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初期研修 何を基準に研修先の病院を選ぶか?(医学生向け)

この記事は医学生の方向けに、初期研修マッチング先の病院を決める際の参考になればと思い書かせていただきました(医学の内容ではありません)。この記事の内容はあくまで管理人の個人的な経験に基づいた意見なので、私とは全く違う意見も沢山あると思います。このためあくまで一個人の意見として参考にとどめていただければと思います。

また初期研修で求めるものや将来のビジョンによっても初期研修の選び方は大きく変わってきます。
1:既に○○大学病院の△△科に入局すると決めており、初期研修でもほとんど△△科を選択するつもりである。
2:後期研修が重要だから初期研修はそこまで力を入れようと思っていない。
上記のような先生方にとっては以下の私の話はほぼ意味がないと思うので予め謝罪させていただきます。申し訳ございません。今回はどちらかというと「何科に進むかどうか迷っている」、「進む科は決めているけれどgeneralな能力や各科の基本的な対応能力を身に着けたい」という方向けの話になるかと思います。具体的な病院名を挙げると色々角が立つので(市中病院が良いか?大学病院が良いか?や都会が良いか?田舎が良いか?という議論も角が立つため)、あくまで「このような条件を兼ね備えた病院が個人的には良いと思う」という内容を書かせていただきます。

もちろん一番重要なのは本人の気概であり、環境が最も重要な訳ではないことは予め断っておきます。

1:救急の研修が充実している

初期研修で身につけるべき最も重要な事項は何か?と問われると、私は「バイタルサインの異常にアプローチすることができるようになる」ことを挙げます。具体的には「意識障害」や「ショック」、「酸素化低下」、「頻呼吸」、「発熱」、「頻脈・徐脈」などへのアプローチがある程度できることが非常に重要と思います。もちろん100点のアプローチである必要はなく、初期対応で60点がとれれば十分と思います。

これはたとえ将来眼科に進んだとしても、入院中担当している患者さんに急変が起こった場合対応するのはまず主治医の自分です。このためある程度の初期対応ができる必要が何科にすすんでもあります。

この能力を3年目以降の専門研修中に1から身につける時間は到底ありません。3年目からは各科の専門的な内容を身につけるので毎日が必死であり、改めて1から「ショック」の鑑別を勉強する時間など忙しくてありません。このため、逆に申し上げると初期研修中しかこれらの症候へのアプローチをじっくりと学ぶ期間は無いということです。

そしてこの「バイタルサインの異常へのアプローチ」を学ぶのに最も適している場が「救急」です。個人的には特に3次救急は重症患者が多いため向いていると思いますが、もちろん2次救急でもその様な勉強は十分できると思います。このため、救急の研修が充実しているか?が1つ研修病院を選ぶ際の非常に重要な点になると個人的には考えています。

特に「救急科ローテート以外の期間にも救急外来を初期研修医が担当できるか?」、「救急のファーストタッチは研修医がさせてもらえるか?」、「きちんと上級医に相談できるフィードバックシステムがあるか?」などが重要な点だと思います。

2:Commonな疾患を沢山診療する機会がある

初期研修中に学ぶべき疾患は何か?と問われると、私は「虫垂炎」「肺炎」「心不全」などのcommonな疾患をしっかり診察することを挙げたいと思います。専門的な疾患は専門課程(後期研修以降)に学べば良いと個人的には思います(おそらく違う意見も多いと思いますが・・・・)。例えば、潰瘍性大腸炎の治療内容を知っているよりも虫垂炎を初診できちんと診断できることの方が重要ですし、POEMS症候群の診療ができるよりも頚椎症性神経根症の診療ができる方が重要で、肺癌の化学療法のレジメンを覚えるよりも肺炎の基本的なアプローチや抗菌薬の使い方を身につける方が初期研修においては圧倒的に重要だと思います。Commonな疾患へのアプローチに習熟して初めて、その非典型例がわかってきたり、更にまれな病態へのアプローチが身についてくると思います

3年目以降になると病院によっては内科系は内科全科の当直をしないといけなかったり(糖尿病内科だけれどFNの対応をしないといけない)、外科系は外科全科の当直をしないといけなくなる場合があります(腹部一般外科だけれど整形外科の骨折の対応をしないといけない)。初期研修中に1例も「虫垂炎」を救急外来で経験しないで、3年目からいきなり救急外来当直で「腹痛」の患者さんをきちんと診療できることは到底思えません。これも逆に申し上げると各科のcommon疾患を十分に学ぶには初期研修しかなかなかチャンスがないということです。

そのためにはCommonな疾患が沢山来る病院を初期研修先に選ぶべきと個人的に思います。これは具体的には地域の中核病院が該当するかと思います。田舎では中規模以上の大きさの病院になると必然的に地域の中核病院となるため、疾患のvariationに事欠くことは少ないかと思います。都会では病院が多い地域などでは病院ごとに疾患の偏在があるかもしれないため注意が必要です(例えば腫瘍患者が非常に多いが救急はあまりやっていない病院など)。

3:研修医にある程度の裁量権が与えらている

近年は初期研修医を守る、医療安全という名目から初期研修医の裁量権が全国的に減ってきていると思います(これは如実に感じます)。つまり「研修医の先生はそもそもこれをやってはいけない」という範囲が拡大しているということです。もちろん研修医の先生方の負担が大きくなりすぎることは避けなければいけませんし野放し状態は避けないといけませんが、病院によっては「そもそも○○を研修医はしてはいけない」という施設もあるため、それだとどうしても成長の機会が制限されてしまいます

もちろん初期研修医は責任は取れない訳なので上級医と相談することが必要ですが、ファーストタッチを研修医の先生ができる環境が整備されていないとなかなかスムーズに症例経験を増やすことは難しいです。後医は名医は本当にそのとおりで、裏を返すとファーストタッチで正しい判断をすることが最も難しいということです。このファーストタッチを自分でアセスメントしないと、上級医が入院させた患者さんをただ漫然と診療するだけになってしまいます。学生の延長線上のお客さん的な扱いで初期研修を過ごすことは非常にもったいない時間の過ごし方なので、ある程度研修医に裁量権を与えてくれるように自分からアピールするべきですし、この裁量権という点に関して施設を選ぶ際には参考にして良いと思います。

もちろん野放し状態はいけませんが、ある程度の裁量権(このある程度というバランスがまた難しいのですが・・・)を研修医に与えてくれる病院は逆に「研修医を信頼してくれている」という意味でもあるので考慮するべき点と思います。

4:1人でよいからよく教えてくれて尊敬できる指導医がいる

野球で考えると、ただボールをぽんぽん投げていてもピッチングは一向に上達しません。コーチや指導者が正しくピッチングフォーム矯正してくれることで投球が上達していきます。臨床も独りでフィードバックや指導がない環境で上達することは100%ありません。「なんで呼吸回数をきちんと数えていないんだ」「なんで尿量をフォローできていないんだ」「なんで頚静脈の高さを測定していないんだ」「何でこの貧血を無視しているのか?」など自分がつい流してしまったことに対して指導・ツッコミがくることで臨床の質は上がっていくと思います。これも3年目になってから初期研修中に正しく厳しく指導されてきてきたか?そうでないか?という点に如実に臨床力の差が現れます。

そして臨床力が向上する過程では必ず優れた指導者に出会うものです。このような指導者が1つの病院に沢山いればもちろんそれに越したことはないですが、1つの病院に自分が尊敬できる医師が1人いれば十分なのではないかと個人的には思います。「自分は十分にできるなー」と思った瞬間に成長は止まるので、常にそう思わせないように刺激をくれる指導者がいる環境は非常に重要と思います。

5:研修医同士の仲が良い・勉強会がある

初期研修を一緒に過ごした仲間・戦友は一生の友になります。私は「社会人になったら友達なんてそうそう出来ないものなのかな・・・?」と学生の時は漠然と思っていたのですが、この考えは間違いでした。初期研修の生活は学びも多いとともにしんどい面も多いです。その時に一緒に乗り越えられる同期がいることはとても重要です。

病院見学に行くとそこの初期研修医の先生に病院内を案内してもらうことが多いと思いますが、そこで「研修医の先生同士の仲が良さそうか?」、「楽しそうに研修をされているか?」は2年間という短く長い初期研修医生活を切磋琢磨する上で非常に重要と思います。

勉強会を開催している研修病院も多いですが、ただ形式的になっていないでやはり重要なのは研修医が主体的に開催しているかどうか?です。切磋琢磨しながら学べる環境はなかなかないので、ぜひこの点も参考にしてよいと思います。

+α:個人の体力

「働き方改革」の波は全国に届いています(?)が、世の中にはまだ「旧体制(?)」の非常にマッチョな病院がいくつかあります。「自分は体力があまりないけれど頑張って月に13回当直がある病院で研修しよう」と思うのは私の個人的な意見としては避けた方が良いと思います。初期研修中はもちろん必死に勉強するべきですが、体力には確実に個人差があり、それは体力が無いから責められるものではありません。体力が無い人は無い人なりの学び方が十分に可能です(私も体力が人より劣るためどう工夫すればより効率的に学ぶことができるか?を日々考えながら勉強していました)。体力的に無理な環境に身をさらすのは避けたほうが懸命と思います。

くどいですが一番重要なのは本人の気概であり、環境が最も重要な訳ではありません。ただあくまで少しでもよい研修にするための個人的な意見として参考になれば幸いです。色々な先生の意見があると思いますので、いろいろな先生の意見を聞いて悔いの無い決断をしていただければと思います。