注目キーワード

PSP-PAGF pure akinesia with gait freezing

歩行のhesitationやfreezingが前景に立つがパーキンソン病に典型的な振戦や固縮が目立たない臨床病型としてPSP-PAGF(pure akinesia with gait freezing)が知られています。個人的にはかなり特徴的な臨床像と思っており、いままできちんと調べられていなかったので既報を調べたものをまとめます。PSP全般に関してはこちらをご参照ください。

PAGFをPSPのphenotypeとして報告した論文 Mov Disord 2007;22:2235–2241

Brain bank cohortを利用してPAGFに関して7例をまとめており、うち6例は剖検所見がPSP-tau病理と合致したというPAGFの端緒報告です。PSPはこの報告まではPSP-RS, PSP-Pが知られていましたが、このPAGFもPSPの3番めのphenotypeとして分類されています。

61歳(44-78歳)、病期間は中央値13年(5-21年)、歩行障害、書字障害、構音障害が初期症状として認め、パーキンソン病に典型的な安静時振戦や筋固縮は認めないことが特徴とされています。眼球運動障害は発症から中央値9年で出現するとされています。自然経過をまとめたものが下図の通りです。

提唱されたPAGFの診断基準は以下の通り。これらは血管性パーキンソニズムや典型的なパーキンソン病を除外することを意識して作成されています。
■認めるもの
・緩徐発症
・早期の歩行や会話が開始しづらい状態(freezing)
■認めないもの
・L-DOPAへの持続的な反応性
・振戦
・画像所見:ラクナ梗塞や深部白質虚血(Binswanger病)を示唆する所見
■最初5年間は認めないもの
・四肢筋固縮
・認知症
・核上性眼球運動障害
・脳卒中による急性の神経巣症状の病歴

Mayo clinic30例のPAGFの経過・自然歴に関してまとめた報告 J Neurol (2016) 263:2419–2423

30人(男性18人、女性12人)、年齢中央値74歳(53-83歳)(PSPの病理診断はついておらず臨床像だけからの判断です)。歩行障害以外の症状としては、書字の変化43%、書字が汚くなる(小字症随伴しないものが13%、小字症を随伴するものが10%)、小字症のみ17%、構音障害40%、認知症7%、垂直性眼球運動障害0%と報告されています。また元々指摘があるように歩行障害だけでなく、構音障害書字障害も随伴することがあることが示唆されます。診断から杖などの歩行補助具を使用するまでの期間は中央値4年(1-10年)。発症からの転倒までの期間に関しては下図の通りです。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: image-158.png

画像検査では一部に脳室拡大を認めましたが、その他は典型的なPSPに特徴的である中脳被蓋の萎縮などは認められませんでした。治療反応性に関しては、L-DOPAを23/30例で投与されていますが他覚的な改善は1例もなく、自覚的な軽度の改善を2例で認めたとされています。

歩行障害が主体で発症し、その他の神経所見を伴わない場合(構音障害と書字障害を除く)、PDよりもPAGFの可能性を考慮するべきとしています。PDで初期の症状としてgait freezingが前景に立つことはめずらしく、病初期2年間で7%しかgait freezingを呈さないとされています(10年以上の経過では25-60%で認める)。経過で今回のコホートではPSP-RSに移行したものはなく、経過もPSP-RSよりも緩徐進行性であることが示唆されます。

PAGFの画像所見はPSP, PDとどう違うのか? Journal of Neurology (2020) 267:752–759

PAGF9例、PSP-RS26例、PD93例のMRI画像を比較検討したstudyで熊本大学の先生方からの報告です。橋の面積、中脳の面積、両者の比、SCPの幅、MCPの幅などを比較検討しています。以下がパラメーターそれぞれの測定方法。

下図の様にPAGFでは橋/中脳面積の比が唯一有意差を検出しています(PSP-RSよりも有意に小さく、PDより有意に大きい)。

この報告からもやはりPAGFは典型的なPSP-RSの様な画像を呈する訳ではないことが推察されます。

■PAGF患者さんの動画 Journal of Clinical Movement Disorders (2017) 4:15

下のビデオでは部屋から出るタイミングなどでfreezing of gaitを認めますが、通常歩行はほとんど正常で、tandem gaitも出来ています。しかし姿勢反射障害は強いです。この時点では眼球運動障害ははっきりしません。

上ビデオの6年後のビデオです。bradykinesiaやrigidityが明瞭になっており、眼球運動障害も呈するようになっております。