない場合がある
・代謝:糖尿病(原因として最多1/3程度→経過とともにlarge fiberも障害される)、VitaminB1,B12欠乏、甲状腺障害、慢性腎不全、高脂血症
・感染:HIV, HCV, Chagas病
・自己免疫:Sjogren症候群、線維筋痛症、SLE、血管炎、サルコイドーシス
薬剤・中毒:メトロニダゾール, リネゾリド,シプロフロキサシン, フレカイニド、 TNF阻害薬,タリウム, 鉛、スタチン、化学療法(ボルテゾミブ)、アルコール、ビタミンB6中毒、HIV治療薬
・傍腫瘍性:多発性骨髄腫、M蛋白血症、肺癌
・遺伝性:Fabry病、Naチャネル疾患、遺伝性感覚自律神経ニューロパチー(HASN)、FAP(家族性アミロイドーシス)、ポンペ病
・炎症性:Guillain Barre syndrome
・その他(まれ):パーキンソン病、Pompe病、FXTAS、benign-fasciculation syndrome、セリアック病、Wilson病、ALS、副腎白質ジストロフィー、critical illness

検査

以下の検査項目の提出を検討します。

■採血検査
 内分泌代謝:HbA1c、甲状腺機能、VitaminB1,12,ホモシステイン、葉酸、(αガラクトシダーゼ活性)、(ポルフィリン)(TTR遺伝子検査)
 異常蛋白関連:免疫電気泳動、IgG,A,M
 感染症:HIV,HBV,HCV
 自己免疫:ANA, SSA, SSB, RF、ANCA、(抗ガングリオンAch受容体抗体)、(抗グリアジン抗体)、ACE、クリオグロブリン、sIL2R、ESR、CRP
 傍腫瘍関連:抗Hu抗体、抗CV2抗体、抗VGKC抗体など
■尿検査:沈渣、免疫グロブリン(BJP)
■胸部レントゲン検査
■髄液検査
■神経伝導検査:large fiberの障害がないかどうか?
■皮膚生検:IENFDを調べることがsmall-fiber neuropathyの診断におけるgold standardです
■QSART:皮膚の汗腺に分布する自律神経節後線維の評価に有用
*悪性腫瘍関連を疑う場合→腫瘍検索
*アミロイドーシスを疑う場合→生検部位を選択

以下がSFNを疑い検査をすすめていくフローチャートです。

■non-length-dependentのSFNに関してまとめ Muscle Nerve 45: 86–91, 2012

・クリーブランドクリニックで皮膚生検でintraepidermal nerve fiber density evaluationを受けたSFNをnon-length-dependentの63例とlength-dependentの175例に分けて検討した報告です。non-length-dependent-SFNの分布に関しては顔面22.2%、上肢57.1%、手52.4%、下肢55.6%、足57.1%、体幹20.6%と報告されています。
・NLD(non length dependent)-SFNの原因は41.3%(26/63)で同定され、内訳は糖尿病15.9%(10人)、膠原病9.5%(6人: RA3人、MTCD1例、SLE1例、Sjogren症候群1例)、甲状腺機能障害6.3%(4人)、サルコイドーシス4.8%(3人)、ビタミンB12欠乏症3.2%(2人)、異常蛋白血症関連1.6%(1人)となっています。
・LD(length-dependent)-SFNの原因は48.6%(85/175例)で同定され、内訳は糖尿病37.7%(66人)、甲状腺機能障害10.3%(18人)、異常蛋白血症関連4.0%(7人)、膠原病2.3%(4例)、ビタミンB12欠乏2.3%(4例)、乾癬1.1%(2例)となっています。
・この結果では免疫関連(下図のimmune-mediated conditionsはNLD-SFNがLD-SFNと比べて有意に多い結果でした)。
・NLD-SFNのうち4例は免疫治療としてIVIGが実施されていますが、2例で効果あり、残りの2例では効果がなかったとされています。

参考文献
・Muscle Nerve 53: 671–682, 2016 SFNに関する素晴らしいreviewです。
・Lancet Neurol 2017; 16: 934–44 こちらもSFNに関する素晴らしいreview