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神経サルコイドーシス Neurosarcoidosis

サルコイドーシス患者のうち約5-15%が神経サルコイドーシスを合併するとされています。しかし、全身性のサルコイドーシスを有している患者が神経症状を呈したからといってその原因が神経サルコイドーシスとは限らないという点が神経サルコイドーシスの診断の難しい点です。また神経サルコイドーシスの10-30%は全身症状を伴わずに神経症状のみで発症するため、全身症状を伴っていないからといって神経サルコイドーシスを除外することは出来ません(これも診断が極めて難しいです)。可能な限り組織生検をすることが望まれますが、特に中枢神経のサルコイドーシスの場合は侵襲度の問題もあるため施設毎にアプローチがやや異なるかもしれません。

脳神経障害

神経サルコイドーシスの症候として最も多いものが脳神経障害で以下に報告をまとめます。

■頭蓋底病変を呈する神経サルコイドーシスに関してのまとめ Otology & Neurotology 2014;36:156-166

神経サルコイドーシス305例をまとめた非常に大規模な報告で、62%で全身性のサルコイドーシスがあり、38%が神経サルコイドーシスから発症しています。発症から診断までの期間は26.6ヶ月、58%は初発症状が脳神経障害をきたしています。障害された脳神経としては、視神経>三叉神経>顔面神経>内耳神経の順に障害されています(下図参照)。両側性の障害をきたす場合もあることが特徴で(神経サルコイドーシスによる両側性顔面神経が有名です:顔面神経麻痺に関してはこちらをご参照ください)、また脳神経麻痺を発症する患者の半数程度(44%)が複数の脳神経障害をきたすことが指摘されています(多発脳神経麻痺に関してはこちらを、また神経サルコイドーシスによる視神経障害に関してはこちらをご参照ください)。

末梢神経障害

サルコイドーシスによる末梢神経障害のパターンは多発単神経障害(multiple mononeuropathy)が有名です。サルコイドーシスによる末梢神経障害57例(男性31例、女性26例、発症年齢51.6歳、24-80歳、脳神経障害のみを除く)の検討では以下の通で、必ずしも多発単神経障害だけでなく多発神経根症(polyradiculopathy)を呈することもあることが特徴です(Journal of the Neurological Sciences 244 (2006) 77 – 87)。以下に分類をまとめます。
・polyradiculoneuropathy 22例(39%)
・polyneruopathy 19例(33%)
・polyradiculopathy 9例(16%)
・multiple mononeuropathy 6例(11%)
・radiculoplexus neuropathy(lumbosacral) 1例(1.8%)

P-NSS(positive neuropathic sensory symptoms)が56/57例に認め最も多く、発症日が具体的に特定できる場合が多いとされています。またこの疼痛が前景に立つためその他の感覚鈍麻や運動障害が目立たない場合があるともされています。基本的には左右非対称、non-length depnedentの障害を認め、近位の障害も多く認めます。時間経過では急性もしくは亜急性での発症を51/57例で認め、慢性(緩徐進行性)の発症経過を6/57例で認めています。その他の随伴する末梢神経障害としては脳神経障害が20例、胸髄領域の神経根症を10例で認めており、その他の臓器障害としてはCNS12例、肺32例、皮膚15例、眼9例、全身症状28例となっています。

髄液検査は蛋白上昇が26/31例(13-510mg/dL)、細胞数上昇が10/31例(1-471/μL)、糖減少が3/31例(14-64mg/dL)で認めたとされています。血液検査ではACE上昇12/43例となっています。

神経伝導速度検査では通常軸索障害を示しますが(43/49例)、まれに脱髄を呈する場合もあり(ここでは3例の報告があります)長期経過だとCIDPとの鑑別が問題になるケースもあるようです。針筋電図では傍脊柱起立筋のdenervationを20/43例で認めており、やはり近位での障害が示唆される結果になっています。

また神経生検の適応としても重要です。同時に短腓骨筋の生検も行います。

多発神経根症に関しては胸髄領域に多発神経根症を呈することがある点が特徴として挙げられることと(胸髄領域のradiculopathyは糖尿病、帯状疱疹、サルコイドーシスを鑑別に挙げる 多発神経根症に関してはこちらをご参照ください)、ギラン・バレー症候群に類似した症例報告も多くあり(例:Muscle Nerve. 2011 Feb;43(2):296-8.)ギラン・バレー症候群を当初疑った場合も髄液細胞数上昇がある、IVIGの治療反応性が悪い、再燃するなどの場合は神経サルコイドーシスを考慮するべきと思います。

■Sarcoidosisによるpolyradiculopathy17例のまとめ 引用:Muscle Nerve 22: 608–613, 1999

受診時年齢は33歳(17-48歳)、男女比は1.4:1、受診時下肢筋力低下が71%(12/17例)、近位筋>遠位菌に筋力低下を認め、膀胱直腸障害を35%(6/17例)に認めた。下肢深部腱反射は59%(10/17例)で消失。全例胸髄神経根もしくは腰髄神経根を障害していた、頸髄は1例のみで障害していた。背部痛、下肢痛を8例で認め、頚部痛を1例で認めた。疼痛は通常数日別持続する鈍い背部痛。
髄液蛋白は326mg/dL(50-1145)、glucose 41.6 mg/dL(20-165)、細胞数156(5-575)/μL。
針筋電図は6例で急性脱神経の所見を認めた。14例中9例はステロイドにより症状の改善を認めた。

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まとめると以下の場合に神経サルコイドーシスによる末梢神経障害を疑うべきと思います。
多発単神経障害(最も古典的に有名)
ギラン・バレー症候群やCIDPを疑うも髄液細胞数が上昇している場合
多発神経根症(polyradiculopathy)、特に胸髄領域の場合

脳実質

頭痛、脳症、痙攣、水頭症、下垂体機能不全などを臨床的には呈します。

髄膜炎(肥厚性硬膜炎 pachymeningitis・軟髄膜炎 leptomeningitis)

肥厚性硬膜炎の画像は下図の通り 下図の様に硬膜に沿った腫瘤を形成する場合や、硬膜肥厚、造影増強効果を認める場合もあります。肥厚性硬膜炎のまとめに関してはこちらもご参照ください。

特にmeningiomaに類似した画像も呈する場合が報告されており注意が必要です。

軟髄膜炎の画像は以下の通り 軟髄膜に沿って「つぶつぶ」とした結節状の造影増強効果を認めることがサルコイドーシスの特徴的な画像所見です。血管周囲腔に沿って病変は脳実質内に伸展してくるため、それを反映した画像を呈する場合もあります。

pachymeningitisとleptomeningitisが混在した画像も呈します。

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脊髄症

サルコイドーシス全体の1%以下でまれであるが、脊髄病変で初発する症例もあります(脊髄病変のみのものも存在するとされている)。部位としては頚髄~上部胸髄の報告が多いです。

症状
経過はacute, subacute, chronicいずれの経過もありうる。亜急性~慢性発症の脊髄障害では脊髄サルコイドーシスを常に鑑別に挙げることが重要。別の脊髄疾患のまとめ(こちらをご参照ください)にも記載しましたが脊髄症の中で診断が最も難しい病気(脊髄サルコイドーシス、dAVF、傍腫瘍症候群)のうちのひとつに挙げられます(脊髄生検が困難な場合が多いため)。全身のサルコイドーシスがあるからといって脊髄病変が必ず脊髄サルコイドーシスとは限らない(特に頚椎症性脊髄症との鑑別が重要)。

画像所見
MRI脊髄が全体に腫大→相対的脊柱管狭窄
T1WI:低信号が目立たない
造影:辺縁部優位の造影効果 後部軟膜に造影効果を認めることが特徴的とされる また以下の”trident sign”も有名
長さ:“long cord lesion”の代表的な疾患(NMOSDと鑑別難しい場合もある)
横断像:くも膜下腔から始まり血管周囲空に沿って病変が伸展、脊髄内に伸展するため、脊髄内の体部位局在を反映して、頚髄病変であっても下肢からの神経症状がでることがある(頚椎症性脊髄症は髄節症状から発症することが多いのに対して)

“trident sign” Neurology 2016; 87: 743

■神経サルコイドーシスのliterature reviewまとめ BMC Neurology (2016) 16:220

・神経症状から発症するものが52%と多く報告されています
・全身の臓器障害としては肺67%>眼25%>皮膚21%>関節21%>耳鼻咽喉9%>肝臓8%>心臓6%と報告されています
・脳神経麻痺55%、頭痛32%、痙攣13%、脊髄障害18%、末梢神経障害17%、髄膜炎16%、ミオパチー15%、内分泌障害9%、水頭症9%

鑑別診断

検査

全身のサルコイドーシス検索と神経サルコイドーシスの検索において下記の検査を検討します。髄液検査に関しては細かくなるため別途まとめました。

採血検査:ACE、リゾチームはいずれも感度、特異度は優れていない ちなみにサルコイドーシスではCRPは陰性で発熱を認める経過を呈する場合が多いです(*参考:CRP陰性の発熱:IgG4関連疾患、SLE、サルコイドーシス、無菌性髄膜炎、抗IL6モノクローナル抗体投与中の感染症などが鑑別)

髄液検査:各種鑑別目的 神経サルコイドーシスの髄液検査所見に関してはこちらをご参照ください。

心電図・心エコー検査:心サルコイドーシス検索目的

眼科コンサルテーション:ぶどう膜炎の評価目的

BAL(気管支肺胞洗浄):CD4/CD8比の検出

造影CT検査:肺門部・縦隔リンパ節などのリンパ節腫腫脹がないか?肺野に異常所見がないか?(肺野はHRCTを実施するべき)

造影MRI検査:脳実質・脊髄いずれにおいても造影MRI検査が病変検出に有用(単純MRI検査ではなく)

ガリウムシンチもしくはFDG-PET/CT検査:生検部位の決定のために重要

生検:サルコイドーシスの確定診断に必須です“Tissue is the issue”。部位としては以下の臓器が生検の候補として挙げられます。筋生検・末梢神経生検・TBLB・皮膚生検・リンパ節生検(体表リンパ節、縦隔リンパ節は縦隔鏡で行う方法もあり)・心臓(侵襲度が高く普段はあまり施設による)など。

治療

治療に関してはこちらをご参照ください。

今後も追加の内容をアップデートしていく予定ですのでどうぞよろしくお願い申し上げます。